POV動画で商品をPRするなら、最初に決めたいのは「誰の立場で、何を体験してもらうか」です。商品が画面に映っていても、視聴者が自分の使う場面を想像できなければ、利用する理由までは伝わりません。

たとえばレジャー施設なら、恋人と過ごす時間と、遊具に乗る体験では見せたいものが違います。前者では相手の表情や会話が中心になり、後者では自分の目に入る景色や動きが中心になる。同じ施設でも、企画の出発点によって必要な映像が変わります。

この記事では、制作会議の内容をもとに、商材に合う体験の選び方から、認知と獲得の分け方、シリーズの作り方まで整理します。

撮影方法を先に確認したい方は、POVドラマの作り方をご覧ください。ここでは、企業の広報・マーケティング担当者が制作会社へ渡す企画の中身を扱います。

POV動画では「何を体験する人か」を決める

POVはPoint of Viewの略で、視点を意味します。本記事で扱うのは、視聴者がカメラを持つ側の立場から、会話や行動を追体験する動画です。ナイトてんしょんのPOVドラマの紹介ページでも、一人称視点を使う形式として説明しています。

商品が登場する場面から、使う場面へ進める

制作会議では、商品PRについて「ただそれが出てきただけだと使っている自分が想像できない」という指摘がありました。美容商材の話から出た論点ですが、企画を確認する問いとして、ほかの商品にも使えます。

流れをつかむ 商品を、利用する場面に変える 1 視点 誰の立場で見るか 2 出来事 何をしてもらうか 3 理解 利用する理由が分かるか
制作会議の論点をもとにした企画の整理。

飲み物を例にすると、出演者がカップを持っている画面では、商品が存在することは分かります。店員がこちらへ好みを尋ね、選んだ飲み物を手渡してくれる画面なら、注文して受け取るまでの体験を描ける。「何が映るか」から「視聴者に何が起きるか」へ考え方を進めると、必要な会話と動作が見えてきます。

当社が自社の制作会議で重視したのも、商品を利用する体験まで描けているか、という判断でした。商品の登場時間を延ばす前に、誰がどの場面で使うかを台本で確かめたいところです。

視聴者と商品の利用者が重なるかを見る

POVのカメラ側を誰にするかによって、伝えやすい情報も変わります。店員から接客を受ける客、先輩に仕事を教わる新人、子どもを連れて施設を訪れた親では、知りたいことも、話しかけられ方も違います。

会議では、視聴ターゲットと出演者のずれも課題に挙がりました。たとえば恋人役との会話が目当てで見られる動画に、視聴者の関心と離れた商品を登場させても、それだけで購入意欲につながるとは判断できません。出演者が人気かどうかと、商品を利用する人の立場を描けているかは、企画書でそれぞれ確認します。

企画の最初の一文は、「初めて来店する客が、店員に相談して飲み物を選ぶ」のように書くと具体的です。「若者に刺さる動画」「没入感のあるPR」といった説明だけでは、撮影する場面を決められません。

商材ごとに、POVで見せる体験を選ぶ

会議では、恋愛POVに加えて職場、旅行、競技、レジャー施設への応用が話題になりました。共通するのは、自分がまだ経験していない状況を、カメラ側の立場から見られることです。

施設では「誰と過ごすか」と「何をするか」を分ける

レジャー施設については、デートや家族の物語と、遊具などを体験する映像の二つの方向が議論されました。どちらも同じ場所を紹介できますが、視聴後に残したい印象が異なります。

デートの物語なら、待ち合わせの緊張や、相手がこちらを気遣う場面を通して「ここで一緒に過ごす時間」を描けます。遊具の体験なら、乗る前の説明、目に入る景色、降りた後の反応などが企画の材料になります。施設名を読み上げるだけの紹介より、自分が訪れたときに何をするかを具体化しやすい設計です。ただし、撮影できる場所や動作は施設の条件を確認して決めます。

一つの動画に両方を入れる場合も、中心となる体験を決めてください。相手との関係が進む話なのか、遊具の様子を見せる話なのかが曖昧だと、どの場面を残すべきか判断しづらくなります。

