2024年11月1日に施行されたフリーランス新法で、出演や配信の仕事を頼む事業者は、仕事の内容・報酬の額・支払期日を書面かメールなどで直ちに示す義務を負いました。俳優や声優、歌い手、配信者の側から見ると、依頼を受けた時点で「条件を文字でください」と言える根拠ができたことになります。この記事では、発注側の義務を、受ける側が契約前に確かめる項目へ置き換えて順に説明します。

対象になるのは、従業員を使わない個人が受ける業務委託

法律の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。厚生労働省の案内では令和6年11月1日施行とされています。

「フリーランス」にあたる条件

公正取引委員会の特設サイトは、この法律で守られるフリーランス(特定受託事業者)を「業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないもの」と説明しています。劇団や事務所に雇用されて給料を受け取っている人は、その雇用関係については労働法の側で守られます。個人として出演料を受け取る俳優、案件ごとに収録に呼ばれる声優、イベントに呼ばれて歌う人は、従業員を使っていなければこの定義に入ります。

「従業員を使用」の意味は公正取引委員会のQ&Aに書かれています。週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用が見込まれる人を雇っている場合です。一般の消費者から直接頼まれた仕事は、相手が事業者でないため対象外です。

発注者の規模と契約期間で、かかる義務が変わる

義務は全部で7項目ありますが、どの発注者にも一律にかかるわけではありません。特設サイトの整理によると、従業員のいない発注者(個人で映像を撮っている監督など)が負うのは取引条件の明示だけです。従業員のいる発注者には、報酬の支払期日、募集情報の的確な表示、ハラスメント対策が加わります。業務委託の期間が1か月以上になると7つの禁止行為が、6か月以上になると育児介護への配慮と中途解除の予告がさらに加わります。

関係を整理 従業員のいる発注者ほど、義務が増える 発注者 かかる義務 従業員なし 取引条件の明示 従業員あり 明示+60日以内の支払 い+相談体制
公正取引委員会の特設サイトの整理をもとに作成 明示は、すべての発注者にかかる

自分の受けた依頼がどこに当たるかは、発注者が会社組織か個人か、期間が単発か継続かの2点でほぼ決まります。1日だけの撮影でも、相手が従業員のいる制作会社であれば、明示と60日以内の支払いは義務になります。

依頼を受けたら最初に確かめる「取引条件の明示」

7項目のうち、すべての発注者にかかるのがこの義務です。

示されるべき事項と、その受け取り方

文化庁のガイドライン改訂版は、この法律で明示が必要な取引条件を列挙しています。業務の内容、報酬の額、支払期日、発注者とフリーランスの名称、業務委託をした日、役務の提供を受ける日と場所です。検査をする場合は検査完了日、現金以外で支払う場合はその方法も含まれます。

明示の手段は紙に限られません。公正取引委員会のQ&Aは、電子メール、チャットツール、SMSのほか、SNSのメッセージ機能で送る方法も認めています。LINEやInstagramのDMで届いた依頼文も、上の事項がそろっていれば明示になります。電話だけで決まった仕事は、その日のうちに「確認のため、内容と金額、お支払日をメッセージでいただけますか」と返すのが現実的な対応です。

報酬額と支払日は、実演家の半数が事前に知らされていない

芸団協(日本芸能実演家団体協議会)が2025年3月に実施した第11回の実態調査の速報は、仕事を依頼される際に事前に知らされた内容を聞いています。実施日などのスケジュールは93.8%、具体的な仕事内容は79.8%、実施場所は72.5%でした。報酬額は49.1%、報酬の支払予定日は18.8%にとどまります。条件を知らされた方法は「メール・SNS」が73.6%、「電話・口頭」が62.7%で、「契約書」は15.4%でした。

数値を比較 日程は9割に届くが、支払日は2割に届 かない スケジュール 93.8% 仕事の内容 79.8% 実施場所 72.5% 報酬額 49.1% 支払予定日 18.8%
出典:芸団協「第11回 芸能実演家の活動と生活実態に関する調査 実演家編 結果速報」(複数回答) 芸団協 第11回調査(2025年3月)

同じ調査で、法律の施行後に依頼される立場で何が変わったかを聞くと、「何も変わっていない」が51.8%、「まだ具体的な変化はわからない」が27.6%です。法律の名前も内容も知らないと答えた人が25.1%います。条文ができても、受ける側が求めなければ慣行は動いていない、というのが2025年春時点の数字です。

