「せっかく作ったので、採用ページにも載せたい」「反応が良かったので広告に回したい」。この相談は、納品から2〜3週間後にいちばん多く来ます。
答えは、たいてい「できます、ただし2箇所だけ確認させてください」です。使い回しを止めるのは動画のクオリティではなく、出演者との契約に書いた使用範囲と、載せた楽曲のライセンスです。どちらも撮影より前に決まっていて、あとから広げるには当人の合意と、場合によっては追加の対価が必要になります。
つまり動画の転用は、納品後の相談ではなく発注時の設計です。この記事では、転用先ごとに何が追加で必要になるのか、どこで止まるのか、そして発注の段階で何を決めておけば後から広げられるのかを、縦型ショートドラマを作っている側から整理します。権利の条文そのものの整理はショートドラマの出演者契約と二次利用にまとめてあるので、契約書を今まさに読んでいる方はそちらが早いです。
この記事でわかること
- 使い回しの可否を決めているのは何なのか(動画の出来ではない)
- 転用先ごとに追加で必要になるもの(広告・採用・営業資料・店頭・自社サイト)
- 縦型で撮った素材が横型の面でそのまま使えない理由
- 発注のときに決めておくと、あとから転用が通る5項目
- 使い回して成果が落ちる境界線
使い回しは「できる/できない」ではなく、範囲が決まっている
納品された動画には、権利者が3層います。制作会社(映像そのものの著作権)、出演者(実演家としての権利)、楽曲の権利者です。このうち発注側が最初に確認するのは制作会社との契約ですが、実務で転用を止めるのはほぼ後ろの2つです。
詳しい条件・補足を読む
転用を止めるのは動画の出来ではなく、権利者3層のうち後ろ2つ
1
制作会社(映像の著作権)
譲渡でも、翻案権と二次的著作物の利用権を契約書に個別に書いていなければ譲渡側に残る
2
出演者(実演家の権利)
契約書に書いた範囲がそのまま上限。範囲外の使用は追加の合意が要る
3
楽曲の権利者
載せた曲のライセンス次第で、広告配信の面に出せなくなる
実務で転用を止めるのは、ほぼ出演者と楽曲。発注のときに決めておけば後から広げられる
制作会社との契約では、著作権を譲り受けているのか、使用許諾を受けているのかが分かれ目になります。譲渡の場合でも、翻案権(27条)と二次的著作物の利用権(28条)を契約書に個別に書いていなければ、その2つは譲渡した側に留保されたものと推定されます。文化庁の契約マニュアルはこの「特掲」の必要性を明記しています(誰でもできる著作権契約マニュアル)。編集し直さずそのまま別の場所に貼るだけなら関係ありませんが、15秒に切り直す・テロップを差し替える・別の曲を載せる、という作業には翻案が関わります。
出演者側は契約書に書いた範囲がそのまま上限になります。「TikTokおよびInstagramの自社アカウントでの公開」と書いてあれば、広告配信は範囲外です。範囲外の使用は、追加の合意を取れば可能ですが、取れなければその動画は他の面に出せません。公正取引委員会の芸能分野における適正な取引に関する指針も、二次利用の際に事前の取り決めなく一方的に扱うことを問題として挙げています。
だから最初に開くのは動画ファイルではなく、契約書2通(制作委託契約と出演承諾書)です。ここに書かれた範囲が、その動画で今日できることの全部です。
転用先ごとに、追加で必要になるもの
転用先を5つに分けると、追加で必要になるものがはっきり分かれます。同じ1本でも、行き先によって手間がまったく違います。
| 転用先 | 追加で必要になるもの | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| 自社サイト・LP | ほぼ不要(出演範囲に「自社Webサイト」が入っているか確認) | 音声オフで自動再生されるため、字幕が入っていないと内容が伝わらない |
| SNS広告(配信) | 出演者の広告使用許諾、楽曲の広告利用可否、表示の適正性チェック | オーガニック投稿用に選んだ音源が広告では使えない |
| 採用ページ・説明会 | 出演範囲の拡張、社員が映っている場合は本人の再確認 | 退職者が映っていると、そのカットだけ差し替えが必要になる |
| 営業資料・商談 | 基本は不要(社外提示にあたるため範囲は確認する) | 音声を出せない商談環境が多く、テロップ版が別途必要 |