商品では、使う前後の動作まで書く

会議の論点をもとに、商材別の企画例をまとめました。

商材・目的視聴者の立場描く体験撮影前に確かめること
飲食店への来店初めて来た客好みを伝え、料理を勧めてもらう実際の接客やメニューと合うか
旅行・宿泊到着した宿泊客部屋に案内され、窓から景色を見る紹介する部屋や眺望の条件
レジャー施設恋人と来た人相手と相談し、遊び方を選ぶ施設の紹介が会話の中で伝わるか
採用広報入社直後の新人分からない作業を先輩に相談する実際の仕事内容と支援の範囲
美容商材商品を選ぶ人使い方を教わり、使用手順を見る誰が使う商品か、何を映像で示せるか
イベントへの来場初めて参加する人受付を済ませ、参加の流れを知る実際に受けられる対応と合うか

手に取る、開ける、置く、相談する。こうした動作を入れると、商品の利用場面を画面で説明できます。一方、香りや触感、長く使ったときの変化などは、映像だけで確かめられる範囲に限界があります。出演者の反応だけで効果が実証されたように見せず、確認できる使い方と商品の情報を伝えてください。

認知と獲得では、動画の役割を分ける

会議の後半では、アイドルのPRを題材に認知を取る施策と獲得につなげる施策を分ける、という論点が出ました。この区別は、店舗やサービスの動画を企画するときにも役立ちます。

同じ軸で比較 目的に合わせて見せる場面を選ぶ 目的 認知 獲得 見る人 初めて知る 利用を検討 見せ方 気になる会話 利用時の体験 次の行動 店を調べる 予約へ進む
認知と獲得、それぞれを目的とする動画の企画例。

初めて見る人には、興味を持てる場面を用意する

まだ商品や出演者に関心がない人へ届ける動画では、目の前の会話や状況から見始められる入口を考えます。たとえばカフェなら、注文に迷った客と店員のやり取りから始める。店の沿革を知らなくても話についていけて、会話の中で商品の選び方も分かる構成です。

会議では、肩書きを知らなくても人物を好きになる入口を作れないか、という案が出ました。たとえばアイドルのPRなら、まず会話や人柄に興味を持ってもらい、その後で活動を知ってもらう流れです。

入口となる動画では、視聴者が予備知識なしで楽しめるやり取りを考えます。肩書きの説明を先に置かなくても、その人の話し方や相手への接し方から魅力を伝えられます。

予約や来場を促す動画には、利用時の具体像を入れる

すでに興味を持っている人へ向ける動画では、「行ったら何ができるか」「参加するとどう進むか」を見せる方向が考えられます。会議でも、ファンの立場から実際の接触体験を描く案が挙がりました。アイドルを宣伝するなら、会える場面でどんなやり取りがあるのかを、ファンの視点でストーリーにする発想です。

台本には、実際のサービスで受けられる体験と、視聴後に取ってほしい行動をセットで書きます。会える場面を見せた後にイベントの詳細へ案内すれば、視聴者は興味を持った体験について、そのまま調べられます。

TikTok for Businessのストーリーテリング資料も、企画時の問いとして、解決する問題と、視聴後に取ってほしい行動を挙げています。

動画の役割企画で先に決めること確認する反応の例
初めて知ってもらう予備知識なしで見始められる状況視聴の継続、プロフィールへの関心
次の投稿も見てもらう再び見たい人物関係や会話の型投稿に対する反応、フォローの動き
利用を検討してもらう自分が利用する場面と必要な情報サービスページへの遷移、具体的な質問
予約・申込へ進んでもらう動画で示す体験と申込先の対応計測できた予約・申込

企画を並べるときは、それぞれの動画がどの役割を担うかを書き添えます。認知を広げる動画に偏っているなら、実際の利用場面を見せる動画を加える、といった調整に使えます。

再生からフォローへつなぐには、次回への期待を作る

動画を最後まで見た理由と、そのアカウントをフォローする理由は一致するとは限りません。会議でも、強い感情で始まる動画が伸びる理由を話す中で、「単発の再生」と「ファンになること」を分けて考える必要があるという論点が残りました。

冒頭の感情には、話の中で理由を与える

怒っている人、泣いている人など、感情が表に出ている場面から始める案が会議で挙がりました。「何があったのか」という疑問を入口にして、会話の中で事情が分かる構成を考えます。

たとえば店員が困っている場面なら、その後の会話で何に困っていたかが分かり、客とのやり取りが変化するように組み立てます。声を荒げる演技を足しても、商品や体験とつながらなければ、見終わった人には騒がしい場面しか残らない可能性があります。冒頭で生まれた疑問を、動画の中でどう解くかまで台本へ書いてください。

