発注が決まったあと、いちばん多く来る質問が「こちらで何を用意すればいいですか」です。制作会社側が「特にありません、企画が固まったらご連絡します」と答えてしまう案件があり、そういう案件はほぼ確実に撮影の3日前に慌てます。

先に結論を書きます。発注側が用意するのは、商品そのもの・ロゴとブランドの指定・出演者の衣装・持ち込む既存素材・社内でしか答えられない情報の5つです。このうち撮影を物理的に止めるのは商品現物、公開後にやり直しになるのはロゴ指定と持ち込み素材です。危険度が違うので、渡す順番も期限も分けて考えます。

撮影の前に何を用意すればいいか具体的に詰めたい場合は、企画の段階からお問い合わせください。企画を渡す段階の情報はショートドラマ制作のオリエンで渡す情報、撮る場所の決め方はショートドラマの撮影場所にまとめています。この記事は、その2つが決まったあとに動く「モノとデータ」の話です。

発注側が用意する5つと、その期限

まず全体像です。期限は撮影日を起点にした逆算で書いています。

流れをつかむ 支給物は、撮影日から逆算する 1 企画時 社内だけが持つ情報 2 台本の前 持ち込む写真・動画・音源 3 1週間前 商品・サービスの現物 4 3日前 社員の衣装・制服 5 撮影日 ロゴとブランド指定
詳しい条件・補足を読む

渡す期限は、撮影日からの逆算で決まる

企画の時

社内でしか答えられない情報

遅れると台本の確認が往復し、撮影日が後ろへずれる

台本の前

持ち込む既存素材(写真・動画・音源)

使えないと後で判明すると、構成から書き直しになる

1週間前

商品・サービスの現物

間に合わないと、そのカットが撮れず撮影日そのものが動く

3日前

出演する社員の衣装・制服

まとめ撮りの案件では全話に影響する

撮影日

ロゴデータとブランドの指定

編集開始前でよいが、遅れると修正が1周増える

モノは「送ればいい」と分かるので忘れないが、情報は聞かれるまで待ってしまう

用意するもの 渡す期限の目安 間に合わないと起きること
商品・サービスの現物 撮影の1週間前(台本確定と同時) その商品が出るカットを撮れない。撮影日そのものが動く
ロゴデータとブランドの指定 編集開始前(撮影日でよい) 編集後に差し替えになり、修正が1周増える
出演する社員の衣装・制服 撮影の3日前 画がそろわない。複数本まとめ撮りだと全話に影響
持ち込む既存素材(写真・動画・音源) 台本を書く前 使えないことが後で判明し、構成から書き直しになる
社内でしか答えられない情報 企画の打ち合わせ時 台本の確認が往復し、撮影日が後ろにずれる

この表で一番見落とされるのが最後の行です。モノは「送ればいい」と分かるので忘れませんが、情報は「聞かれたら答える」姿勢で待ってしまい、聞かれるまで動きません。詳しくは最後の章で書きます。

商品の現物は、数量と扱いまで決めて渡す

商品が登場する企画では、現物の受け渡しが工程の起点になります。ここで決めるのは5つです。

  1. 数量:撮影で使う分と、予備。飲食物や使い切りの商品は、テイク数だけ消費します。1カットで済むように見えても、実際は同じ動作を5〜10回撮ります
  2. 予備の考え方:開封して使う商品は、最低でも本番想定の3倍。パッケージの状態を映すなら、未開封の美品を別に1つ確保します
  3. 返却の有無:返すのか、使い切ってよいのか。返却前提なら、貼れないシール・剥がせないラベルは使えません
  4. 使用期限と保管:要冷蔵・要冷凍のものは、撮影場所に保管手段があるかを先に確認します。ここが抜けると当日に買い出しが発生します
  5. 取り扱いの制限:落とせない、傾けられない、屋外に出せないといった条件。精密機器や医療機器では、担当者の立ち会いが条件になることもあります

到着日は「撮影の1週間前」と書きましたが、これは制作側が現物を見て画になるかを判断する時間です。パッケージが小さすぎて縦型画面で読めない、ロゴが光って反射する、色が背景と同化する。こうした問題は、実物を手に取らないと分かりません。前日に届いた商品で、そのまま撮るしかなくなった案件は珍しくありません。

商品が高額・少量生産で送れない場合は、その旨を企画の段階で伝えてください。現物なしで成立する構成に切り替えます。判断が早ければ、企画の選択肢は残っています。

ロゴとブランドの指定は「データ形式」まで揃える

ロゴは、画像を1枚もらえば済むと思われがちな支給物です。実際には次の3点が揃っていないと、編集の最後で止まります。

背景が透明なデータが要ります。WordやPowerPointに貼ってあるロゴをスクリーンショットで切り出すと、輪郭に白い縁が残ります。縦型動画は映像の上にロゴを重ねる場面が多いので、この縁がそのまま画面に出ます。ai・eps・svg のいずれか、無ければ背景透過のpngを、できるだけ大きなサイズで渡してください。