| 店頭・展示会・サイネージ | 公衆送信ではなく上映にあたるため、楽曲の扱いが変わる | 尺が長すぎて足を止めた数秒で内容が伝わらない |
いちばん軽いのは営業資料と自社サイトで、いちばん重いのは広告です。広告に回す想定が少しでもあるなら、それは納品後に判断することではなく、出演者を探す段階で決めておくべきことになります。
縦型で撮った素材が、横型の面でそのまま使えない理由
権利がクリアでも、画面の形で止まることがあります。縦型(9:16)で撮った素材を横型(16:9)の面に置くと、左右が足りません。上下を切って横に伸ばすことはできないので、実際には両端を黒帯やぼかしで埋めるか、被写体を大きくトリミングするかの二択になります。
どちらも見栄えの問題だけでは済みません。縦型は画面の上下にテロップと字幕を置く前提で構図を作ります。上部にタイトル、下部に字幕、その間に人物という配置なので、横型に切り出すと文字が枠外に出ます。結果として、字幕を作り直す作業が発生します。

この対策は撮影当日に決まります。転用の可能性がある案では、同じ演技を縦の寄りと横の引きで2テイク撮っておくか、少なくとも横で切り出せる余白を残して構図を組みます。撮影が終わってから相談されると、素材のなかから成立するカットを探す作業になり、成立しないカットは使えません。縦型そのものの考え方は縦型動画マーケティング完全ガイドで扱っています。
使い回しを止める3つの壁:出演者・楽曲・映り込み
出演者の許諾範囲
いちばん多い停止理由です。出演承諾書に書いてあるのが「媒体」「期間」「地域」「用途」の4つで、このどれかが外れると使えません。多いのは期間切れで、公開から1年という条件だった動画を2年目に広告で回そうとして止まる形です。
範囲を広げるには本人の合意が必要で、事務所所属なら事務所を通します。追加の対価が発生することも普通にあります。この交渉は撮影から時間が経つほど難しくなります。相手のスケジュールが変わり、連絡が付きにくくなるためです。
楽曲
SNSアプリの中で選んだ音源と、映像作品に載せる楽曲は別物です。プラットフォームが用意している商用利用可のライブラリは、そのプラットフォーム上での企業利用を想定したもので、他社の面や広告での扱いは条件が分かれます(TikTok Commercial Music Library)。
自分たちで用意した既存曲を映像に載せる場合は、配信の手続きの前に「ビデオグラム録音」の手続きが必要です。さらにJASRACの許諾は作詞・作曲の権利についてのもので、音源そのものの権利(レコード会社やアーティスト側の権利)は別に取る必要があります(JASRAC 配信用動画コンテンツを制作する際のビデオグラム録音手続き)。転用のたびにここを確認するのが面倒なので、シリーズを続ける前提の案件では、権利を買い切ったオリジナル曲や条件の広いライセンス音源に最初から寄せておくほうが後が楽です。
映り込み
ロケで撮った映像には、意図せず入っているものがあります。他社の商品パッケージ、店名の看板、通行人、駅や施設の内装です。自社アカウントの投稿では通っていたものが、広告として配信した途端に指摘の対象になることがあります。撮影場所の使用許諾も、多くは「SNSでの公開」までしか取っていません。
広告に転用するときだけ増える確認
オーガニック投稿から広告へ回すとき、権利以外にもう一段確認が増えます。広告としての表示の適正性です。
ドラマ形式の動画は、登場人物のセリフで商品の良さを語らせる作りになります。この台詞が体験談として作られていると、根拠のない効果の断定になっていないか、という点検が必要になります。特に食品・化粧品・健康・金融のジャンルは、投稿では許容されていた言い回しが広告としては通らないことがあります。
もう一つが、広告であることの明示です。2023年10月1日から、広告であるのに広告と分かりにくい表示は景品表示法違反になりました。企業が第三者に依頼・指示した投稿も事業者の表示として扱われます(消費者庁 ステルスマーケティング規制)。ドラマ形式は「作品」に見えるため、PR表記の位置と大きさを投稿と広告で使い分ける判断が必要になります。
当社では、広告転用の可能性がある案件は、台本の段階で商品に関する言い回しを2種類用意しておく進め方をとっています。投稿用の言い方と、広告として出しても崩れない言い方です。撮影のときに両方を録っておけば、転用の判断を後回しにできます。
