運用代行と契約して3か月経ったのに、投稿本数が計画の半分しか出ていない。この相談を受けて工程を分解すると、遅れているのは撮影でも編集でもなく、できあがった動画が社内を通過する時間であることがほとんどです。制作は5営業日で終わっているのに、確認依頼のメールが4人を回って12営業日かかっている。
先に結論を書きます。承認は「事実の確認」「表現の判断」「レギュレーションの確認」の3つに分け、それぞれ承認者を1人ずつ決めて、投稿カレンダーに承認の締切を書き込む。この3層を分けずに「関係者全員で確認」と決めると、何が終われば次に進めるのかが誰にも分からなくなり、投稿が止まります。
依頼先の選び方とサービス範囲・費用感はショートドラマSNS運用代行 完全ガイドにまとめています。この記事はその先、契約したあとに社内で作る確認の段取りの話です。
止まっているのは制作ではなく承認
運用が計画どおりに回らないとき、発注側の会議では「制作会社の納品が遅い」という話になりがちです。ところが工程表に実際の日付を入れて並べ直すと、多くの場合こうなります。
| 工程 | 動いている人 | 止まりやすい理由 |
|---|---|---|
| 企画・台本の提出 | 制作会社 | 締切があるので動く |
| 台本の承認 | 発注側 | 誰がOKを出すか決まっていない |
| 撮影・編集 | 制作会社 | スケジュールが押さえてある |
| 初稿の承認 | 発注側 | 見た人が全員コメントを足す |
| 修正 | 制作会社 | 戻し方次第で1往復増える |
| 投稿の最終確認 | 発注側 | 法務・広報が最後に登場する |
太字が発注側の工程です。制作会社の工程には契約上の納期があり、社内の工程には何もない。だから時間が伸びるのは必ず後者になります。ここに手を入れないまま代行会社を替えても、翌月に同じことが起きます。乗り換えを検討する前に見る観点は動画制作会社の変更と引き継ぎに書きました。
もう一つ、遅れの中身も分けて見てください。承認が遅い会社には「判断が難しくて考えている時間」と「誰の番か分からず放置されている時間」の2種類があり、後者のほうが圧倒的に長いです。前者は仕事ですが、後者は設計の欠落です。
承認を3つに分ける
「確認」を1語で扱うから、全員が全部を見ることになります。中身は3つです。
事実の確認は、商品名・価格・仕様・キャンペーン期間・出演者の肩書きが正しいかどうかです。正解が1つしかないので、判断ではなく照合になります。ここは商品やサービスを一番よく知っている人が見るのが速く、役職は関係ありません。
表現の判断は、その言い回しを自社ブランドとして出していいかどうかです。正解がないので、決める人を1人に絞らないと収束しません。会議で多数決にすると、いちばん保守的な意見に寄って動画から角が取れ、結果として誰の記憶にも残らないものが出ていきます。
レギュレーションの確認は、景品表示法・薬機法・業界の自主基準・PR表記など、外の基準に照らす作業です。ここも判断ではなく照合なので、チェックリストの形にできます。業種によっては医薬品等適正広告基準や医療広告ガイドラインが効くので、初回だけ法務と一緒に自社用のリストを作っておくと、2本目以降は担当者が自分で通せます。
3層に分けると、並行して回せるようになります。事実確認と表現判断は同時に投げていい。レギュレーションだけは台本段階で一度、初稿でもう一度と2回通します。撮ってしまったあとに表現がNGになると、直す手段が編集か撮り直しかの二択になり、費用が跳ねるからです。台本段階で何を見るかは動画制作の台本チェック|撮影前に発注者が見る7項目にまとめました。
承認者は1人ずつ決め、締切を投稿カレンダーに書く
3層に分けたあとにやることは2つだけです。
1つ目、各層の承認者を1人ずつ決めて名前で書く。部署名で書くと、休んだ日に止まります。代理も同時に決めてください。「商品担当=Aさん、不在時=Bさん」まで書いて、はじめて運用が回ります。
2つ目、承認の締切を投稿カレンダーに置く。撮影日や公開日は誰でもカレンダーに入れますが、承認の締切を入れている会社は多くありません。公開日から逆算して「台本承認◯日」「初稿承認◯日」を先に入れ、そこから制作会社の作業日数を引いて発注日を決めます。順番が逆だと、社内の確認日数がいつも最後にしわ寄せされます。
締切と一緒に決めておくと効くのが、返事がないときの扱いです。期限までに反応がなければ承認とみなす、という運用にしている会社は珍しくありません。乱暴に見えますが、実務では「見ていないので止まっている」を減らす効果が大きい。抵抗があるなら、対象を表現判断だけに絞り、事実確認とレギュレーションは明示的な承認を必須にする形でも構いません。
戻し方も決めておいてください。関係者が各自の言葉でコメントを書き込むと、制作会社側で優先順位が付けられず、往復が1回増えます。窓口を1人に決めて、そこで矛盾を潰してから渡す。修正の伝え方は動画制作の修正依頼の伝え方で詳しく書いています。
ショートドラマは承認の重心が台本にある
