初稿の修正が終わると、制作会社から「完成しました」という連絡と一緒にダウンロードリンクが届きます。ここで多くの発注者がやることは、動画を再生して問題がなければ「ありがとうございます」と返すことです。
それで済む案件もあります。ただ、この日に何を受け取ったかは、半年後にもう一度効いてきます。別の尺で出したくなったとき、広告に転用したくなったとき、担当者が代わったとき。手元に完成動画のMP4が1本しかないと、そのたびに制作会社へ戻るか、作り直すかの二択になります。
この記事は、動画を渡す側の立場から、発注者が納品時に受け取っておくべきものと、検収で実際に確認できることを整理しました。初稿への修正の伝え方は動画制作の修正依頼の出し方|リテイクを減らす発注側の型、その手前の撮影当日は動画撮影の立ち会いで発注者がやること|当日の判断とNGな一言にまとめています。この記事はその次、受け取って終わりにする日の話です。
納品で受け取るのは完成動画1本ではない
「納品データ」と一言で言っても、中身は3つの層に分かれます。どこまでを受け取る契約になっているかは、案件ごとに違います。
詳しい条件・補足を読む
納品データは3層。どこまで受け取る契約かで、半年後の手間が変わる
1
完成尺
書き出し済みのMP4。配信先ごとの比率・尺違い
2
構成要素
字幕データ、テロップ無しの版、BGM無しの版、静止画の切り出し
3
元素材とプロジェクト
撮影した全カット、編集ソフトのプロジェクト、使用フォント・音源のリスト
上の1層だけで検収を終えると、転用したくなるたびに編集を組み直すことになる
| 層 | 中身 | これが無いと困る場面 |
|---|---|---|
| 完成尺(ほぼ必ず渡す) | 書き出し済みのMP4。配信先ごとの比率・尺違い | ── |
| 構成要素 | 字幕データ、テロップ無しの版、BGM無しの版、静止画の切り出し | サムネイルを作る、別媒体で文言だけ変える、社内資料に転用する |
| 元素材とプロジェクト | 撮影した全カット、編集ソフトのプロジェクトファイル、使用フォント・音源のリスト | 半年後に別バージョンを作る、別の会社に続きを頼む |
一番上だけを受け取る契約が、悪いわけではありません。単発のPR動画1本で、転用の予定もないなら、それで足ります。問題になるのは、下の2層が要るのに、上の1層だけで検収を終えてしまうときです。
弊社で実際に起きるのは、公開から2〜3か月経ってからの連絡です。「同じ動画を広告に回したいので、冒頭のテロップだけ変えられますか」。テロップ無しの版と字幕データを渡してあれば、差し替えは短時間で済みます。渡していない案件だと、編集を組み直すところから始まります。同じ依頼なのに、納品時の1行の違いで手間が変わります。転用そのものをどこまでやっていいかは制作した動画の使い回し|広告・採用・営業へ転用する前の確認に整理しました。

受け取る範囲は、納品されてから交渉するものではありません。見積もりの段階で決まっています。費用の内訳はショートドラマの制作費相場|平均費用と内訳を制作会社が解説、渡す情報の整理はショートドラマ制作のオリエンで渡す情報|仕上がりを左右する5つを参照してください。
検収で発注者が確認できる5点
映像の専門知識がなくても、検収で見られることはあります。技術的な品質は制作会社の責任範囲なので、発注者が見るのは自社にしか判断できないことに絞ると機能します。
1. 事実に関わる表記。 社名、サービス名、価格、電話番号、URL、キャンペーンの期間。テロップに焼き付いている文字は、公開後に直すと動画を差し替えることになります。旧ロゴや旧サービス名が残っていないかも、社内の人しか気づけません。
2. 尺と本数が発注どおりか。 「30秒と15秒の2本」で発注したのに30秒だけ届いている、縦型で頼んだのに16:9で来ている。数え間違いは案外あります。
3. 音が最後まで入っているか。 書き出しの事故で、途中からBGMが消える、片方のチャンネルだけ音が出る、といった不具合が起きることがあります。イヤホンで最後まで通して聞けば見つかります。
4. スマートフォンの実機で見たときの文字の大きさ。 パソコンの大きな画面で確認すると通ってしまい、スマホで見ると読めない、というずれが起きます。実際に配信する画面サイズで一度見てください。