発注のときに決めておくと、あとから転用が通る5項目
ここまでの内容を、発注時に潰しておく形に並べ替えます。オリエンの資料に5行足すだけで、あとの転用がほぼ止まらなくなります。
- 想定する掲載先を全部書く(自社SNS/広告/自社サイト/採用/営業資料/店頭)。使うかどうか未定のものも「可能性あり」として入れる
- 出演者の許諾は、その全部を含む範囲で取る。期間は公開日起算ではなく「◯年◯月まで」の実日付で書く
- 楽曲は転用先での利用条件を確認したものだけ使う。判断が付かなければオリジナル制作にする
- 翻案の権利を契約に明記する(あとから切り直す・字幕を差し替える作業が発生するため)
- 撮影素材とプロジェクトファイルを納品物に含める。再編集を別の会社に頼む可能性があるなら特に
5番目は見落としやすい項目です。完パケの動画だけ受け取っていると、15秒版を作りたくなったときに元素材がなく、完パケからの切り出しになります。画質と音のつなぎが落ちるので、転用の質はここで決まります。納品物の見方は動画制作の納品データで受け取るものに、前の制作会社から回収する手順は動画制作会社の変更と引き継ぎにまとめています。
使い回して成果が落ちる境界線
権利が通っていても、そのまま出して数字が落ちる場合があります。境界は「見る人の状態が同じかどうか」です。
落ちにくい転用は、同じ姿勢の人が見る面への移動です。SNSのおすすめ欄で流れてきた縦型動画を、SNS広告として同じおすすめ欄に配信する。あるいは自社サイトのファーストビューに置く。どちらも「暇な時間にスマホを縦に持って見る」という状態が同じなので、冒頭の入り方がそのまま機能します。
落ちやすい転用は、状態が変わる面です。会社説明会の会場で流す、商談でPCの画面に出す、展示会のブースで通りがかりに見せる。SNS向けの動画は最初の1〜2秒で引っかける設計になっているので、すでに座って待っている相手に対しては、その勢いが浮きます。逆に、説明会用に作った落ち着いた導入は、SNSでは3秒で飛ばされます。
だから転用は「同じ動画を配る」のではなく、「同じ素材から面ごとに作り分ける」と考えるほうが結果が合います。作り分けの単位は、冒頭の3秒と字幕の量、そして尺です。本編を作るときに素材をこの前提で撮っておけば、作り分けは編集だけで済みます。転用後の数字をどう見るかはショートドラマPR/広告のROI・KPI完全ガイドを参照してください。
再編集を頼むときに渡すもの

転用のために編集を頼むとき、こちらから渡す情報が足りないと、出てくるものが想定とずれます。最低限これだけあれば、やり直しがほぼ発生しません。
- 転用先とサイズ(例:Instagramのフィード用に1:1、45秒以内)
- 音の有無(自動再生で音が出ない面かどうか)
- 触ってよい範囲(尺を詰めてよいか、順番を入れ替えてよいか、テロップを変えてよいか)
- 使ってはいけないカット(退職した社員が映っている、商品の旧パッケージが映っている等)
- 出演者の許諾範囲の写し
4番目は発注側しか知りません。制作会社は、その人が退職したことも、パッケージが変わったことも把握していません。編集が終わってから「このカットは使えない」と分かると、構成の組み直しになります。
素材の保管も発注側の仕事です。撮影素材は1日分でも数百GBになることがあり、制作会社側の保管期限は契約で決まっています。期限を過ぎると再編集ができなくなるので、納品時にクラウドかハードディスクで自社に残しておくのが確実です。
使い回しの費用はどう変わるか
再編集の費用は、ゼロから作るのに比べれば当然軽くなりますが、無料ではありません。動くのは次の3つです。
素材があるかどうか。プロジェクトファイルと撮影素材が揃っていれば編集作業だけで済みます。完パケしか手元にない場合は、そこからの切り出しになり、字幕やテロップは作り直しになります。
権利の追加交渉が必要かどうか。出演者の範囲拡張や楽曲の差し替えが入ると、編集より前の工程が増えます。
面ごとの作り分けが何種類あるか。1本を3つの面に出すなら、実質3本分の編集判断が必要です。