報酬の支払期日と、7つの禁止行為

お金に関わる規定は2つあります。いつ払われるかの期限と、払う段階でしてはいけない行為の列挙です。

支払いは出演した日から60日以内

従業員のいる発注者は、役務の提供を受けた日から数えて60日以内の、できる限り短い期間内に支払期日を定めて支払う義務があります。出演の仕事であれば、撮影や本番の日が起点です。「作品が公開されてから」「クライアントから入金があってから」という決め方は、60日を超えるなら認められません。

事務所や制作会社を経由する再委託には例外があります。文化庁のガイドラインによれば、再委託であること、元の委託者の名称、元の委託の支払期日を明示した場合に限り、元の支払期日から30日以内に期日を定められます。間に会社が入る仕事では、誰から誰への委託なのかを最初に聞いておくと、自分の支払日がどの規定で決まるのかが分かります。

1か月以上の委託で禁じられる行為

特設サイトが挙げる禁止行為は、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用の強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更とやり直しの7つです。出演の仕事に引き寄せると、本番後に「予算が減ったので」と出演料を下げる行為は減額に、チケットの買い取りを出演の条件にする行為は購入強制に当たる可能性があります。

権利の扱いも関係します。ガイドラインは公正取引委員会と厚生労働省の「考え方」を引き、業務委託の目的の範囲を超えて知的財産権を無償で譲渡・許諾させる行為は、不当な経済上の利益の提供要請に該当すると説明しています。撮った映像が当初の予定にない広告へ転用される場合は、その対価を別に話し合う余地があります。

契約が長くなるほど増える、就業環境の義務

出演の現場で起きる問題はお金に限りません。法律の後半は、ハラスメントと契約の打ち切り方を扱っています。

流れをつかむ 期間が延びるほど、発注者の義務が積み 上がる 1 単発でも 条件の明示・60日以内の支払い 2 1か月以上 7つの禁止行為(減額・買いたたき等) 3 6か月以上 30日前の予告・育児介護への配慮
公正取引委員会の特設サイトの整理をもとに作成 従業員のいる発注者の場合

ハラスメントの相談先を、契約前に聞いておく

従業員のいる発注者は、ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化と周知、相談に応じる体制の整備、起きた後の迅速な対応を講じる義務があります。相談したことを理由とする不利益な取扱いも禁じられています。ガイドラインは、演出を理由とした性的な言動、過度な露出の強要、深夜早朝に及ぶ長時間の業務を、この分野で実際に生じている問題として挙げています。

芸団協の調査では、依頼の際に「ハラスメント等の相談可否」を知らされた割合は、比較的高い現代演劇でも12.4%でした。制作会社として出演を依頼する側の当社から見ても、相談窓口を契約の時点で伝えておくことは、撮影が始まってから揉めないための準備になります。聞く側は「何かあったときの連絡先はどなたですか」と一言添えるだけで足ります。

6か月以上の契約は、30日前の予告が要る

6か月以上続く業務委託を途中で解除する場合や、更新しない場合、発注者は少なくとも30日前までに予告しなければなりません。予告から契約終了までの間にフリーランスが理由の開示を求めれば、発注者は理由を示す義務があります。レギュラー出演や、月ごとに更新される継続の仕事が該当します。特設サイトは予告の方法を、書面、ファクシミリ、電子メール等としています。口頭で終了を告げられただけの場合は、日付の入ったメッセージを求めてください。

同じ6か月以上の委託では、育児や介護と仕事を両立できるよう、申出に応じて必要な配慮をすることも義務です。6か月未満の委託では努力義務になります。トラブルになった場合の相談先として、厚生労働省はフリーランス・トラブル110番を案内しています。

法律の外側を埋める、2つの公的な文書

法律が直接求めるのは条件の明示までで、契約書に何を書くかまでは決めていません。その部分を補う資料が文化庁と公正取引委員会から出ています。

文化庁のガイドラインが、契約で明確にするよう求める項目

文化庁の「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(検討のまとめ)」は2022年7月に公表され、法律の施行に合わせて2024年10月29日に改訂されました。契約で明確にすべき基本的な項目として、業務内容、報酬等、不可抗力による公演等の中止・延期による報酬の取扱い、安全・衛生等、権利、契約内容の変更の6つを挙げています。

中止と延期については、契約の段階で発注者と受注者が十分に協議し、契約書に記載しておく必要があるとしています。中途解約の条項は双方に対等に定めるのが公平であり、著しく過大な損害賠償額を設定しないよう留意を求めています。別添には「実演家の出演に関する契約書のひな型例及び解説」が付いています。届いた契約書をこのひな型と見比べると、抜けている項目に気づけます。