縦型のショートドラマは、通常の広告動画と承認の重さが違います。理由は、内容の大半が「演技と間」で決まるからです。
台本の文字面はおとなしくても、演じ方によって印象が変わります。逆に、台本の段階で気になった表現は、撮影後にはほぼ直せません。セリフを1行変えるだけでも、その前後のカットと音がつながらなくなるからです。編集で消せるのは、独立した1カットか、テロップくらいです。
そのため弊社では、運用案件の承認は台本に厚く、初稿は薄く設計します。台本を出す前にこちらで法令・炎上リスクの当たりを付けておき、発注側には「判断が要る箇所」を明示して渡す。全ページを平らに読んでもらうより、3か所を集中して見てもらうほうが速く、見落としも減ります。
もう1点、ショートドラマ特有の論点として演者の扱いがあります。同じ演者が続けて出ることでアカウントが伸びるので、初回の承認では「この人を自社の顔として続けていいか」までを見る必要があります。1本目を単発の広告として承認すると、3本目で「この人はイメージと違う」と巻き戻る。演者と企画の継続性は最初の承認に含めてください。
ショートドラマと一般的なショート動画で何が違うのかはショートドラマとショート動画の違いに整理しています。
景品表示法が求めているのは「体制」
承認フローは社内の都合の話に見えて、実は法令が事業者に求めている措置と重なります。
景品表示法は、不当な表示を未然に防ぐために必要な措置を講じることを事業者に求めています。消費者庁の指針に関するQ&Aによれば、事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針(平成26年11月14日内閣府告示第276号)が挙げる事項は次の7つです。
- 景品表示法の考え方の周知・啓発
- 法令遵守の方針等の明確化
- 表示等に関する情報の確認
- 表示等に関する情報の共有
- 表示等を管理するための担当者等を定めること
- 表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置を採ること
- 不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応
5番の「表示等管理担当者」は、表示の根拠となる情報を自ら確認し、表示を作る側が適切に作っているかを監督する役割として説明されています。この記事で「承認者を1人ずつ名前で決める」と書いたことと、指しているものは同じです。指針が求める措置は事業者の規模や業態に応じて必要かつ適切な範囲で講じるものとされており、指針どおりでないことが直ちに違反になるわけではありませんが、承認の担当者と根拠の残し方を決めておく実務的な理由になります。
もう一つ、SNSで固有に効くのがステルスマーケティング規制です。消費者庁は令和5年10月1日から、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示を景品表示法違反として扱っています。規制の対象になるのは、依頼された投稿者ではなく、商品やサービスを供給する事業者のほうです。運用代行やインフルエンサーに投稿を任せていても、責任は発注側に来ます。
したがって承認フローには、PR表記の設定が正しく入っているかを確認する工程を必ず1つ置いてください。動画の中に「PR」と入れるだけでなく、プラットフォーム側の開示機能を使うのが確実です(TikTokのブランドコンテンツ表示、YouTubeの有料プロモーションの申告)。この設定は投稿時にしか入れられないため、動画の承認とは別に「投稿画面での最終確認」を工程として立てる必要があります。誰がその画面を開けるのかという話はSNSアカウントの権限管理に書きました。
運用代行に渡す承認ルール7項目
代行会社に渡す運用ルールに、次の7項目を書いておくと運用初月から止まりません。
詳しい条件・補足を読む
運用ルールに書く7項目
この7つが書いてあれば、運用初月から承認で止まらない
3層それぞれの承認者と代理
氏名で書く。連絡手段も1つに決める
提出から承認までの営業日数
台本◯営業日、初稿◯営業日
期限を過ぎたときの扱い
みなし承認にするか、公開日をずらすか
フィードバックの窓口
戻しを1人に集約し、矛盾を潰してから渡す
レギュレーションのチェックリスト
自社の業種で必ず見る項目を列挙する
PR表記の設定担当
投稿画面と動画内表記の両方を書く
承認の記録の残し方
日付・対象・承認者・根拠を1行ずつ
7番が効くのは公開の数か月後。「誰がこれをOKしたのか」を聞かれる場面はそこで来る
代行会社に渡す運用ルールに書いておく項目。月次の定例で見直すと、定型化した表現判断を承認から外せる。
- 3層それぞれの承認者と代理:氏名で書く。連絡手段も1つに決める
- 提出から承認までの営業日数:台本◯営業日、初稿◯営業日
- 期限を過ぎたときの扱い:みなし承認にするか、公開日をずらすか
- フィードバックの窓口:戻しを1人に集約し、矛盾を潰してから渡す