金額のレンジは案件の構成で大きく変わるため、具体額はご相談時にお伝えしています。制作費全体の考え方はショートドラマの制作費相場にまとめました。1つ言えるのは、転用を前提に設計した案件と、後から相談された案件では、同じ本数を作るときの総額が変わるということです。差は編集費ではなく、撮り直しが発生するかどうかで出ます。
よくある質問(FAQ)
Q. 納品された動画を、そのまま広告に使ってもいいですか? A. 出演承諾書に広告での使用が含まれているかを先に確認してください。含まれていなければ、本人または事務所の追加合意が必要です。楽曲についても、投稿では使えた音源が広告では条件が異なることがあります。
Q. 縦型で作った動画を、会社説明会のスクリーンで流せますか? A. 権利上は問題なくても、画面の形が合いません。両端が空くため、横型に切り出すか、縦のまま中央に置く構成にします。加えて、SNS向けの冒頭の入り方は、座って待っている観客には勢いが強すぎることがあるので、導入だけ差し替えるほうが伝わります。
Q. 撮影素材は、頼めば納品してもらえますか? A. 契約に納品物として書かれていれば渡されます。書かれていない場合は義務がないため、別途費用や保管期限の話になります。転用や再編集の可能性があるなら、発注の段階で納品物に含めておくのが確実です。
Q. 出演者の許諾範囲を、あとから広げられますか? A. 本人の合意があれば可能です。ただし撮影から時間が経つほど連絡や調整が難しくなり、追加の対価が発生することもあります。使うかどうか決まっていない用途も、最初の承諾書に「可能性あり」として入れておくほうが安全です。
Q. 1本の動画を複数の面に出すと、飽きられませんか? A. 同じ人が複数の面で同じものを見る状況は、実際にはあまり起きません。むしろ問題は面ごとの相性です。素材は共通でも、冒頭の3秒・字幕の量・尺を面ごとに作り分けるほうが結果が安定します。
Q. 過去に作った動画を、別の制作会社に再編集してもらえますか? A. 契約で翻案権(著作権法27条)と二次的著作物の利用権(28条)まで譲り受けている場合は可能です。特掲されていない場合、これらは制作した側に留保されたものと推定されるため、着手の前に権利関係を確認してください。
まとめ
動画の使い回しで止まるのは、映像の出来ではありません。出演者との契約に書いた使用範囲、楽曲のライセンス、そして映り込みです。この3つはすべて撮影より前に決まっているので、納品後に広げるには相手の合意と時間が必要になります。
だから転用は、納品後の思いつきではなく発注時の設計として扱うのが正解です。掲載先を全部書き出す、出演者の許諾をその全部を含む範囲で取る、楽曲の条件を確認する、翻案の権利を契約に明記する、撮影素材を納品物に含める。この5つを最初のオリエンで押さえておけば、あとは編集だけで面を増やせます。
そして権利が通ったあとも、そのまま配るのではなく面ごとに作り分けたほうが数字は合います。素材は1回の撮影、出す形は面の数だけ。この考え方でシリーズを組むと、1本あたりの実質的なコストが下がっていきます。
ナイトてんしょんは、企画から撮影・編集までを自社で行い、年間再生回数1億5,000万回を超える縦型動画の運用を続けています。すでにお持ちの動画について、どこまで転用できて何が作り直しになるかの整理からご相談いただけます。
関連記事:ショートドラマ制作の外注・発注完全ガイド ・ショートドラマの出演者契約と二次利用 ・ショートドラマ制作のオリエンで渡す情報
参考・出典一覧
- 文化庁「誰でもできる著作権契約マニュアル」(著作権法27条・28条の特掲・2026年9月4日参照)
- 公正取引委員会「芸能分野における適正な取引に関する指針」(二次利用の取り決め・2026年9月4日参照)
- JASRAC「配信用動画コンテンツを制作する際のビデオグラム録音手続き」(楽曲の複製手続きと著作隣接権・2026年9月4日参照)
- TikTok Commercial Music Library(プラットフォーム音源の商用利用範囲・2026年9月4日参照)
- 消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります」(2026年9月4日参照)
転用先ごとの確認項目、撮影当日に縦横の2テイクを残す進め方、面ごとの作り分けの単位は、ナイトてんしょんが縦型ショートドラマの企画・撮影・編集を自社で行っている制作実務にもとづく内容です。