見積もりを見ながら発注者からいちばん多く来る質問が、「撮影場所はそちらで用意してもらえるんですか」です。次に多いのが「うちのオフィスで撮れませんか」。この2つは同じ話に見えて、決めるべきことがまったく違います。

先に結論を書きます。撮影場所の手配は制作会社側でできますが、費用と当日の自由度は「誰の敷地で撮るか」で決まります。外部のロケ地やスタジオを借りれば場所の制約は減り、その分が見積もりに乗ります。自社のオフィスや店舗を使えば費用は下がり、代わりに社内調整という別の仕事が発注側に生まれます。正解はどちらでもありません。どちらを選んだかを最初に共有しておかないと、工程が止まります。

発注前に渡す情報はショートドラマ制作のオリエンで渡す情報、撮影当日の動き方は動画撮影の立ち会いで発注者がやることにまとめています。この記事は、その手前にある「どこで撮るか」の決め方です。

撮影場所は誰が用意するのか

一般的な請負では、ロケ地の選定と交渉は制作会社の業務範囲に入ります。ただし「入っている」と「見積もりに入っている」は別です。見積書に場所に関する費目が一つも無いときは、たいてい次のどれかです。

  • 自社施設で撮る前提で見積もっている
  • 使用料が読めないので、後から実費精算にしている
  • そもそも場所の話がまだ詰まっていない

3つ目が一番多く、そして一番あとで揉めます。見積もりの段階で「この本数はどこで撮る想定ですか」と一度聞いてください。答えが返ってこない見積もりは、撮影日が近づいてから金額が動きます。

項目 制作会社の担当範囲 発注側でしか動かせないこと
外部ロケ地・スタジオ 候補出し・下見・予約・当日の運営 使用料を含む予算の承認
自社オフィス・店舗 画角の設計・機材と導線の計画 使用の許可、営業や業務の調整、社内の周知
取引先・グループ会社の施設 必要な条件の提示 先方への依頼と条件交渉(窓口は発注側が持つ)
公道・公共の場所 許可申請の実務 撮る内容の確定(申請には内容と日時が要る)

表の右側は、代行できません。とくに自社施設で撮る場合、社内の許可を取るのは発注担当者の仕事になります。ここを制作会社が待っている間、企画も台本も進みません。

3つの選択肢を制約で比べる

場所の選択肢は大きく3つです。金額だけで並べると自社施設が最安に見えますが、実際に効いてくるのは金額ではなく制約のほうです。

レンタルスタジオ ロケ地(施設・店舗) 自社オフィス・店舗
場所の費用 時間単位で発生 施設により幅が大きい 原則かからない
音のコントロール しやすい 場所による 難しい(電話・空調・什器の音)
時間の融通 予約枠の中でなら自由 営業時間に縛られる 業務時間との調整が必要
画の説得力 作り込める(作り物にも見える) 高い 実際の職場が映る強みがある
発注側の手間 ほぼ無い 少ない 大きい(社内調整が発生)
同じ場所での撮り直し 再予約が必要 再交渉が必要 やりやすい

採用や会社紹介のように「その会社らしさ」を見せたい企画では、自社オフィスが有利です。実在の職場が映ること自体が情報になるからです。反対に、恋愛や家族もののように生活感のある部屋が要る企画では、オフィスで代用しようとすると画がすべて嘘になります。企画のほうを場所に合わせて書き換えるか、場所を借りるかの二択で、無理に折衷すると両方失います。

見積もりの構造そのものはショートドラマの制作費相場に整理しています。

自社の施設で撮るなら、先に決める6つ

自社オフィスや店舗での撮影は、費用が下がる代わりに、当日までに社内で決めることが増えます。当社が事前確認で必ず聞いているのは次の6つです。

1. 使ってよい範囲 フロア全体なのか、会議室だけなのか。通れる範囲が決まっていないと、機材の置き場所と導線が組めません。

2. 音が出せる時間帯 隣の席で商談が入る時間には録れません。撮影は静かな作業ではありません。同じセリフを何度も声に出します。確認するのは「その時間は会議室が空いているか」ではなく、「その時間は声を出してよいか」です。

3. 写り込みの可否 社外秘の資料、ホワイトボード、モニター、書類、他社のロゴが入った什器。撮影後の確認で消せない写り込みが見つかると、そのカットは使えません。撮る前に片付けるほうが、あとで編集で隠すより早くて安全です。

4. 従業員の同意 通りがかりの社員が映る場合、その人の同意が要ります。全社に周知したうえで、映りたくない人が避けられる導線を作ってください。出演者側の権利の扱いはショートドラマの出演者契約と二次利用に書いています。

