見積書の金額に合意した後、次に決まっていないのが支払いのタイミングです。「請求書はいつ届くのか」「経理に何月の支出だと伝えればいいのか」を聞かれて、答えられずに社内で止まる。発注のたびに起きます。

先に結論を書きます。動画制作費は、着手時と検収後の2回に分けて払うのが実務でいちばん多い形です。そのうえで発注側が契約前に決めるのは4つ、分割の割合・検収が終わる条件・支払期日の起算日・途中で止めたときの精算です。金額は見積書に書いてありますが、この4つは書かれていないことのほうが多く、揉めるのはたいていこちら側です。

支払い条件も含めて発注の枠組みから相談したい場合はお問い合わせください。見積書そのものの読み方は動画制作の相見積もり、契約書で見る条項は動画制作の業務委託契約書にまとめています。この記事は、その契約で決めた金額を、いつ、どの単位で払うかの話です。

関係を整理 支払時期は、外部手配の量で変わる 契約の形 記事内の支払例 編集のみ・小額単発 納品後に一括 撮影ありの単発 着手時・検収後の分割 長期シリーズ 着手・中間・検収後 月次運用 月単位で精算
詳しい条件・補足を読む

撮影が入るかどうかで、支払いの回数が変わる

編集だけ/小額の単発

納品後に一括

制作会社の持ち出しがほぼない

撮影が入る単発

着手時50%・検収後50%

実務でいちばん多い形

シリーズ/2か月超

着手・中間・検収後の3分割

中間は工程名で決める

月次の運用契約

月末締めの翌月払い

本数ではなく月で払う

撮影前に外部へ出ていく費用が多いほど、支払いは前に寄る

案件の大きさ別の支払いの分け方。中間金は「撮影完了時」「初稿提出時」と工程の名前で書く。

支払いの分け方は、金額と期間で決まる

分割の回数は交渉で決まるというより、案件の大きさでほぼ決まっています。制作会社が撮影前に外部へ支払うお金が多いほど、前に寄ります。

一括後払いになるのは、既存素材の編集だけを頼むような、制作会社の持ち出しがほとんどない案件です。撮影が入ると2分割が標準になり、着手時に半分、検収後に残りという形が多くなります。複数本のシリーズや、企画から納品まで2か月を超える案件では、中間に1回入れて3分割にします。月ごとに本数を決めて回す運用契約は分割ではなく、月末締めの翌月払いという月次の支払いになります。

発注側から見て注意したいのは、3分割の中間金です。「中間」がどの時点を指すのかを決めずに契約すると、撮影が終わった日なのか、初稿が上がった日なのかで2週間ずれます。工程の名前で書いてください。撮影完了時、初稿提出時、と書けば解釈が割れません。

着手金は、撮影前に外へ出ていくお金

着手金の割合は30〜50%が実務の幅です。この数字だけを見て高いか安いかを判断するより、その着手金が何に使われるのかを聞いたほうが早く決まります。

撮影が入る案件では、撮影日より前に制作会社の外へお金が出ていきます。出演者の拘束を押さえるための手付、スタジオやロケ地の予約金、美術と衣装の購入費、外部のカメラマンや照明への手配金。これらは撮影が終わってから払うものではなく、押さえた時点で発生します。着手金は制作会社の利益の前取りではなく、この立て替えを埋めるためのものです。

だから判断はこうなります。着手金を100%求められたら、何にいつ使うのかの内訳を聞いてください。撮影前に出ていく実費が総額の半分を超えることは、ショートドラマの制作ではまずありません。逆に発注側が全額後払いを求めると、規模の小さい制作会社は受けられなくなります。断られたのではなく、キャッシュが先に出る構造上、受けようがないという場合があります。

当社の現場では、ロケ費と出演者の拘束費が乗る案件だけ着手金をいただき、編集だけの案件は後払いにしています。前に寄せる理由が案件側にあるかどうかで決めているので、同じ相手でも案件によって条件が変わります。

「検収」がいつ終わるかを、日数で書いておく

支払日を数え始める起点は、納品日ではなく検収日にしている契約が多くあります。ここが最も止まりやすい場所です。

納品はデータを渡した時点、検収は発注側が中身を確認して合格を出した時点です。この2つを分けたまま、検収の期限を決めていないと、社内の確認が回らないあいだ支払いも止まります。制作会社から見ると入金予定が立たず、発注側から見ると「請求書が来ない」という形で表面化します。どちらも悪意はなく、ただ期限が決まっていないだけです。

契約書に入れるのは1行です。納品から5営業日以内に可否を返す、期間内に返答がない場合は合格とみなす。この後段があるかどうかで、止まったときの扱いが変わります。あわせて、修正が入った場合に検収の起算がどこへ戻るのかも決めてください。修正版の再提出日から数え直すのが一般的です。

検収で何を見るのかは動画制作の納品データで受け取るもの、修正の出し方は動画制作の修正依頼の出し方にまとめています。検収を早く終わらせる方法は、確認する人を最初に1人決めておくことに尽きます。関係者全員の合意を検収の条件にすると、期限は必ず溶けます。

支払期日には、法律で上限がかかる場合がある

支払いサイトは自由に決められると思われがちですが、発注先によっては上限が法律で決まっています。自社に効くかどうかは、発注先がどこかで分かれます。

関係を整理 支払条件は、発注先と取引区分で確認 相手・取引 確認する法令 個人・一人法人等 フリーランス法の 対象を確認 それ以外 取適法の適用区分を確認 いずれも対象外 合意条件・民法を確認
適用要件と例外は本文・専門家で確認。名称だけでは決めない。
詳しい条件・補足を読む

