映画館の売店で千円使われても、その千円が映画館の利益になるわけではありません。商品を仕入れる費用を引いた後にも、人件費や賃料、設備を維持する費用が残ります。集客企画を考える企業担当者が知りたいのは、入場料と売店の売上がそれぞれどこまで費用を負担できるか、そして告知に使う予算を何人の追加来場で回収できるかです。2026年に公表された通期決算と国内の十年の統計を使い、売上、特定費用を引いた残額、営業利益を分けて読みます。
この記事で分かること
・2025年の国内興行収入は2019年を上回りましたが、入場人員は同じ水準まで戻っていません。 ・映画興行部門の営業収入とチケット収入の差額を、すべて飲食売上とは呼べません。 ・米国映画館の開示例では売店仕入費率18.9%。残る81.1%には、まだ人件費などの負担があります。 ・仮の追加来場100人で、対象費用控除後の残額と集客費の回収条件を試せます。
チケット代が配給会社や製作者へ渡る仕組みは、映画の興行収入と配分に整理しています。本稿では、その先の映画館運営と、来場を増やす施策の採算に範囲を絞ります。店舗や施設の宣伝を担当する人にも、売上目標から制作予算を組み立てる際の比較材料になります。
映画館の売上を読むときは、収入の範囲を先にそろえる
興行収入、映画興行部門の営業収入、営業利益は、それぞれ集計しているものが違います。
チケット、売店、館内広告では売上の発生源が違う
東宝の2026年2月期決算説明資料は、映画興行の収益源としてチケット、飲食・物販の売店、上映前のスクリーン広告を挙げています。作品を観るための支払いと、館内での商品購入、広告を出す企業からの収入が、映画館運営の中で発生する構造です。東宝・決算説明資料、IR用語集107ページ
この違いは、告知施策の売上を予測するときに効いてきます。追加の来場者にチケット販売が発生しても、その全員が売店で購入するとは限りません。逆に、同じ人数でも購入する商品や数量が変われば売店収入は動きます。館内広告についても、来場者が増えた人数にそのまま単価を掛けて、同額の広告収入が増えると置くことはできません。契約に応じた売上の発生条件を確かめる必要があります。
したがって、最初に作る予算表ではチケット、売店、その他収入を分けます。各欄に「追加来場で動く金額」と「今回の施策では変わらない金額」を記入し、契約が不明な欄は未確認のまま残します。売上を大きく見せるために、既に決まっている年間広告契約の収入を今回の告知成果へ足すと、制作費を回収できたように見えてしまいます。
営業収入から興行収入を引いても、飲食単独の値にはならない
同じ東宝の資料では、2026年2月期の映画興行部門は営業収入97,585百万円、営業利益16,579百万円です。ここでいう部門全体の収入や利益を、そのまま飲食売店の数字として使うことはできません。用語集でも売店には飲食と物販が含まれ、館内広告という別の収益源も示されています。東宝・決算説明資料13・107ページ
公開資料からの読み取りと、企画担当者が別途確認する項目を分けると、次のようになります。これは当社による資料の読み方の整理であり、各社に共通する会計分類を定めた表ではありません。
| 見る項目 | 確認できること | その値だけでは分からないこと |
|---|---|---|
| 国内の興行収入 | チケット収入の市場規模 | 売店や館内広告を含む総売上 |
| 映画興行部門の営業収入 | その会社の部門の収入規模 | 飲食だけの売上と利益 |
| 売店収入と仕入費 | 開示された費用を引いた残額 | 人件費・賃料控除後の利益 |
| 部門の営業利益 | 部門として費用を負担した結果 | 個別劇場・商品の利益率 |
この表から分かるのは、細かい内訳を知りたいほど、合計額の引き算だけでは足りなくなることです。飲食商品の企画なら商品別原価を、上映企画なら作品別の精算条件を、施設全体の集客なら共通費の扱いを確かめる。求める判断に合わせて資料を一段深く読む順番になります。
売店単独の営業利益や、特定劇場の配給会社との精算比率は、今回確認した公開資料では確認できません。その部分を「業界では一律」と補わず、以下では開示された米国の費用比率と、条件を明記した仮定計算を使います。
十年の市場統計では、興行収入と来場回数が違う動きをする
国内の2025年興行収入は2019年を上回る一方、入場人員は2019年を下回り、売上の回復と来場回数の回復が一致していません。
2015年から2025年までを同じ統計で比べる
日本映画製作者連盟の過去データ一覧から、変化を追うための五つの年を抜き出しました。興行収入は百万円を億円に、入場人員は千人を万人に換算した、当社が計算した値です。平均料金は資料の公表値をそのまま使っています。日本映画製作者連盟・過去データ一覧
