芸団協(日本芸能実演家団体協議会)が2025年3月に実施した第11回の実態調査では、実演家の昨年1年間の個人収入の中央値は「200〜300万円」で、全体の約54%が300万円未満でした。しかもこの金額には、芸能以外の仕事で得た収入が含まれています。3人に1人は芸能以外の仕事もしており、出演・教える仕事・その他の仕事を組み合わせて生活を立てている姿が数字に出ています。この記事では、公的な調査で確認できた数字を先に並べ、後半で自分の1か月を計算する手順に進みます。
芸団協の第11回調査が示す、実演家の年収
芸団協は1974年から5年ごとに、実演家とスタッフの活動と生活を調べています。最新の第11回は2025年6月に結果速報が公開されました。
個人収入の中央値は200〜300万円
実演家編の速報によると、2024年1月から12月の税込みの個人収入は「100〜200万円未満」が21.1%で最も多く、「200〜300万円未満」が19.0%、「100万円未満」が14.4%と続きます。「300〜400万円未満」は12.5%、400万円以上は各階級を足すと32.3%です。中央値は「200〜300万円」で、300万円未満の層は、2019年に実施された第10回の50.4%から54.5%に増えました。
設問は「芸能以外の仕事による収入も含む」総収入を聞いています。アルバイトや会社勤めの給料を足した後の数字が、この分布です。ジャンル別に見ると差があります。現代演劇は100万円未満が9.8%、100〜200万円未満が28.1%、200〜300万円未満が34.6%で、合計すると300万円未満が7割を超えます。映画、放送・スタジオ、外国映画・アニメなどの分野をまとめた「メディアなど」は同じ合計が約4割で、速報も伝統演劇とメディアを高収入の傾向があるジャンルとして挙げています。
この数字を読むときの注意
調査の対象は、芸団協の正会員団体とその傘下の団体に所属する実演家です。配布数10,089に対して回収数は1,424、回収率は14.1%でした。回答者の平均年齢は51.7歳で、活動を始めてからの年数は平均32.2年です。団体に所属せず個人で活動する20代の歌い手や配信者は、この調査の主な回答者ではありません。
若い世代や配信者に絞った公的な収入調査は、公表されているものを見つけられませんでした。そのため、ここに並べた数字は「長く続けてきた実演家の現在地」として読むのが適切です。活動を始めてから報酬が得られるようになるまでの平均年数は10.1年で、現代演劇、演芸、メディアなどでは5年未満と短めだったことも、速報は示しています。
収入はどこから来ているか
年収の総額よりも、内訳のほうが自分の計画に使えます。速報は収入を仕事の種類別と、報酬の形式別の2通りで聞いています。
出演が3割、教える仕事が2割、芸能以外が2割強
速報の活動別収入の設問で、昨年1年間の年収を仕事の種類で分けた平均の割合を見ると、舞台・コンサート・ライブなどの出演とスタッフ業が31.4%、教える・指導する仕事が20.4%、映画・放送・メディアの出演が7.5%です。「上記以外の収入(芸能に関連しない仕事を含む)」は23.4%で、出演に次ぐ大きさです。年金が4.9%あるのは、回答者の年齢構成を反映しています。
ジャンルで偏りがあります。演芸は出演が64.7%、メディアなどは映画・放送の出演が48.5%を占めます。洋舞は教える仕事が34.6%、芸能に関連しない仕事を含む収入が40.5%でした。現代演劇は出演46.4%に対して、芸能以外を含む収入が22.4%です。伝統演劇と演芸を除くと、最大の収入源でも平均で5割に届きません。収入が2種類以上に分かれている形が、多くのジャンルの平均像です。
3人に1人が芸能以外の仕事をしている
昨年1年間に行った仕事として「芸能活動以外の仕事」を挙げた人は33.1%で、第10回の24.6%から増えました。洋舞では50.2%、現代演劇では41.8%です。速報は、芸能活動以外の仕事(事業経営、パート・アルバイトなど)に費やした日数を166.8日、技能を維持するための研鑽やトレーニングを158.3日、教える仕事を99.7日、舞台などの本番を58.0日と示しています。数十分の仕事も1日と数える集計で、平均の母数が全員なのか該当者だけなのかは速報の表からは読み取れませんでした。