使い方の決まりも要ります。最小サイズ、周囲に空けるべき余白、白背景版と黒背景版の使い分け、変形や色替えの可否。ブランドガイドラインがある会社なら、その該当ページを送るだけで済みます。無い会社の場合は、「これまで社外に出したときの使い方」を1つ見せてもらうのが早いです。

書いてはいけない表記の確認も、ここで一緒に済ませます。社名の正式表記(株式会社が前か後か)、サービス名の英字表記、商標記号の要否、旧ロゴが混ざっていないか。当社では、社名の表記ゆれが編集の最終確認で見つかることが年に何度かあります。テロップは1本の動画に十数枚入るので、1文字の違いでも全画面の作り直しになります。

ロゴの支給が撮影日でよいのは、映像に写り込む看板や什器を除けば、ロゴが登場するのは編集工程だからです。ただし商品パッケージのロゴが小さすぎて読めないというケースは撮影の問題なので、現物と一緒に確認します。

社員が出るなら、衣装は「支給するか」から決める

社員が出演する企画では、衣装の扱いを先に決めます。ここは金額よりも、当日の混乱に直結します。

  • 制服がある業種:サイズ違いを含めて、出演する人数分+1着。撮影中に汚れることがあります
  • 私服で出る場合:色と柄の指定を事前に伝えます。細かいストライプやチェックは、動画にすると画面がちらつきます(モアレ)。ロゴ入りの他社製品も避けます
  • 複数話をまとめて撮る場合:話ごとに服を変えるなら、その分の着替えを持参してもらいます。同じ服で撮ると、視聴者には「同じ日の話」に見えます
  • 支給するかどうか:会社側で用意するのか、本人の私物を使うのか。私物を使うなら、汚損時の扱いを先に決めておきます

誰を出すかの判断そのものはショートドラマの出演者の選び方に、当日の立ち会いで発注者が見るポイントは動画撮影の立ち会いで発注者がやることにまとめています。

持ち込む素材は、権利を確認してから台本に載せる

「過去に作った動画の一部を使いたい」「この写真を挿入してほしい」「社歌をBGMにしたい」。この種の要望は、台本を書く前に出してください。使えるかどうかで構成が変わるためです。

判断は、素材の種類ごとに分かれます。

過去に外注して作った映像・写真:自社に権利があるとは限りません。制作委託の契約書で著作権の譲渡を受けていない場合、作った会社の許諾が要ります。譲渡を受けていても、写っている人の同意が別に必要です。契約書のどこを見るかは動画制作の業務委託契約書に整理しています。

市販の楽曲・CD音源:ここが最も誤解の多い箇所です。YouTube・TikTok・Instagramなどの動画投稿サービスはJASRACと利用許諾契約を結んでおり、投稿する側が個別にJASRACへ手続きをしなくても管理楽曲を使えます(JASRAC)。ただしこれは楽曲の著作権の話だけです。市販CDや配信で買った音源そのものを動画に入れる場合は、レコード会社などが持つ著作隣接権(原盤の権利)の許諾が別に要ります(JASRAC)。「JASRACが処理してくれる」と思って市販曲を入れると、この一点で公開できません。企業アカウントの投稿では、権利処理済みのライブラリ音源を使うのが実務上いちばん安全です。

フリー素材:ライセンスの範囲を確認します。商用可でも、広告への利用が別条件になっているものがあります。

社内で撮った写真:写っている人と場所の同意を取り直します。社内報に載せた写真と、SNSで公開する動画では、公開範囲がまったく違います。

制作した動画を後から広告や採用に転用する話は制作した動画の使い回しにまとめています。持ち込み素材の権利は、転用の可否にもそのまま影響します。

商品の説明で、書けることと書けないこと

支給された商品を映すとき、セリフやテロップで何を言えるかは発注側にしか判断できません。景品表示法は、商品の品質・内容・価格などを偽って表示することを規制しており、規制の対象は表示を行った事業者です(消費者庁)。制作会社に任せて作った動画でも、広告主として表示の責任は発注側に残ります。

そこで、企画の段階で次の3つを渡してもらうと後戻りが消えます。

  • 言い切ってよい効果・性能と、その根拠資料
  • 使ってはいけない表現(過去に社内で止まった言い回しがあれば、そのまま共有してください)
  • 業種特有の規制(化粧品・健康食品・医薬品、金融、不動産、人材など)

法令上の可否の最終判断は、発注側の法務や薬事の担当者、必要なら専門家に確認してください。制作会社が判断できるのは「その表現がどう見えるか」までで、「その表現が言えるか」ではありません。