| 年 | 興行収入(億円) | 入場人員(万人) | 平均料金(円) |
|---|---|---|---|
| 2015 | 2,171.19 | 16,663.0 | 1,303 |
| 2019 | 2,611.80 | 19,491.0 | 1,340 |
| 2020 | 1,432.85 | 10,613.7 | 1,350 |
| 2024 | 2,069.83 | 14,444.1 | 1,433 |
| 2025 | 2,744.52 | 18,875.6 | 1,454 |
2025年と2019年を比較すると、興行収入は5.1%増、入場人員は3.2%減、平均料金は8.5%増です。いずれも上表から当社が計算した値で、小数第1位に丸めています。「過去の売上を超えたから、来場の量も同じだけ増えた」と読むと、この違いを取り落とします。
十年前の2015年との比較では、興行収入26.4%増、入場人員13.3%増、平均料金11.6%増となります。これも当社が計算した値です。比較の起点を変えるだけで見え方が変わるため、施策提案に都合のよい年を選ぶより、平常時の基準と直近年の両方を置く方が、来場目標の根拠を説明できます。
平均料金の上昇を、同じ券の値上げ幅とは読まない
統計の平均料金は、実際に発生した興行収入と入場人員に対応する平均値です。特定の映画館の一般料金とは別の値で、観客がどの券種や上映を選ぶかによっても動きます。全国平均の増加率を、ある施設の同じチケットの値上げ率として扱うことはできません。日本映画製作者連盟・過去データ一覧
例えば、自社の来場者が割引日の利用に偏っている企画なら、全国の平均料金をそのまま売上計画へ入れると過大見積もりにつながります。実際の販売データから対象日時の平均単価を取り、割引負担を誰が持つかを確かめる方が、広告に使える金額を判断しやすくなります。売店の購入率も同様に、その企画へ来る客層の値で試す必要があります。
もう一つ気を付けたいのは、入場人員が「その年に一度でも映画館へ行った人の人数」を表すとは限らない点です。同じ人が別の回に入場すれば、来場の回数が積み上がります。顧客名簿の人数や会員数と、この統計を同じ分母として扱わないようにします。企業の集客施策でも、初めて訪れた人を増やしたのか、既存客の再来場を増やしたのかを分けておくと、翌月の告知を誰に向けるかが変わります。
売店の仕入費率18.9%でも、利益率81.1%とは言えない
米国の開示例で売店収入から仕入費を引くと81.1%が残りますが、そこから負担する運営費があるため、映画館の営業利益率とは区別します。
同じ会社、同じ年、同じ地域の数字を組み合わせる
Cinemarkの2025年年次報告書では、米国部門の平均チケット単価は10.52ドル、来場者1人当たり売店収入は8.30ドルです。費用では、映画使用料と広告費の合計が入場料収入の58.0%、売店仕入費が売店収入の18.9%と開示されています。集計対象は米国部門の2025年通期で、日本の映画館の標準比率ではありません。Cinemark・2025年年次報告書、冊子30〜31ページ
ここでは元資料の費用項目を縮めすぎないことが大切です。58.0%には映画使用料と広告費が含まれるため、これを「配給会社への取り分58.0%」と書くと、費用の意味が変わります。また、売店側の仕入費率は、特定の飲み物やポップコーン1個の原価率を開示したものではありません。
対象の違いを避けるため、以下の計算は米国部門の値だけで行います。海外部門や連結の平均を一部に混ぜると、単価と費用率の組み合わせが、実在しない部門のものになります。同じ会社の資料の隣り合う列でも、地域別、連結、為替影響を除いた比較という違いがあるため、列見出しと注記をセットで読みます。
1人分に直すと、引いていない費用が見つかる
公表単価へ公表費用率を掛けると、チケット側は10.52ドル×(1−58.0%)=4.4184ドル、売店側は8.30ドル×(1−18.9%)=6.7313ドルです。合計11.1497ドルは、当社が計算した「対象費用控除後の残額」です。丸め済みの公表値を使うため、決算の実額から算出した値と完全には一致しません。計算に使った年次報告書
売店側の残額が大きいことから、来場後の購入が費用回収に関わる構造は読み取れます。ただし、これは実際の営業利益を来場者数で割った値ではありません。人件費、施設賃借料、光熱費などが別項目で残り、その他収入もこの計算から除いています。共通費を売店へどう割り振るかも、この単純計算では決まりません。
この区別は、「売店は高利益率だから、チケットの割引をどこまでも増やせる」という提案を点検する際に役立ちます。割引で来る人が売店を使うか、既存の通常料金の購入を置き換えないか、混雑時に追加の人員が必要か。確認が必要な変数を残したまま、仕入費だけを引いた残額を最終利益として広告予算へ回すことはできません。