ライブ配信事務所との契約は対象になるのか

内閣官房と公正取引委員会が2025年9月30日に公表した「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」は、指針の本文の注で、対象とする実演家にタレント、声優、動画配信者を広く含むとしています。そのうえで、実演家がフリーランス新法の「特定受託事業者」に該当する場合には、契約を書面で行わないことや報酬の一方的な決定が同法に違反する可能性もあると述べています。どのような場合に該当するかは「個別の契約の実態を踏まえて判断する」とされており、事務所所属の配信者が一律に対象になる、または対象外になるとは書かれていません。

指針は事務所側に、専属義務の期間をあらかじめ契約で明確にすることや、契約内容を十分に説明することを求めています。当社が運営するKAIMAKUも配信者と契約を結ぶ事務所の立場にあります。応募・面談・所属は0円で、配信のノルマはありません(目安として月50時間以上を推奨しています)。どの事務所を検討する場合でも、費用、配信時間の義務、契約期間、辞めるときの手続きの4点は、面談で質問して文字で受け取ってください。配信の始め方はTikTok LIVEの条件と収益の仕組みで扱っています。

  • 仕事の内容と実施日・場所を、メールや書面など残る形で受け取った
  • 報酬の額が、交通費などの経費を含むかどうかまで分かる
  • 支払期日が、日付か「出演日から何日以内」の形で示されている
  • 発注者の正式な名称と、誰から誰への委託なのかが分かる
  • 中止・延期になった場合の報酬の扱いを確認した
  • 撮影した映像や音声が、どこで、いつまで使われるかを確認した
  • ハラスメントやトラブルが起きたときの相談先を聞いた
  • 継続の仕事の場合、途中で終わるときの予告と精算を確認した

まだ口約束に近い状態です。上の3つは、フリーランス新法が発注者に明示を義務づけている事項です。依頼をくれた相手に、内容・金額・支払日をメッセージで送ってもらうところから始めてください。

法律が求める最低限はそろっています。残っているのは、中止・延期と映像の使用範囲など、文化庁のガイドラインが契約で明確にするよう求めている項目です。現場に入る前に一度質問しておくと、後からの交渉が要らなくなります。

契約前の確認はできています。受け取ったメッセージや書面は、支払いが終わるまで消さずに保管してください。条件が途中で変わったときは、変更後の内容も同じ形でもらいます。

よくある質問

Q. 口約束で受けた出演の仕事も、フリーランス新法の対象になりますか

口約束であることは、対象から外れる理由になりません。法律は、事業者が従業員を使わない個人に業務を委託した場合に、発注者に取引条件の明示を義務づけています。口頭で決まった場合は、発注者が内容・報酬額・支払期日を書面かメール、SNSのメッセージなどで送る必要があります。届かないときは、受ける側から送付を頼んで構いません。

Q. 報酬が支払われないときは、どこに相談すればよいですか

厚生労働省が案内しているフリーランス・トラブル110番が、契約や報酬のトラブルの相談を受け付けています。法律違反が疑われる場合は、公正取引委員会の特設サイトにある違反の申出窓口を利用できます。依頼のメッセージと、約束された金額・支払日が分かるものを用意して相談してください。

Q. 事務所に所属していると、この法律は関係なくなりますか

所属の契約が雇用であれば労働法、業務委託であればフリーランス新法や独占禁止法が関係します。公正取引委員会の指針は、該当するかどうかを個別の契約の実態で判断するとしています。自分の契約書の表題と、報酬の決まり方、指示の受け方を確認し、判断がつかなければフリーランス・トラブル110番に契約書を見せて相談してください。

次の依頼が来た日にやること

次に出演や配信の依頼が届いたら、返信の前に、内容・報酬額・支払期日の3つが文字で書かれているかを見てください。欠けているものがあれば、引き受ける返事と一緒に「確認のため、金額とお支払日をこのメッセージでいただけますか」と頼みます。明示は発注者の義務なので、頼むことに遠慮は要りません。収入全体の組み立ては表現者の収入の実態と収入源の組み方に、ほかの記事は表現者の生存戦略の一覧にまとめています。縦型ショートドラマを制作し、自社の作品に出演者をキャスティングする当社の立場から見ても、この3つが最初に文字でそろっている依頼は後から認識がずれにくく、双方にとって安全です。このメディアを運営している人間はメンバー紹介に載せています。