クライアントから動画の相談が来て、社内に撮影・編集の機能がないので制作会社を探す。代理店の担当者からいちばん多く来るのがこの形の相談です。困るのは制作会社選びそのものより、その後に決めていない項目が次々出てくることのほうです。
先に結論を書きます。代理店が制作会社へ再委託するとき、契約前に決めるのは5つです。誰がクライアントと話すか、修正回数を誰が数えるか、見積をどの粒度で受け取るか、実績として公開してよいか、遅延や事故が起きたとき誰が前に出るか。この5つは制作の見積書には載りません。載らないまま進むと、代理店の担当者が自分の工数で穴を埋めることになります。
制作会社側としてお付き合いする形での相談も受けています。お問い合わせからどうぞ。支払いのタイミングは動画制作費はいつ払う、見積書の読み方は動画制作の相見積もりにまとめました。この記事は、その前段にある「間に1社入るときの決めごと」の話です。
詳しい条件・補足を読む
この5つは制作の見積書には載らない
窓口
制作会社はクライアントと直接話してよいか
修正回数
代理店が見る回数と、クライアントが見る回数を分けて数える
見積の粒度
一式ではなく工程ごと。削る交渉ができる
実績公開
制作会社が自社サイトに載せてよいか
責任の所在
遅延・事故のとき、クライアントに説明するのは誰か
見積の粒度と責任の所在は、あとから決められない
代理店が制作会社へ再委託する前に決める5項目。契約前に紙にしておく。
代理店が入ると、登場人物が3人になる
直接発注なら、決めるのは発注者と制作会社の2人です。代理店が入ると、クライアント・代理店・制作会社の3人になります。人が1人増えただけに見えて、実際は決定の経路が2本に分かれます。
分かれると何が起きるか。クライアントの「もう少し明るく」という一言が、代理店を経由して制作会社に届くまでに1日かかり、制作会社の「この日までに素材をください」が、代理店で止まってクライアントに届かない。制作が遅れる理由の多くは、技術ではなくこの伝言の往復です。
だから最初に決めるのは、動画の中身ではありません。誰が誰と直接話してよいかです。ここを曖昧にしたまま「何かあったら連絡します」で始めると、撮影の3日前に全員が別のことを想定している状態になります。
再委託の前に決める5つ
窓口は、場面で分けるのが現実的です。企画中は代理店経由、撮影当日は制作会社が直接話す。全面禁止にすると当日の判断が止まり、全面自由にすると代理店が知らないところで仕様が変わります。
修正回数は、数え方でもめます。制作会社が「3回まで」と書いているとき、その3回に代理店の社内チェックが含まれるのか、クライアントに出した後の差し戻しだけを数えるのか。分けて数えないと、制作会社の想定の倍の作業が発生します。
見積の粒度と責任の所在は、あとから決められない2つです。見積を受け取ったあとで粒度を変えてくれと頼めば作り直しになり、事故が起きてから責任の話を始めれば、まず揉めます。実績公開の可否も、納品後に聞かれると気まずくなる類の質問です。
つまりこの5つは、どれも「後で決めればいい」ように見えて、後になるほど決めづらくなります。制作会社を選ぶ打ち合わせの場で、そのまま質問してしまうのが早いです。
情報が足りない分は、代理店の工数で埋まる
制作会社に渡す情報が足りないとき、不足は誰かが埋めます。たいてい代理店の担当者です。企画が上がってこない、絵コンテが的外れ、という状況の半分は、制作会社が受け取った情報の量で説明がつきます。
渡してあるかを確認する項目は、多くありません。
- 商品・サービスの実物、または詳細が分かる資料
- 過去に出した広告と、そのときの反応
- 言ってはいけない表現(業界の自主規制、社内で禁じている言い回し)
- 決裁に出る人の名前と、その人が過去に何を差し戻したか
- 公開先のアカウントと、直近で伸びた投稿
最後の2つが抜けがちです。制作会社は誰が最終的に判を押すかを知らないまま作り、そこで初めて差し戻される。差し戻しの理由が担当者の好みだった場合、次も同じことが起きます。決裁者の癖は、情報として渡してよいものです。
社内でどこまで回してから出すかについては、SNS投稿の承認フローも参考になります。
見積を「一式」で受け取らない
制作会社から届く見積書に「動画制作一式」とだけ書いてあるとき、代理店はクライアントに何も説明できません。金額を下げてほしいと言われても、どこを削れば何が減るのかが分からないからです。
| 一式で受け取ると | 工程別で受け取ると |
|---|---|
| 値引き交渉が「全体で何%」になる | 撮影日数を1日減らす、という具体で減らせる |
| 追加請求の根拠が説明できない | 見積外の作業だと線が引ける |