また、来場者1人当たり売店収入の分母には、売店で買わなかった来場者も含まれます。同社は売店収入を入場人員で割ると定義しています。したがって8.30ドルを「売店で購入した人の平均会計額」と紹介するのは不正確です。複数人で一つの商品を分けることもあるので、レシート枚数と来場人数を同じものとして扱うことも避けます。同報告書・冊子30ページ注記2
集客費は「追加で何人来たか」から回収を試算する
告知予算を回収できるかは、施策によって増えた来場の残額から、その施策で増えた費用を引いて判断します。
公開比率を使い、仮の追加来場100人で計算する
計算の仕組みを確認するため、先ほどの米国部門の平均値を仮の企画へ当てはめます。追加来場100人、集客費500ドルと仮定すると、対象費用控除後の残額は1,114.97ドルです。そこから集客費を引くと614.97ドルが残ります。実際の企画でこの成果が出たという事例ではなく、公表値を使って当社が計算した例です。
ここでは、集客費500ドルを、決算比率に含まれる広告費とは別に新たに使う費用と置いています。対象費用の平均比率が追加来場にも当てはまる、という仮定も必要です。実際の運営では既に払った固定的な費用と人数に応じる費用が混じるため、この式だけで精密な限界利益を算出したとは扱いません。
同じ500ドルでも、追加来場数が変われば回収の余裕が変わります。下表は他の前提を固定した、当社による仮定計算です。
| 追加来場 | 対象費用控除後(ドル) | 集客費控除後(ドル) |
|---|---|---|
| 30人 | 334.49 | −165.51 |
| 45人 | 501.74 | 1.74 |
| 100人 | 1,114.97 | 614.97 |
計算上の分岐点は500÷11.1497=44.84…人、整数で45人です。ただし45人で残る1.74ドルでは、追加人員や決済費用が発生すれば不足します。表の黒字は、ここで数えた集客費を回収したという意味に限られます。企画全体の採算を出すには、追加営業に必要な費用を洗い出して次の計算へ入れます。
自分の前提へ変えて試す
下の試算機では、追加来場数、売店の平均額、集客費、その他の追加費用を動かせます。初期値は公表値と切りのよい仮定で、費用比率は比較用に固定しています。
対象費用控除後の残額は
ドル
集客費と追加費用を引くと
ドル
Cinemark米国部門2025年のチケット単価10.52ドル、映画使用料・広告費率58.0%、売店仕入費率18.9%を使用。100人・集客費500ドル・追加費用0ドルは仮定。結果は表示上丸められます。その他収入、既存の人件費・賃料・減価償却等は含みません。決算の平均費用率を仮に追加来場へ適用した比較用で、日本の原価相場や実際の営業利益を示すものではありません。
例えば、売店収入を0ドルへ変えると、チケット側の残額だけで500ドルを回収できるか確認できます。初期値の100人では441.84ドルにとどまり、集客費控除後は−58.16ドルです。これも当社が計算した値です。売店収入を見込む計画なら、その見込みを外した場合の結果も確かめてから予算を決めると、売上が予想を下回ったときの不足額が見えます。
ここで入力する「追加来場」は、企画期間中の総来場者数とは異なります。施策をしなくても来る予定だった人を含めると、告知の回収額を大きく見積もります。完全に切り分けられない場合には、総来場から差し引く基準の人数を低め・高めの二通りで置き、結論がどこで変わるかを確認します。推定値を実績と呼ばず、後から実際の来場や販売記録で検証する前提にします。
告知企画を作る前に、客数・購入・追加費用を分けて測る
販促の仮説を確かめるには、来場人数の変化と、来場後の購入の変化を別々に記録する必要があります。
売店単価の上昇だけでは、購入者が増えたか分からない
来場者1人当たりの売店収入は、同じ期間・同じ対象で集計するなら「売店購入者の割合×購入者1人当たり売上」に分けて考えられます。これは比率の定義から得られる式で、業界の購入率を示すものではありません。購入人数を正確に取れない場合は、会計件数で代用した数字と区別し、購入率を確定したように扱わないことが必要です。
仮に来場者100人のうち40人が平均1,000円を買えば、売店売上は40,000円、来場者1人当たり400円です。購入者が50人へ増えて平均額が800円に下がっても、売上は同じ40,000円になります。当社が計算した架空の比較ですが、同じ400円の背後で何が起きたかが違います。商品を見つけやすくしたのか、高いセットの販売が減ったのかで、次の改善は変わります。