報酬の形式では、雇用による月給や年俸が34.4%、業務委託で仕事に応じて支払われる報酬が34.2%、自ら主催する事業運営の収入が12.7%です。メディアなどでは業務委託の都度払いが63.4%に達します。都度払いの比率が高い人ほど月ごとの入金が揺れるので、後半で扱う月単位の計算が必要になります。
コロナ禍前と比べた収入と、配信の仕事
第11回調査は、2019年と比べた変化を複数の設問で聞いています。
芸能活動からの収入は、4割が減ったままか、なくなった
同じ速報で2024年の芸能活動からの収入を2019年と比べた回答を見ると、「変わらない」が34.8%、「増えた」が22.7%でした。「25〜75%程度に減った」「活動はしているが収入はなくなった」「芸能活動はやめた」の合計は41.0%です。仕事の種類別では、出演・スタッフ業が減ったと答えた人が47.0%、映画・放送・メディアの仕事が減ったと答えた人が43.8%にのぼります。ジャンル別では、メディアなどと演芸で「増えた」の割合がやや高く、「変わらない」と合わせて約5割でした。
仕事量や機会に満足していないと答えた人は62.0%で、第10回より30.5ポイント増えました。安心して活動に取り組むために必要なこととしては、「報酬等の条件向上」が68.3%で最も多く挙がっています。
増えたと答えた人が多いのは、インターネット配信の仕事
減少の回答が並ぶ中で、インターネット配信される動画コンテンツの仕事は「大幅に増えた」「増えた」の合計が41.8%でした。2020年以降の変化として「オンライン配信が増えた」を挙げた人は37.9%、「SNSやブログなどの活用が増えた」は36.9%です。インターネットで配信される独自番組の収録をした人は、第10回の5.0%から9.2%になりました。
この設問が聞いているのは、配信される番組や動画への出演を含む広い意味の「配信の仕事」です。個人のライブ配信のギフト収入だけを切り出した数字は、速報にはありません。個人配信の仕組みと条件はTikTok LIVEを始める条件と収益の仕組みで、公式の情報に沿って説明しています。
フリーランス全体の数字と、続ける人の割合
実演家の多くは、統計の上ではフリーランスに含まれます。国の統計と、続ける意思についての回答を確認します。
本業がフリーランスの人は209万人(2022年)
総務省の令和4年就業構造基本調査の解説によると、2022年10月時点で本業がフリーランスの人は209万人、有業者に占める割合は3.1%でした。副業のみフリーランスの人は約48万人です。この調査が基幹統計としてフリーランスを把握したのは、この回が初めてです。職業を実演家に絞った集計ではないため、俳優や歌い手が何人いるかはここからは分かりません。
契約の面では、2024年11月にフリーランス新法が施行され、発注者は報酬額と支払期日を明示する義務を負いました。入金の時期が読めることは、月単位の計画の前提になります。依頼を受けるときに確かめる項目はフリーランス新法で出演契約はどう変わるかにまとめています。
65%が10年後も続けたいと答え、辞める理由の4割は収入
芸団協の調査では、10年後も今の仕事を続けたいと答えた人が65.4%でした。続けていないかもしれない理由は「年齢的に」が58.8%、「体力的に」が45.5%、「収入が低い、不安定だから」が43.5%です。続けたい人の割合をジャンル別に見ると、演芸が85.6%、メディアなどが76.2%、現代演劇が71.9%でした。ケガや病気への備えとしては、個人で民間の保険に入っている人が58.6%いる一方、労災保険の特別加入制度を「知らない」と答えた人が74.2%でした。
続けたいと答えた人は6割を超えています。辞める理由の上位に収入の不安定さが入っている以上、入金の波を月単位で見える形にしておくことが、続けるための実務になります。
月単位で収入源を組む計算
年収で考えると、入金のない月の家賃が見えなくなります。ここからは1か月を単位にします。