5. 電源と控え場所 照明と機材で電源を使います。ブレーカーの容量と、着替えや待機に使える部屋があるかどうか。これが無いと、当日に廊下で立ちっぱなしという事態になります。

6. 撮影日の責任者 社内で判断できる人が1人、当日その場にいる必要があります。「この部屋を使っていいか」「この資料は映してよいか」を電話で確認していると、そのたびに撮影が止まります。

この6つは、発注側の担当者が単独で決められないものが混ざっています。だからこそ、企画が固まった時点で動き始めてください。撮影日の2週間前では間に合いません。

許可が必要になるのはどこからか

自社の敷地や借りたスタジオの中で完結するなら、行政の許可は不要です。線を越えるのは、公道と公共の場所を使ったときです。

道路交通法第77条は、道路上で工事・作業・行事などを行う場合に、その場所を管轄する警察署長の許可を受けることを定めています。警察庁は同条に基づく許可が必要な行為としてロケ撮影を明示しており、ロケ撮影の道路使用許可については十分な時間的余裕をもって事前に相談するよう案内しています(警察庁「ロケ撮影に伴う道路使用許可申請について」・2026年9月7日参照)。警視庁の窓口申請は平日の午前8時30分から午後4時30分の受付で、申請書は2部必要です(警視庁「道路使用許可申請手続きについて」・同日参照)。

実務上の判断は、次のように分かれます。

  • 手持ちカメラで歩きながら撮る、通行の妨げにならない範囲:許可の対象になるかは態様と場所によります。事前相談で確認するのが確実です
  • 三脚や照明を立てる、人を待たせる、通行を制限する:許可の対象と考えて申請を前提に動きます
  • 商業施設・駅・公園などの私有地や管理地:行政の許可ではなく、施設や管理者の使用許諾の話になります。ルールは施設ごとに違います

個別の場所で許可が要るかどうかは、管轄の警察署や施設の管理者への事前相談が必要です。ここは制作会社が実務を巻き取れる部分ですが、申請には撮影内容と日時の確定が要るため、台本の確定が遅れると申請も遅れます。場所の話が工程に効いてくるのは、この一点です。

場所が決まらないと、何が止まるか

「場所は後で決めればいい」と思われがちですが、実際には工程の真ん中にあります。場所が確定しないと決められないものを並べます。

流れをつかむ 場所を決めて、後続の条件を固める 1 場所 台本・日程の起点 2 台本 場所に合うト書き 3 許可 屋外なら相談・申請 4 出演者 場所と日程に合わせて確保 5 撮影日 条件がそろって確定
詳しい条件・補足を読む

場所の確定が起点になる

場所が決まらないと、後ろの4つは1つも決まらない

1

場所の確定

ここが起点。ほかの工程は全部この後ろにつく

2

台本の確定

場所が決まって初めてト書きが書ける

3

許可の申請

屋外を使う場合。相談の分をさらに前倒しする

4

出演者の確保

場所と日程の空きに合わせる

5

撮影日

ここまで全部決まってから確定する

起点が2週間遅れると、撮影日は2週間ではなく、出演者の次の空きまで飛ぶ

撮影場所の確定を起点にした工程。遅れが後ろへ等倍で伝わらないので、場所だけは先に押さえる。

場所が決まって初めて決まるもの 決まらないと起きること
撮影日と時間割 出演者・スタッフを押さえられない
台本のト書き(どこで何が起きるか) 書き直しになる。承認をもう一度取り直す
機材・照明の構成 当日に足りない、または運びすぎる
許可申請の要否と提出日 間に合わず、撮れる場所が減る
衣装・小道具 背景と合わず、画が散らかる

出演者のスケジュールは、だいたい場所より先に埋まります。場所が2週間決まらなければ、撮影日は2週間ずれるだけでは済みません。出演者の空きに合わせて、もっと先へ飛びます。公開までの日数の考え方はショートドラマの納期と撮影期間にまとめています。

複数本をまとめて撮るなら、場所から設計する

SNS向けのショートドラマは、1本だけ作って終わりにはなりません。継続して出していく前提なら、場所の決め方も変わります。

当社が自社アカウントとクライアント案件で企画・撮影・編集まで行っている制作実務では、複数本を同じ日にまとめて撮る設計を標準にしています。このとき場所を軸に組むと、費用と拘束時間が同時に下がります。考え方はこうです。