TikTok公式の広告制作ガイドでも、冒頭のつかみ、訴求点、行動を促す締め方を推奨しています。

毎回変える話と、覚えてもらう型を分ける

制作会議では、参加者自身があるアカウントをフォローした理由として、会話の面白さに加え、再びおすすめに出たときに思い出しやすかったことが語られました。毎回の会話形式と終わり方が一貫していた、という観察です。

関係を整理 覚える型を残し、話を変える 固定するもの 毎回変えるもの 人物の関係 今回の困り事 会話の始め方 選ぶ商品 締め方の型 会話の結末
会話の型を残しながら、毎回の出来事を変える企画例。

この観察を企画に応用するなら、人物同士の関係や会話の始まり方など、視聴者が覚えられる要素を決めます。そのうえで、毎回の困り事、選ぶ商品、会話の結末を変える。固定するものと変えるものを分けると、シリーズとして続ける内容を考えやすくなります。

たとえば「初めての客に、好みを聞いて一品を勧める店員」という型なら、客の好みや来店した理由を変えられます。毎回同じ商品の説明を繰り返すだけになっていないか、次の回でも違うやり取りを見たいと思えるかを、複数本の企画を並べて確認します。会話を組み立てる基礎は、ショートドラマの脚本・構成術でも扱っています。

複数シーンのPOVは、時間の変化まで設計する

制作会議では、恋愛の一場面を描くPOVから、交際、プロポーズ、家族になる過程へと場面をつなぐ実験も話題になりました。一人称の短い映像を重ねれば、長い時間にわたる物語を描けるのではないか、という検討です。

場面が変わった理由を視聴者に伝える

同じ出演者が同じ場所で話している映像をつなぐだけでは、どれほど時間が経ったのかを判断しづらくなります。会議では、季節、衣装、ロケーションの変化が必要になり、撮影の手間も増えるという課題が挙がりました。

企画段階では、各シーンが「いつ」「どこで」「どんな関係になった二人」を描くのかを整理します。時間が進んだことを服装で伝えるのか、会話に変化を入れるのかによって、用意する衣装や台詞も変わる。撮影日を決めてから考えると、必要な場面が同じ日に撮れない可能性があります。

短い動画だから一度で撮れる、とは限りません。撮影をまとめるか分けるかは、場面の条件を洗い出してから判断します。発注側の準備は、撮影前の支給リストと期限も参考になります。

没入感のためにPOVを選ぶ判断もある

会議では、複数シーンを組み合わせると制作工数が増える一方、没入感を表現するためにPOVを選ぶ価値がある、という見方が共有されました。撮り方が簡単そうかどうかだけで形式を選ぶと、企画で必要な表現を見落とします。

相手がこちらを見る瞬間や、自分に向けて話しかける声を軸に物語を作るなら、一人称視点を選ぶ理由があります。逆に、複数の人物の行動を同時に見せる必要がある場面では、別の撮り方も候補になる。伝えたい関係や出来事から、画面に必要な情報を確認してください。

MVへの応用も会議で挙がりました。楽曲に合わせて、どの関係の変化を描くか、どの場面をつなぐかを考えると、一人称の視点を物語に生かせます。

撮影前に埋めたい、POVのPR企画シート

ここまでの論点を、制作会社へ渡す項目にまとめました。本記事が提案する記入用のひな形です。撮影技法の指定から入るより、誰が何を体験するかを先に共有すると、企画の不足を話し合いやすくなります。

企画書には、体験と実際のサービスを並べて書く

項目記入する内容カフェを想定した記入例
視聴者どんな状況の人に見てほしいか店の存在をまだ知らない近隣の人
カメラ側の役視聴者を誰の立場に置くか初めて来店し、注文に迷う客
相手役誰がどう接するか好みを聞いて飲み物を勧める店員
体験視聴中にどんな出来事が起きるか相談して選び、商品を受け取る
伝える商品情報視聴後に何が分かればよいか甘さや温度など、選べる内容
現実との対応実際に提供できる内容か店舗の接客・メニューと照合する
動画の役割認知・再視聴・利用検討など初めて知ってもらう
次の行動見た後にどこへ進んでほしいか店舗情報を確認する
シリーズの型続ける場合、何を固定するか注文に迷う客と店員の会話
制作条件撮影場所・必要な人や物店内、店員役、飲み物、食器