5. 権利まわりの申し送りが付いているか。 使用した音源やフォントの利用範囲、出演者の使用期間。ここは書面で受け取っておく項目です。詳しくはショートドラマの出演者契約と二次利用|発注側の権利処理にまとめました。
逆に、色味やカットの間合いといった「もっとこうしたい」は、検収ではなく修正フェーズの話です。検収の場でそれを出すと、工程が巻き戻ります。
配信先ごとに必要な書き出しが変わる
同じ内容の動画でも、出す場所によって求められる形が違います。ここを納品前に伝えておかないと、受け取ってから自分で変換することになります。
YouTubeのヘルプでは、アップロードする動画の推奨エンコード設定として、コンテナ形式はMP4、映像コーデックはH.264、音声コーデックはAAC-LC(サンプルレート48kHz)が案内されています。フレームレートは撮影時と同じレートでのアップロードが推奨され、一般的なものとして24・25・30・48・50・60fpsが挙げられています。パソコンでの標準的なアスペクト比は16:9です。(出典: YouTube にアップロードする動画におすすめのエンコード設定 - YouTube ヘルプ・2026-09-02参照)
一方、TikTokやInstagramのリールに出すなら縦型が前提になります。弊社では縦型の案件を9:16で書き出していますが、注意が要るのは画面の端が隠れることです。上部には時刻やアイコンが重なり、下部にはキャプションやアカウント名が乗ります。パソコンで見て中央に収まっているテロップが、実機だと文字の下半分が説明文に隠れる。これは書き出しの不具合ではなく、配置の設計の問題なので、納品後に気づくと直しようがありません。撮影・編集の段階から縦型のセーフエリアを想定して作る必要があります。

横型と縦型の両方が要る案件では、「16:9で作ってから縦に切る」のか「縦で作ってから横に組み直す」のかで、仕上がりがかなり変わります。前者は人物が見切れやすく、後者は横に余白が出ます。どちらを主にするかは、一番数字を取りたい配信先で決めてください。この判断はオリエンの時点でしておくと、書き出しの追加費用が発生しません。
納品時には、配信先の一覧と、それぞれに何を出すかを1枚にして渡し合うのが確実です。工程の目安は【2026年版】ショートドラマ制作の納期・スケジュール完全ガイドで扱っています。
元素材とプロジェクトファイルを受け取るか
ここが、納品で一番判断が分かれるところです。
撮影で回した全カット(使わなかったテイクも含む)と、編集ソフトのプロジェクトファイル。これを受け取るかどうかで、次に動くときのコストが変わります。受け取っていれば、別の制作会社に「この続きを」と頼むことができます。受け取っていなければ、実質的にその制作会社に紐づいた状態になります。
ただし、無条件に「全部ください」と言えばいいわけでもありません。理由が3つあります。
元素材は容量が大きく、案件によっては数百GBになります。受け取った側に保管の責任が生まれ、社内のストレージを圧迫します。次に、プロジェクトファイルを開くには同じ編集ソフトと、使用したフォント・プラグインが要ります。ファイルだけあっても、開ける環境が社内に無ければ使えません。そして、素材の受け渡しは出演者の契約範囲とも関わります。本編で使わなかったカットまで自由に使えるとは限りません。
弊社が発注者に勧めているのは、全部か無しかで決めずに「使う可能性がある形」で受け取るやり方です。たとえば、本編で使ったカットだけを整理して渡す、プロジェクトファイルではなく差し替えやすい形の中間データを渡す、といった中間案があります。この線引きは見積もりの段階で相談すれば、たいてい調整できます。納品後に「やっぱり素材も」と言うと、撮影データの掘り起こしと整理に別途の作業が発生します。
料金の考え方はショートドラマの制作費相場|見積もり実例3パターンにまとめました。
検収と支払いは別のもの|受領から60日のルール
「検収が終わっていないから支払いを止める」という運用は、契約の形によっては問題になります。
公正取引委員会のフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の解説では、発注事業者は、成果物等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で報酬の支払期日を定め、その期日までに支払う必要があるとされています。元委託業務を再委託した場合は、元委託業務の支払期日から起算して30日以内という例外が設けられています。(出典: 2025年公正取引委員会フリーランス法特設サイト・2026-09-02参照)