  1. 場所を先に固定して、そこで成立する話だけを企画に残す:企画を先に10本書いてから場所を探すと、10か所必要になります
  2. 同じ場所で撮れる話をまとめる:移動が1回減ると、機材の積み下ろしとセッティングがまるごと1回分減ります
  3. 背景の使い分けで別の場所に見せる:同じ部屋でも、画角・小道具・時間帯を変えれば別のシーンとして成立します
  4. 人の拘束時間を場所ごとに束ねる:出演者を1日で解放できると、次の撮影も組みやすくなります

移動そのものは作品に映りません。1日の中で移動と設営が占める時間を削ると、そのぶん撮れるカット数が増えます。まとめ撮りを前提にすると、企画の段階から「この場所で撮れるか」を条件に入れることになり、結果として台本の手戻りも減ります。

制作の全工程はショートドラマの作り方に整理しています。

発注前に伝えておくと早い5つ

最初の打ち合わせでこれを渡せると、場所の議論が1往復で終わります。

  • 使える自社施設の有無(オフィス、店舗、倉庫、社用車など。写真が1枚あれば十分です)
  • 社内で撮影に使える日と時間帯(業務への影響が小さい曜日・時間)
  • 映してはいけないもの(社外秘、他社ロゴ、取引先名、個人が特定できるもの)
  • 場所にかけられる予算があるか(外部を借りる余地があるかどうか)
  • 屋外を使いたいか(使いたい場合は許可の検討が前倒しで必要)

このうち3つ目は、最後まで出てこないことが多い情報です。撮影後の確認で発覚すると、そのカットは撮り直しになります。先に開示するほど安全で、安く済みます。

よくある質問

Q. 撮影場所は制作会社が探してくれますか?

はい、外部のロケ地やスタジオの候補出し・下見・予約は制作会社の業務範囲です。ただし使用料は見積もりに乗るため、予算の承認は発注側の判断になります。自社施設を使う場合は、社内の使用許可だけは発注側で取っていただく必要があります。

Q. 自社のオフィスで撮ると、どれくらい安くなりますか?

場所の使用料と移動にかかる分が下がります。ただし社内調整の手間は発注側に発生し、音や写り込みの制約で撮影時間が伸びることもあります。金額差は企画と施設の条件で変わるため、具体的な見積もりはご相談時にお出しします。

Q. 街中で撮るには許可が要りますか?

道路上で行うロケ撮影は、道路交通法第77条にもとづく警察署長の許可の対象になります。三脚を立てる、通行を制限するといった態様では申請を前提に動きます。要否の判断は場所と撮り方によるため、管轄の警察署への事前相談が必要です。申請には撮影内容と日時の確定が要るので、台本を早めに固めてください。

Q. カフェや店舗で撮りたいのですが、お客として入って撮ってはいけませんか?

営業中の店舗での撮影は、店舗側の許可が必要です。他のお客様が映る問題もあります。無断で撮った映像は、公開後に取り下げになるリスクを抱え続けることになります。撮影の可否と条件を先に店舗と決めてください。

Q. 場所はいつまでに決めればいいですか?

台本を書き始める前です。場所が決まってから台本を書くほうが、書き直しが起きません。屋外や公共の場所を使う可能性があるなら、さらに前倒しで相談を始めてください。

Q. 1本目と2本目で場所を変えたほうがいいですか?

連続もののショートドラマでは、同じ場所を使い続けるほうが視聴者に覚えられます。毎回背景が変わると、同じシリーズだと認識されません。変えるなら、シリーズの区切りに合わせて変えるのが自然です。

まとめ

撮影場所の話は、費用の話に見えて、実際は工程と手戻りの話です。決める順番はこうなります。

  1. 自社施設を使えるかを先に確認する(写真1枚でいい)
  2. 使えるなら、範囲・音・写り込み・同意・電源・当日の責任者の6つを社内で決める
  3. 使えないなら、場所にかけられる予算の枠を先に決めて制作会社に渡す
  4. 屋外を使うなら、台本の確定を前倒しして許可の相談を始める
  5. 継続して出すなら、場所を固定して、そこで成立する企画に絞る

場所が決まらないまま企画を進めると、台本の書き直し・出演者の再調整・許可の遅れが一度に来ます。逆に言えば、最初の打ち合わせで場所の前提を1つ決めておくだけで、公開までの日数はかなり短くなります。

当社は年間再生回数1億5,000万回を超えるアカウント運用の中で、企画から撮影・編集までを自社で回しています。撮影場所の設計から相談したい場合はお問い合わせください。サービスの内容はショートドラマ制作にまとめています。

参考リンク