代理店が動画制作を外注するときは、クライアントへの確認窓口、修正の数え方、見積もりの範囲、実績公開の可否、遅延時の連絡担当を契約前に決めます。クライアントとの合意と制作会社への依頼に食い違いがあると、追加作業や納期変更の判断が止まります。
同じ仕様を両社へ渡し、誰が承認できるかを明記してください。相見積もりの確認と支払時期の決め方に加え、この記事では代理店を経由する場合の情報と責任の対応を整理します。
代理店が入ると、登場人物が3人になる
直接発注なら、決めるのは発注者と制作会社の2人です。代理店が入ると、クライアント・代理店・制作会社の3人になります。人が1人増えただけに見えて、実際は決定の経路が2本に分かれます。
分かれると何が起きるか。クライアントの「もう少し明るく」という一言が、代理店を経由して制作会社に届くまでに1日かかり、制作会社の「この日までに素材をください」が、代理店で止まってクライアントに届かない。これは連絡経路を決めていない場合に起こり得る行き違いの例です。
だから最初に決めるのは、動画の中身ではありません。誰が誰と直接話してよいかです。ここを曖昧にしたまま「何かあったら連絡します」で始めると、撮影の3日前に全員が別のことを想定している状態になります。
再委託の前に決める5つ
窓口は、場面で分けるのが現実的です。企画中は代理店経由、撮影当日は制作会社が直接話す。全面禁止にすると当日の判断が止まり、全面自由にすると代理店が知らないところで仕様が変わります。
修正回数は、数え方でもめます。制作会社が「3回まで」と書いているとき、その3回に代理店の社内チェックが含まれるのか、クライアントに出した後の差し戻しだけを数えるのか。分けて数えないと、制作会社の想定の倍の作業が発生します。
見積の粒度と責任の所在は、あとから決められない2つです。見積を受け取ったあとで粒度を変えてくれと頼めば作り直しになり、事故が起きてから責任の話を始めれば、まず揉めます。実績公開の可否も、納品後に聞かれると気まずくなる類の質問です。
つまりこの5つは、どれも「後で決めればいい」ように見えて、後になるほど決めづらくなります。制作会社を選ぶ打ち合わせの場で、そのまま質問してしまうのが早いです。
情報が足りない分は、代理店の工数で埋まる
制作会社に渡す情報が足りないとき、不足は誰かが埋めます。たいてい代理店の担当者です。企画が上がってこない、絵コンテが的外れ、という状況では、制作会社へ渡した資料と、合意した依頼範囲を照合します。
渡してあるかを確認する項目は、多くありません。
- 商品・サービスの実物、または詳細が分かる資料
- 過去に出した広告と、そのときの反応
- 言ってはいけない表現(業界の自主規制、社内で禁じている言い回し)
- 承認する役割と、過去に差し戻された表現の条件
- 公開先のアカウントと、直近で伸びた投稿
最後の2つが抜けがちです。制作会社は誰が最終的に判を押すかを知らないまま作り、そこで初めて差し戻される。個人の印象に置き換えず、商品情報やブランドの基準として共有してください。承認の基準は、資料として共有しておきたいものです。
社内でどこまで回してから出すかについては、SNS投稿の承認フローも参考になります。
見積を「一式」で受け取らない
制作会社から届く見積書に「動画制作一式」とだけ書いてあるとき、代理店はクライアントに何も説明できません。金額を下げてほしいと言われても、どこを削れば何が減るのかが分からないからです。
| 一式で受け取ると | 工程別で受け取ると |
|---|---|
| 値引き交渉が「全体で何%」になる | 撮影日数を1日減らす、という具体で減らせる |
| 追加請求の根拠が説明できない | 見積外の作業だと線が引ける |
| クライアントへの転記で粗利が見えない | 上乗せ分をどこに乗せるか設計できる |
工程別というのは、企画・脚本・撮影・編集・修正対応・素材の権利処理、くらいの分け方です。撮影が何日で、何人が動くのか。ここまで割れていれば、クライアントとの交渉は代理店の担当者だけで完結します。
実績公開は、公開する内容ごとに同意を残す
クライアント名を伏せても、映像、商品、撮影場所から案件が分かる場合があります。「匿名なら公開可」を既定にせず、社名・動画本編・画面画像・成果数値など、公開するものを分けて確認してください。
| 公開するもの | 確認する内容 |
|---|---|
| クライアント名・ロゴ | 掲載先と表記、使用の同意 |
| 動画・画面画像 | 出演者・音楽を含む使用範囲 |
| 制作の担当範囲 | 企画・撮影・編集のうち担当した工程 |
| 成果数値 | 指標・期間・出典・掲載の許可 |
契約時に方針を決め、実際の掲載原稿を誰が確認するかまで残します。納品後に追加で同意を取る場合も、回答前に掲載しないでください。
フリーランス法は法人でも対象要件を確認する
フリーランス法の対象となる受注者には、従業員を使用しない個人のほか、代表者以外の役員がなく、従業員も使用しない法人が含まれます。法人の制作会社への発注を一律に対象外とはできません。対象となる取引では、業務内容や報酬・支払期日などの条件を、書面またはメール等で明示する必要があります(関係省庁のガイドライン)。
報酬の支払期日の規定は、従業員を使用する等の要件を満たす発注者が対象です。原則は給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内。再委託の例外を用いるには、通常の取引条件に加え、再委託である旨、元委託者の氏名・名称、元委託業務の支払期日の明示が必要です。その要件を満たすと、元委託支払期日から30日以内のできる限り短い期間内に設定できます。「入金されたら払う」という約束に置き換えないでください。
制作会社から別の制作者へ再委託する場合も、その発注関係で対象要件を確かめます。代理店は、元の依頼の仕様と期限を渡し、再委託先へ条件を明示する担当者を決めておきます。2026年10月に原文を確認した文化庁の契約に関するFAQで、義務ごとの対象と取引条件を確認できます。
遅延と事故のとき、前に出るのは代理店
再委託の構造では、クライアントとの契約は代理店が持っています。制作会社が納期に遅れても、クライアントに説明するのは代理店です。制作会社を連れて謝りに行くかどうかは案件によりますが、一次対応は代理店から動きます。
これを踏まえると、制作会社に求めるものが変わります。速さや安さより、遅れそうなときに何日前に言ってくるかのほうが、代理店にとっては重要です。撮影の前日に「間に合いません」と言う会社と、10日前に「このままだと危ないので、この工程を削らせてください」と言う会社では、代理店の実務負荷がまったく違います。
初回の打ち合わせで、進行が崩れた過去の案件をどう処理したかを聞いてください。答えられない、または「そういうことはありません」と返す相手は、報告の設計をしていない可能性があります。
キックオフで、承認の記録をそろえる
最初の1社と組むときは、5項目を書いたA4を1枚作って打ち合わせに持っていくのがいちばん早いです。相手の答え方でその会社の進行の作り方が見えますし、次の案件からはそのまま使い回せます。継続案件でも、公開先、利用期間、承認者、納期、実績公開の条件が変わっていないか確認してください。
未確定の項目は、回答する担当者と期限を残します。回答が遅いことだけで過去のトラブルを推測せず、着手に必要な条件が決まったかで判断してください。
制作会社との付き合い方を含めて相談したい場合は、お問い合わせください。当社は自社アカウントの企画・撮影・編集を社内で回しており、代理店経由でのご依頼も受けています。年間の再生回数は1億5,000万回を超えました。
参考リンク
- 中小企業庁 ミラサポplus「受注者を守る法!手形払い禁止など『取適法』がもたらす変化」(2026年9月10日参照)