実務上で押さえておきたいのは、この60日が検査の要否と切り離されている点です。検査に時間がかかることを理由に、60日を超える支払期日を定めることは認められません。「社内の検収フローが長いので支払いは翌々月末」といった設計をしていると、ここに抵触する可能性があります。
同法では、1か月以上の業務委託について、受託者に責任がないのに受領を拒むこと、受領後に引き取らせること、費用を負担せずに給付内容を変更させたり受領後にやり直させたりすることが、禁止行為として整理されています。
制作会社を挟んでいる場合、発注者が直接フリーランスと契約しているわけではありません。それでも、検収を長引かせた分は制作現場に落ちます。検収は早く、指摘は具体的にが、結果として次の案件の動きやすさにつながります。検収期間を何営業日にするかは、発注時の書面で決めておくのが確実です。
受け取った後に社内でやること
納品データは、受け取った瞬間から劣化しませんが、行方不明にはなります。担当者のパソコンのダウンロードフォルダに入ったまま1年経ち、異動で消える。これは珍しい話ではありません。
やることは3つです。共有ストレージに案件単位のフォルダを作って移すこと。ファイル名に案件名・尺・比率・バージョンを入れること(商品名_30s_9x16_v2.mp4 のような形)。そして、権利の申し送り(音源の利用範囲、出演者の使用期間)を同じフォルダに一緒に置くことです。
3つ目が抜けると、半年後に「この動画、まだ広告で使っていいんだっけ」が誰にも答えられなくなります。動画データと権利の条件は、別々の場所に保管された瞬間に片方が失われます。
検収が終わったら、次に決まっていないのは「誰がどのアカウントで出すか」です。ここが宙に浮くと、動画は仕上がっているのに公開が権限待ちで止まります。分担と入稿の手順は動画の投稿は誰がやる?納品後の公開までの分担と手順にまとめました。公開後の数字の見方は【2026年版】ショートドラマPR/広告のROI・KPI完全ガイドで扱っています。納品はゴールではなく、運用の開始地点です。受け取り方を設計しておくと、2本目以降の制作費と時間が目に見えて軽くなります。
よくある質問
Q. 納品データは何日以内に確認すればいいですか。 契約で定めた検収期間に従います。定めていない場合は、社内の関係者が確認できる現実的な日数(3〜5営業日程度)を発注時に合意しておくと、双方が動きやすくなります。長く置くほど、制作会社側は次の工程に進めません。
Q. 元素材(撮影した全カット)は必ずもらえますか。 契約次第です。標準の見積もりには含まれていないことが多く、含める場合は整理と受け渡しの作業が発生します。必要かどうかは「半年以内に別バージョンを作る予定があるか」で判断してください。
Q. 納品後に修正をお願いすることはできますか。 検収で見つかった不備(発注内容とのずれ、書き出しの不具合)は、通常は対応の範囲です。一方、公開後に出てきた「もっとこうしたい」は追加の依頼になります。線引きは動画制作の修正依頼の出し方で解説しています。
Q. 縦型と横型、両方もらうと費用は上がりますか。 書き出しを増やすだけなら大きくは変わりませんが、テロップの配置を作り直す必要があるため、実際には編集の追加工数が発生します。最初から両方必要と伝えておくのが、いちばん安く済みます。
縦型のショートドラマ制作と、その後のSNS運用についてはショートドラマ制作サービスをご覧ください。納品範囲の決め方や検収フローの設計を含めてご相談いただけます。ご相談はお問い合わせからお願いいたします。
弊社は年間再生回数1億5,000万回を超えるアカウント運用の中で、納品したデータがその後どう使われるかを見てきました。受け取り方の設計は、2本目の制作を軽くするための投資です。
参考にした資料
- YouTube にアップロードする動画におすすめのエンコード設定 - YouTube ヘルプ(2026-09-02参照)
- 2025年公正取引委員会フリーランス法特設サイト|公正取引委員会(2026-09-02参照)