| クライアントへの転記で粗利が見えない | 上乗せ分をどこに乗せるか設計できる |
工程別というのは、企画・脚本・撮影・編集・修正対応・素材の権利処理、くらいの分け方です。撮影が何日で、何人が動くのか。ここまで割れていれば、クライアントとの交渉は代理店の担当者だけで完結します。
クレジットと実績公開は、契約時にしか決められない
制作会社の側から見て、実績として公開できるかどうかは受注判断に影響します。公開できる案件は、その後の営業に効くからです。逆に代理店から見ると、クライアントに無断で公開されるのは事故です。
決め方は3つに分かれます。公開可、クライアント名を伏せた形での公開可、公開不可。このうち「伏せた形での公開可」が、実務でいちばん収まりがよい選択肢です。業種と施策の内容だけを出す形なら、クライアントの許可も取りやすくなります。
決めるのは契約のタイミングだけです。納品後に「あの案件、載せていいですか」と聞かれてクライアントに確認を回すと、確認そのものが気まずくなります。
個人に頼むときは、条件を書いて渡す義務がある
詳しい条件・補足を読む
発注先が個人か法人かで、義務のかかる先が変わる
再委託先は、従業員を雇っていない個人か
はい
はい|フリーランス法の対象
条件の明示義務は代理店にかかる。再委託なら元委託の支払期日から30日以内
いいえ
いいえ|制作会社(法人)へ発注
代理店は対象外。ただし制作会社が個人へ再委託すれば、義務は制作会社にかかる
取引条件を紙で出せる相手は、進行の記録も残している
再委託の相手による違い。個人へ直接頼む形にすると、明示義務は代理店側に移る。
制作会社ではなく、フリーランスのカメラマンや編集者へ直接頼む形にすると、法律上の義務が代理店側に移ります。2024年11月に施行されたフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、従業員を雇っていない個人へ業務を委託するとき、委託する内容・報酬の額・支払期日などを書面か電磁的方法で明示することが求められています。口頭の依頼とチャットの断片だけで進めると、この明示をしていない状態になります。
支払期日にも決まりがあります。原則は成果物を受け取った日から60日以内のできる限り短い期間内。さらに、クライアントから受けた仕事を個人へ再委託する場合は、元の委託の支払期日から30日以内という別の基準が置かれています。代理店が「クライアントからの入金後に払う」という運び方をしていると、ここに引っかかることがあります。
制作会社(法人)へ発注する場合はこの法律の対象外ですが、その制作会社が個人へ再委託するときは、今度は制作会社側に同じ義務がかかります。代理店として確認するとしたら、再委託先の管理をしている会社かどうかの一点です。取引条件を紙で出せる相手は、進行の記録も残しています。
- 公正取引委員会「フリーランス法特設サイト」(2026年9月10日参照)
遅延と事故のとき、前に出るのは代理店
再委託の構造では、クライアントとの契約は代理店が持っています。制作会社が納期に遅れても、クライアントに説明するのは代理店です。制作会社を連れて謝りに行くかどうかは案件によりますが、一次対応は代理店から動きます。
これを踏まえると、制作会社に求めるものが変わります。速さや安さより、遅れそうなときに何日前に言ってくるかのほうが、代理店にとっては重要です。撮影の前日に「間に合いません」と言う会社と、10日前に「このままだと危ないので、この工程を削らせてください」と言う会社では、代理店の実務負荷がまったく違います。
初回の打ち合わせで、進行が崩れた過去の案件をどう処理したかを聞いてください。答えられない、または「そういうことはありません」と返す相手は、報告の設計をしていない可能性があります。
まとめ
最初の1社と組むときは、5項目を書いたA4を1枚作って打ち合わせに持っていくのがいちばん早いです。相手の答え方でその会社の進行の作り方が見えますし、次の案件からはそのまま使い回せます。同じ制作会社と2本目、3本目と続けるなら、修正回数と見積の粒度だけ案件ごとに更新すれば足ります。
逆に、この5つを聞いたときに歯切れが悪い相手は、たいてい過去に同じところで揉めています。
制作会社との付き合い方を含めて相談したい場合は、お問い合わせください。当社は自社アカウントの企画・撮影・編集を社内で回しており、代理店経由でのご依頼も受けています。年間の再生回数は1億5,000万回を超えました。
参考リンク
- 公正取引委員会「フリーランス法特設サイト」(2026年9月10日参照)
- 中小企業庁 ミラサポplus「受注者を守る法!手形払い禁止など『取適法』がもたらす変化」(2026年9月10日参照)