自分の日数と単価を入れて、月の合計を出す
下の計算機は、活動(出演やレッスンなど)、配信、アルバイトの日数と1日あたりの金額から、月の合計を出します。最初に入っている値は操作の見本で、相場を示すものではありません。先月の実績を思い出して、自分の数字に動かしてください。
活動の欄には、出演料のほか、レッスン講師やワークショップなど表現に関わる仕事を入れます。配信の欄には、過去に引き出した金額を配信した日数で割った値を入れてください。まだ始めていない人は0円から動かし、いくらになれば月の計画が変わるかを見る使い方ができます。アルバイトの欄は手取りに近い日給にすると、生活費と比べやすくなります。
月の合計は円、うち活動と配信は円
予定が入っている日数の合計は日
初期値は切りのよい仮の値です。相場ではなく、自分の数字を入れて使うものです。税金、社会保険料、交通費や衣装代などの経費は引いていません。配信と他の予定が同じ日に重なる場合、日数の合計は実際より多く出ます。
合計の次に見る、日数と入金日
合計額が生活費に届いたら、次は日数の合計を見ます。稽古やトレーニングの日は収入を生みませんが、芸団協の調査では研鑽に158.3日が費やされていました。予定の日数が25日を超える月は、稽古と休みの置き場がなくなります。アルバイトの日数を減らしたい場合は、活動か配信のどちらの単価や日数を上げれば同じ合計になるかを、スライダーで確かめてください。
入金日も書き出します。フリーランス新法が定める支払期日は出演日から60日以内なので、働いた月と入金の月は最大で2か月ほどずれます。アルバイトの給料日、配信の報酬を引き出せる時期、出演料の支払期日を1枚に並べると、どの月に現金が薄くなるかが分かります。出演を依頼する側の当社から見ると、空いている日をすぐに答えられる人には声をかけやすく、月の予定を先に組んでおくことは依頼を受ける側の準備にもなります。
よくある質問
Q. 俳優や声優の平均年収はいくらですか
職業別の平均年収を一つの数字で示した公的な統計は、公表されているものを見つけられませんでした。芸団協の第11回調査(2025年実施)では、実演家全体の個人収入の中央値が「200〜300万円」で、芸能以外の収入を含みます。ジャンル別では、現代演劇で300万円未満が7割を超え、映画や放送、外国映画・アニメなどの「メディアなど」では約4割でした。
Q. 表現活動だけで生活している人はどのくらいいますか
芸団協の調査は「活動だけで生活しているか」を直接は聞いていません。近い数字として、昨年1年間に芸能活動以外の仕事をした人が33.1%、年収に占める「芸能に関連しない仕事を含むその他の収入」の平均が23.4%でした。教える仕事の20.4%と合わせると、この2つだけで年収の4割を超えます。
Q. アルバイトと配信は、どちらを増やすべきですか
一般的な正解はなく、自分の数字で決まります。計算機に先月の実績を入れ、アルバイトを1日減らした分を配信の何日分で埋められるかを確かめてください。配信の見込みは1か月の実績だけで決めず、3か月分の平均を入れてください。
Q. 収入が不安定なとき、公的に使える制度はありますか
芸能の提供の作業をする人は、労災保険に特別加入できます(文化庁のガイドラインに記載があります)。芸団協の調査では、この制度を「知らない」と答えた人が74.2%でした。仕事中のケガに備える制度なので、舞台やアクションの仕事がある人は加入条件を確認する価値があります。契約や報酬のトラブルは、厚生労働省が案内するフリーランス・トラブル110番に相談できます。
今月のうちにやること
先月の入金を、活動・配信・アルバイトに分けて書き出し、計算機の6つの値を自分の数字に置き換えてください。合計が生活費に届かない場合は、どの日数を何日動かせば届くかをスライダーで確かめます。配信を収入源に加えるか迷っている人は、自社でドラマを制作する当社が運営するライブ配信事務所KAIMAKUの案内も判断材料にしてください。応募・面談・所属は0円で、配信のノルマはありません。ほかの記事は表現者の生存戦略の一覧から読めます。