コラボ商品なら、商品自体の販売に加えて利用許諾や制作などの費用も確認対象になります。売上増加をそのまま施策の利益に置き換えない考え方は、IPコラボの売上と増分利益でも扱っています。映画館の企画でも、作品が持つ集客力と、自社で追加した告知の効果を一つの数字にまとめない方が、継続の判断を説明しやすくなります。
告知の前後比較では、作品・時間帯・売り切れを記録する
映画館は上映作品や時間帯によって来場条件が変わるため、告知前の一週間と告知後の一週間を比べるだけでは、増えた理由を特定できません。本稿で扱った公表統計も、個別施策の効果を検証したデータではありません。企画担当者が自分の施策を評価する際には、比較する上映回と販売条件を決め、変わった条件を書き残す必要があります。
例えば、広告を出した週だけ人気作品の公開初週だった場合、来場の増加を広告だけの成果にすると予算判断を誤ります。逆に、売店の注文が増えていても商品が途中で売り切れた場合には、売上だけでは需要を捉え切れません。これらは特定企業で発生した事例ではなく、施策の検証時に点検する条件の例です。
次の表は、企画担当者が実施前に書き込むための確認項目です。取得できない値は空欄や未確認として残し、0に置き換えない使い方を想定しています。
| 判断したいこと | 記録する項目 | 比較時にそろえる条件 |
|---|---|---|
| 来場が増えたか | 予約・実来場・キャンセル | 作品、曜日、時間帯、席数 |
| 売店利用が増えたか | 売上、会計件数、販売点数 | 商品、価格、在庫、営業時間 |
| 費用を回収したか | 制作・配信費、追加人件費等 | 今回増えた費用の範囲 |
| 次回も続けるか | 再来場、施策別の収支 | 観測期間と再来場の定義 |
この表から告知の目的を一つ選ぶと、制作物への注文も具体的になります。来場を増やしたいなら日時や上映回へ進める導線を、売店購入を増やしたいなら対象商品や購入できる場所が分かる案内を作る。映像を見た回数だけでは、それぞれの目的を果たしたか判断できません。
当社は縦型ショートドラマの企画・制作とキャスティングを行う立場です。制作現場へ依頼を渡す際も、「売店の売上を上げたい」だけで終わらせず、誰が、いつ、どの商品や上映を選ぶための映像なのかを決めておくと、必要な場面と案内する内容を検討できます。これは制作側からの見解であり、映画館案件の受注実績や売上改善の保証を述べたものではありません。
よくある質問
公表資料を自社の予算へ使うときは、単価・費用率の対象と、実際の契約条件を照らし合わせます。
Q. 映画館はチケットよりポップコーンで儲かるのですか?
今回の米国の開示例では、売店収入から仕入費を引いた残額は、チケット収入から映画使用料と広告費を引いた残額より、来場者1人当たりで大きくなります。ただし売店には複数の商品が含まれ、人件費や賃料なども別に存在します。ポップコーンだけの営業利益や、日本の映画館全体の利益構造までは示していません。商品別に比較するなら、その商品の仕入費、廃棄、販売作業の負担まで確認します。Cinemark年次報告書・冊子30〜31ページ
Q. 入場料を下げれば、売店収入が増えて回収できますか?
回収できるかは、割引で追加された来場数と、その人たちの購入額、割引負担、追加費用によって変わります。既に通常料金で来る予定だった人へ割引が広がった場合は、その分の収入減も計算に入れます。売店の平均単価を既存客と同じに置く場合も仮定であると明記し、購入が少ないケースを合わせて試す必要があります。今回の公表資料だけでは、特定の割引企画の効果は確認できません。
Q. 全国の興行収入が増えたら、映画館の広告予算も増やせますか?
全国の数字は市場の動きを知る資料です。個別劇場の予算を決めるには、対象の上映回に空席があるか、追加来場でいくら残るか、その残額から制作・配信・運営の追加費用を回収できるかを確認します。既に席が埋まる上映へさらに告知する場合と、空席がある時間帯への来場を増やす場合では、施策で増やせる売上が違います。全国の増収率だけを、そのまま自社の広告予算の増額率へ使うことは避けます。
Q. 日本の劇場でも、この試算機をそのまま使えますか?
試算機は米国部門の公開単価と費用比率を固定した学習用です。円への単純換算では、日本の契約条件や費用構造は再現できません。自社の予算表では、実際のチケット精算条件、売店の原価、追加人員の費用へ置き換えて計算してください。今回の式は何を足し引きするかを理解するために使い、国内の相場や自社の見込み利益としては採用しない扱いです。
企画を具体化するときは、上の確認表へ対象の上映回、商品、来場の目標、回収する費用を一度書き出してください。映像でその案内を届ける方針が決まったら、ショートドラマ制作の内容と制作事例で表現を確認し、制作相談では対象客と利用できる素材、告知期間を共有いただけます。収益構造を別の業態でも比較したい方は、エンタメの経済学の記事一覧へ進めます。