情報は、聞かれる前に渡すと工程が縮む

モノより効くのに、いちばん忘れられるのが情報の支給です。台本の確認が3往復する案件と1往復で終わる案件の差は、担当者の熱意ではなく、最初に渡された情報の量で決まります。

渡しておくと確認の往復が減るものを挙げます。

  • 社内で使っている呼び方(サービスの略称、部署名、役職の呼称)
  • 出してよい実名と、出せない固有名詞
  • これまでに社内でボツになった企画や表現と、その理由
  • 決裁者が気にしている論点(過去の会議で必ず出る指摘)
  • 承認を出す人の名前と、承認にかかる日数

最後の2つが特に効きます。台本を提出したあと、社内で誰が何営業日かけて見るのかが分かっていないと、撮影日を置く場所が決まりません。社内の承認の回し方はSNS投稿の承認フローに書いています。

支給が遅れると、どこから壊れるか

支給の遅れは、単純に「その日数だけ後ろにずれる」形では効きません。実際にはこう連鎖します。

商品の到着が遅れると、台本の確定が遅れます。台本が確定しないと、出演者のスケジュール確保が確定しません。出演者が確定しないと、撮影日を押さえられません。撮影日が動くと、場所の予約を取り直すことになり、屋外を使う企画では許可の申請日程まで巻き戻ります。3日の遅れが2週間の遅れになるのは、この連鎖のためです。

逆に言えば、支給物のリストを最初の打ち合わせで1枚もらえるだけで、公開までの日数はかなり縮みます。当社では、企画が決まった時点で「いつ・何を・誰から受け取るか」を1枚にして共有し、撮影の1週間前に一度だけ照合しています。この1枚があるかないかで、撮影前日の連絡量が明らかに違います。

納品後に何を受け取るかは動画制作の納品データで受け取るものにまとめています。渡すものと受け取るものを対にして管理すると、案件が終わったときに手元に何が残るかが読めるようになります。

よくある質問

Q. 商品はいつまでに送ればいいですか?

撮影の1週間前が目安です。制作側が現物を見て、縦型画面で読めるか・光が反射しないか・色が背景と同化しないかを確認する時間が要ります。前日到着だと、映り方の問題が見つかっても打つ手がありません。

Q. ロゴは画像でも大丈夫ですか?

背景が透明であれば使えます。資料に貼られたロゴを切り出したものは、輪郭に白い縁が残るため映像には向きません。ai・eps・svg があればそれを、無ければ背景透過のpngをできるだけ大きなサイズでお送りください。

Q. 社員が出る場合、衣装は会社で用意すべきですか?

制服がある業種なら人数分+予備を、無いなら私服で構いません。ただし細かいストライプやチェックは動画でちらつくため、色と柄だけは事前に指定を出してください。私物を使う場合は、汚れたときの扱いを先に決めておくと当日に揉めません。

Q. 好きな曲をBGMに使えますか?

動画投稿サービス側がJASRACと契約しているため、楽曲の著作権については個別の手続きなく使える場合があります。ただし市販CDや配信で購入した音源そのものを使うには、レコード会社などが持つ原盤の権利の許諾が別に必要です。企業の投稿では、権利処理済みのライブラリ音源を使うのが安全です。

Q. 過去に別の会社に作ってもらった映像を使い回せますか?

契約で著作権の譲渡を受けているかによります。譲渡を受けていない場合は、制作した会社の許諾が要ります。譲渡を受けていても、映っている出演者の同意は別に確認が必要です。

Q. 何も用意できないのですが、依頼できますか?

できます。商品現物が出せない、社員も出せないという条件でも、成立する企画の型はあります。ただし条件は企画を決める前に伝えてください。台本が固まってから制約が出てくると、書き直しになります。

まとめ

発注側が用意するものは、次の順で押さえると漏れません。

  1. 企画の打ち合わせで、社内でしか答えられない情報と、使ってはいけない表現を渡す
  2. 台本を書く前に、持ち込みたい既存素材の権利を確認する
  3. 台本が固まったら、商品の現物を数量・予備・返却の条件つきで送る
  4. 撮影の3日前までに、出演する社員の衣装を確定する
  5. 編集に入る前に、ロゴデータとブランドの指定を渡す

この5つは、金額の話ではなく段取りの話です。1つ遅れるだけで工程が連鎖して止まる代わりに、最初の打ち合わせで1枚のリストにしておけば、あとは照合するだけで終わります。

当社は年間再生回数1億5,000万回を超えるアカウント運用の中で、企画から撮影・編集までを自社で回しています。支給物の設計を含めて相談したい場合はお問い合わせください。サービスの内容はショートドラマ制作にまとめています。

参考リンク