支払期日の上限は、発注先が誰かで決まる

発注先は、従業員を使わない個人・一人法人か

はい

フリーランス法が効く

受領日から60日以内のできる限り短い期間内。再委託なら元委託の支払期日から30日以内

いいえ

取適法の区分に当たるか、当たらなければ民法

取適法(2026年1月1日施行)に当たれば手形払い禁止など。当たらなければ合意した期日が優先

同じ案件でも、制作会社と個人カメラマンで効く法律が変わる

発注先ごとに効く法律が違う。出典は公正取引委員会のフリーランス法特設サイトと中小企業庁。

発注先が従業員を使わない個人や一人法人であれば、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が効きます。公正取引委員会の特設サイトによれば、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定め、その日までに支払う義務があります。60日は上限であって、検査に時間がかかるからという理由で超えることは認められていません。再委託の場合は、再委託である旨と元委託者名、元委託業務の支払期日を明示していれば、元委託の支払期日から30日以内という形にできます。

発注先が中小の制作会社で、自社が一定規模以上であれば、2026年1月1日に施行された取適法(中小受託取引適正化法)の対象になります。下請法を改称・改正したもので、手形払いの禁止が新しく入りました。カメラマンやスタイリストを個人で立てて直接契約する場合は、同じ案件の中で適用される法律が発注先ごとに変わります。

どちらにも当たらない場合は民法の世界で、合意した支払期日が優先されます。この場合に実務で問題になるのは法律ではなく自社の支払サイトのほうで、月末締めの翌々月末払いを標準にしている会社では、9月上旬の納品に対する入金が11月末になります。制作会社が着手金を求める理由の半分はここにあるので、社内の支払サイトを先に伝えておくと条件の話が早く終わります。

止めたとき、増えたときの精算を先に決める

支払いの取り決めが試されるのは、予定どおりに終わらなかったときです。

発注側の都合で途中解除する場合、民法641条は、注文者は仕事が完成しない間はいつでも契約を解除できると定めていますが、それによって生じた損害の賠償が必要になります。撮影日の直前に止めれば、押さえたスタジオも出演者も戻ってきません。すでに終わった工程については、民法634条により出来高に応じた報酬が発生します。契約書には「解除時点までに完了した工程の対価と、支払済みの外部費用を精算する」という形で書いておくと、金額の議論が工程の話に落ちます。天候などで撮影が止まったときの負担はショートドラマ撮影の延期と中止で整理しています。

増えたときはこの逆で、条件を先に文章にします。修正が規定回数を超えたとき、撮影当日に拘束時間が延びたとき、納品後に別の尺やフォーマットを追加するとき。この3つが実際に多い場面です。見積書のどこを見れば追加の条件が読めるのかは動画制作の相見積もりにまとめました。追加が出るたびに見積を出し直すのか、月末にまとめて精算するのかも、最初に決めておくと請求のタイミングが読めます。

当社の場合

参考までに、当社の標準的な条件を書いておきます。撮影が入る単発の案件は着手時50%、検収後50%の2分割。編集のみは納品後の一括。月次で本数を決めて回す運用契約は、月末締めの翌月末払いです。検収は納品から5営業日、返答がない場合は合格として扱います。

見積を出す段階で、追加費用が発生しうる場面を先に3つお伝えしています。修正の回数を超えたとき、撮影当日に拘束が延びたとき、納品後に尺違いを追加するときです。先に言っておくと、そのうち1つか2つは発注側の準備で消えます。当社の制作の進め方はショートドラマ制作、これまでの作品は制作実績にまとめています。

よくある質問

Q. 着手金なしで発注できますか?

編集だけの案件や、金額の小さい単発なら可能なことが多いです。撮影が入る案件では、制作会社が撮影前に外部へ支払う費用があるため、全額後払いは断られる場合があります。難しいと言われたら、着手金の額そのものより「何に使うのか」を聞いて、実費の範囲まで下げられないか相談してください。

Q. 支払いは納品日から数えるのですか、検収日からですか?

契約書の書き方によります。検収日を起点にしている契約が多いので、検収の期限を決めていないと支払日も決まりません。納品から何営業日以内に可否を返すかを契約書に入れてください。

Q. 60日以内に支払わないと違法になりますか?

発注先によります。従業員を使わない個人や一人法人への発注であればフリーランス法の対象で、受領日から60日以内の支払いが義務です。それ以外は取適法の資本金・従業員の区分に当たるかどうかで変わり、どちらにも当たらなければ民法上は合意が優先されます。

Q. 分割払いにすると総額は上がりますか?

分割そのもので金額は変わりません。金額が動くのは、支払時期ではなく制作の中身が変わったときです。

Q. 途中で中止した場合、着手金は返ってきますか?

すでに外部へ支払われた費用は戻りません。出来高に応じた報酬の考え方(民法634条)で、完了した工程の対価と支払済みの実費を差し引いた残りを精算する形が実務的です。

まとめ

動画制作費の支払いは、決め方を4つに絞ると迷いません。

  1. 分割の回数と割合を、案件の大きさに合わせて決める(撮影が入るなら2分割が標準)
  2. 着手金は「何に使うか」で妥当性を判断する。実費が総額の半分を超えることはまずない
  3. 検収の期限を営業日で書き、返答がない場合の扱いまで決める
  4. 止めたとき・増えたときの精算方法を、工程の言葉で契約書に入れる

この4つを見積の段階で確認しておくと、経理への説明が最初から通ります。支払い条件は制作の質とは関係のない話に見えますが、条件が決まっていない案件は、実際には進行そのものが止まりやすいという形で品質に返ってきます。

参考リンク