- レギュレーションのチェックリスト:自社の業種で必ず見る項目を列挙する
- PR表記の設定担当:投稿画面で誰が入れるか。動画内表記との両方を書く
- 承認の記録の残し方:誰が何日にOKを出したかを1行ずつ残す
7番は面倒に見えますが、後から効きます。表示の根拠を事後的に確認できるようにしておくことは指針の6番に当たりますし、社内で「誰がこれをOKしたのか」が問題になる場面は、公開の数か月後に来ます。日付・対象・承認者・確認した根拠を1行ずつ書ける表があれば足ります。
このルールは月次の定例で見直してください。運用が進むと、最初は全部見ていた表現判断のうち半分が定型になり、承認者の負荷を下げられます。定例で何を決めるかはSNS運用代行の月次レポートの見方にまとめています。公開後のコメント対応の分担はSNS運用代行のコメント対応が別記事です。
弊社が運用案件でやっていること
私たちがショートドラマの運用を受けるとき、契約直後の打ち合わせで必ず決めるのが、承認者の名前と承認日数の2つです。企画の方向性より先に決めます。ここが空欄のまま走った案件は、例外なく2か月目に本数が落ちました。
台本を渡すときは、判断してほしい箇所に印を付けます。全ページを均等に読んでもらうと、たいてい細かい言い回しの指摘が集まり、肝心の「この設定でシリーズを続けていいか」が誰にも判断されないまま撮影日が来ます。見てほしい場所を絞るのは、こちらの仕事です。
もう一つ、月に一度まとめて撮る運用では、台本の承認締切が撮影日の何日前かを最初に決めます。前日に承認が来ても、ロケ地も演者も動かせません。撮影の何日前に何が確定していなければならないかは、撮影の立ち会い側で工程ごとに書いています。誰に出てもらうかを社内でまだ決めていない場合は、承認フローを作る前にショートドラマの出演者の選び方を先に読んでください。出演者が社員かプロの役者かで、承認に呼ぶ部署が変わります。
よくある質問
Q. 承認者を1人に絞ると、後から役員に差し戻されませんか?
A. 差し戻しが起きるのは、承認者の権限が明文化されていないときです。運用開始時に「この人のOKで公開する」を上長が承認しておけば、個別の動画は下りません。逆に、毎回役員が見る運用にするなら、その分の日数を最初からカレンダーに入れてください。
Q. 期限切れをみなし承認にするのは危険ではないですか?
A. 全層に適用すると危険です。事実の確認とレギュレーションは明示承認を必須にし、表現判断だけをみなし承認にするのが現実的な線です。事実誤認と法令違反は取り返しがつきませんが、表現の好みは次回に反映すれば足ります。
Q. 承認のやりとりはメールとチャットのどちらがいいですか?
A. どちらでも構いませんが、1本の動画に対する承認が1か所に集まる形にしてください。メールとチャットと会議に分散すると、承認の記録が追えなくなります。
Q. 代行会社が承認フローを作ってくれることはありますか?
A. 叩き台は出せます。ただし承認者を決められるのは発注側だけです。弊社の場合はテンプレートを提示して、名前と日数を埋めていただく形にしています。
Q. PR表記は運用代行に任せられますか?
A. 投稿の実務は任せられますが、責任は発注側の事業者に残ります(消費者庁・令和5年10月1日施行)。設定漏れがないかを月次で確認する工程を、発注側に1つ残してください。
Q. 承認の日数はどれくらいが適正ですか?
A. 弊社の運用案件では、台本が2〜3営業日、初稿が2営業日あれば止まりません。これより長い日数を置いている会社は、日数が足りないのではなく、承認者が決まっていないことが多いです。
まとめ
投稿本数が計画どおりに出ない原因の多くは、制作の速度ではなく社内の待ち時間にあります。承認を事実・表現・レギュレーションの3層に分け、それぞれ1人ずつ承認者を決め、承認の締切を投稿カレンダーに入れる。この3つを運用開始前に紙にしておけば、初月から計画どおりの本数が出せます。
弊社は企画・制作とSNS運用を一緒に受けているので、承認で止まりやすい箇所を工程表の側から先に潰せます。年間再生回数1億5,000万回を超える運用の中で作ってきた承認ルールのテンプレートは、そのままお渡ししています。
運用の立ち上げから相談したい方はお問い合わせからご連絡ください。
参考リンク
- 消費者庁「指針に関するQ&A」(2026-09-06参照)
- 消費者庁「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(平成26年11月14日内閣府告示第276号)(2026-09-06参照)
- 消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります」(2026-09-06参照)
- 消費者庁「景品表示法」(2026-09-06参照)
- TikTokヘルプ「ブランドコンテンツ」(2026-09-06参照)
- YouTubeヘルプ「有料プロモーションを含むコンテンツ」(2026-09-06参照)