カフェを想定した記入例です。実店舗で撮る際は、メニューや接客の内容を担当者と確認し、実際に利用できるサービスを台本へ反映します。

企画書を渡した後は、出演者、商品、カメラの位置が決まった段階でも見直します。文章では成立していた動作が、画面では手に隠れて見えないこともあります。商品情報を伝える場面を、台詞だけで説明できたことにしないよう注意が必要です。

投稿後は、目的に対応する反応を確認する

動画の評価は、先に決めた役割と照合します。認知を目的にした動画なら、どこまで見られたか、商品や人物に関心を持つ反応があるかを確認します。申込を目的にした動画なら、案内先への遷移や、計測できた申込まで追います。再生数だけでどちらも成功と判断すると、直す箇所を見失います。

TikTok for Businessのクリエイティブガイドも、視聴時間、クリック、コンバージョンなどを使った改善を案内しています。本記事では、これをPOV企画の振り返りに応用し、「どの体験を見せた動画に、どんな反応があったか」を残すことを勧めます。

取得できる指標や投稿単位で追える範囲は、利用する媒体・配信方法・計測設定で変わります。アカウント全体のフォロワー増を、特定の動画の効果と決めつけないことも必要です。新しい企画を試す際は、投稿期間や広告配信の有無も記録し、比較の条件を確かめてください。

POV動画のPRでよくある質問

POV動画は恋愛系の商品にしか使えませんか?

恋愛以外にも、接客、職場、旅行、施設での体験を描く案が考えられます。今回の会議でも、こうした応用先が挙がりました。採用する際は、視聴者をどんな立場に置くと商品やサービスが理解しやすいかを確認します。

商品を持って話すだけでもPOVのPRになりますか?

一人称視点の場面としては成立しても、商品の使い方や利用する理由が伝わるかは別に確認が必要です。受け取る、相談する、使ってみるなど、視聴者の立場から経験できる出来事を台本へ加えられるか検討してください。

認知と申込を、一つの動画で狙ってもよいですか?

両方を企画に含めることはできます。その場合も、初めて見る人が話を理解できるか、利用を検討する人に必要な情報があるかを、それぞれ確かめます。すべてを説明しようとして会話が長くなるなら、入口となる動画と具体的な利用を描く動画に分ける方法があります。

フォロワーが増えてから商品を紹介すべきですか?

フォロワー数に加えて、視聴者が何に興味を持って見ているかを確認します。人物に親しんでもらう段階なら会話を中心にし、利用への関心が見えたら具体的な体験を描く、といった進め方が考えられます。

POVなら撮影や制作の負担を減らせますか?

必要な場面によります。一つの場所の会話と、季節や衣装が変わる複数シーンでは準備が異なります。会議でも、時間経過を描くと制作工数が増える点が課題になりました。POVという名称だけで費用や日程を決めず、台本に必要な場所・出演者・衣装を整理して見積もります。

再生されているのに、フォローや申込が増えない場合は?

次も見たいと思える人物関係や会話があるか、利用時の体験と案内先がつながっているかを確認します。企画の目的、実際の視聴反応、計測できる行動を並べ、どこを変えるか検討してください。

次の企画では「利用する自分」が浮かぶ場面を書く

制作会社へ相談するときは、紹介したい商品とともに「視聴者にこの立場で、この出来事を体験してほしい」と伝えてください。施設の魅力を紹介したいなら、一緒に行く相手との時間を描くのか、施設内でできることを描くのかまで決める。それだけでも、撮るべき会話と動作の候補を具体化できます。

ナイトてんしょんでは、POVを含むショートドラマの企画・制作・SNS運用を行っています。商材に合わせた視点や利用場面を相談したい方は、POVドラマの制作・運用をご覧ください。

参考資料と関連記事

外部資料は、TikTokのストーリーテリング資料、広告クリエイティブの推奨事項、クリエイティブの企画・評価ガイドを参照しています。

撮影の実務はPOVドラマの作り方、会話の構成はショートドラマの脚本・構成術、撮影準備は発注側が用意するものをご確認ください。ショートドラマの設計図の記事一覧にも、企画から運用までの解説をまとめています。