「PR動画を作っても、若い世代に全然届かない」「予算を取りに行きたいけど、議会・財政課への説明材料がない」。この2つの悩みは、全国の自治体・観光協会・DMO担当者の現場で同時多発的に起きている。観光庁の2026年度予算は前年比2.4倍の1,383億円に拡大し、地方誘客とコンテンツ造成は明確に重点領域に位置づけられた。

参考: 観光庁2026年度予算(やまとごころ.jp)

一方、自治体の動画施策は「制作して終わり」「YouTubeに置いて終わり」が依然として多く、企画段階での意思決定設計・予算サイクルへの組み込み・発注仕様書の解像度のいずれかで失敗するケースが目立つ。本記事はそこに踏み込んだ実務ガイドだ。

本記事を読むとわかること。

・地方創生×ショートドラマの市場性と、議会・財政課に通る政策的根拠

・2026年度に活用できる国・自治体の予算枠と申請サイクル

・KPI設計(指名検索/来訪/予約/関係人口)の具体例

・自治体向けに最適化された企画5パターン

・プロポーザル仕様書・契約・公募の実務

・群馬県・別府市・北海道などの実在事例(一次ソースURL付き)

・現場でよく起きる失敗5選とFAQ

対象読者は、自治体広報課・観光振興課・シティプロモーション課の担当者、観光協会・DMOの企画担当、自治体伴走型コンサル、そして地域広告会社の営業担当である。自治体・観光協会・DMOがショートドラマで成果を出すには、予算サイクルへの組み込みと、地域独自の物語設計が決め手だ。この結論を、実務ステップに落とし込んで解説する。

先に結論。 自治体・観光PRのショートドラマは、次の4点を押さえると議会と若年層の両方に通る。

論点答え(詳しくは該当章)
いつ動くか7〜9月の概算要求フェーズに企画書を持ち込む。補正予算なら遅くとも9〜10月に公告開始(第2章)
いくらから100〜300万円の試行(縦型1〜3本+運用1〜2か月)から。500万円前後が単年度の事業課予算で通しやすい(第2章)
何を測るか再生数は入口指標。指名検索数・公式サイト流入・来訪・関係人口の多層KPIで議会に説明する(第3章)
どう発注するか9:16縦型・15〜60秒、自治体名は冒頭に出さない、運用・分析まで契約範囲に含める(第5・7章)

第1章: 地方創生×ショートドラマの市場性

1-1. インバウンドは過去最高、地方誘客は明確な政策テーマ

2025年の訪日外国人数は 4,268万人、前年比15.8%増で過去最高を更新した。初の4,000万人超えである。参考: JNTO 訪日外客統計(2025年12月推計値)

国・地域別では韓国945万人、中国909万人、台湾676万人、米国330万人と続く。注目すべきは欧米豪市場の伸びで、米国・カナダ・欧州各市場は2019年同期比で200%超を記録した。

項目2025年実績政策的含意
訪日外客数4,268万人(過去最高)受入余力ある地方への分散が国策
韓国945万人アジア圏は「訪日の日常化」
欧米豪2019年比200%超高付加価値層は地方を求める
地方誘客前年比14%増三大都市圏以外への送客は政策評価軸

オーバーツーリズム対策と地方誘客の両立が政府の最重要テーマとなり、2026年度観光庁予算は 1,383億円(前年比2.4倍)に拡大した。文化資源を活用したコンテンツ造成には223億円が計上され、観光DX推進事業も継続する。参考: 観光庁2026年度予算 ポイント解説

1-2. 関係人口という新しい評価軸

地方創生の文脈では、移住の「定住人口」、観光の「交流人口」と並ぶ第三の概念として 関係人口 が公的に定義されている。総務省によれば、関係人口とは「移住した『定住人口』でもなく、観光に来た『交流人口』でもない、地域や地域の人々と多様に関わる者」である。参考: 総務省 関係人口ポータルサイト

特定の地域に継続的かつ多様な関わりを持つ関係人口(訪問系)は、全国18歳以上居住者の 約2割弱・1,827万人(推計値) とされる。ショートドラマは「観光する前段階」「移住する前段階」のファン化=関係人口創出装置として機能する。

1-3. 縦型ショートドラマがZ世代の入口になり、自治体施策に向く理由

従来の自治体PR動画(横型3〜5分・名所紹介型)はZ世代の視聴行動と構造的にミスマッチを起こしている。

視聴行動Z世代の実態従来PR動画
視聴環境スマホ縦型PC/TV横型
視聴尺15〜60秒3〜5分
発見経路TikTok / Instagram自治体公式サイト
期待する情報感情体験・共感観光スポット紹介
視聴体勢流し見・スワイプ前提視聴環境を整えてから

入口がSNSのショートに完全に切り替わっているなか、自治体側が依然として横型・長尺・公式チャンネル中心の運用を続けていれば、若年層への到達は構造的に不可能だ。縦型ショートドラマは、この入口の変化に対応する最有力フォーマットである。

自治体施策に向く理由は3つある。

第一に、広告として認識されない点。物語形式で受容されるため、PR動画にありがちな「飛ばされる」現象が起きにくい。

第二に、地域固有の資産(方言・風景・人物・歴史)が物語の素材として直接活用できる点。

第三に、KPIが可視化しやすい点。再生数・エンゲージメント・指名検索数・関連語検索数の全てがデジタル計測可能で、議会報告に耐える数値資料になる。


第2章: 自治体予算サイクルへの組み込み

2-1. 自治体予算の年間スケジュール

自治体のショートドラマ施策で最も多い失敗は「やりたい時期に予算がない」である。これを避けるには、自治体予算の年間サイクルに企画を合わせる必要がある。

流れをつかむ 次年度の企画は、概算要求の前へ 1 4〜6月 当年度の執行・補正検討 2 7〜9月 次年度の概算要求に企画を出す 3 10〜12月 財政課・首長の査定 4 1〜2月 予算案の上程・議決 5 3月 執行締め・公募開始
詳しい条件・補足を読む

自治体予算の年間サイクル

企画書は7〜9月の概算要求に持ち込む。1〜3月では年度内に間に合わない

1

4〜6月

当該年度予算の執行開始/補正予算の検討

2

7〜9月

次年度予算の概算要求作成(担当課→財政課)。ここに企画書を持ち込む

3

10〜12月

財政課査定/首長査定

4

1〜2月

予算案の議会上程・議決

5

3月

当該年度の執行締め/公募開始

公告から契約まで2〜3か月かかるので、年度内納品なら公募開始日も逆算する

自治体予算の年間サイクル。「やりたい時期に予算がない」を避けるには、このサイクルに企画を合わせる。

月予算プロセス
4〜6月当該年度予算執行開始/補正予算検討
7〜9月次年度予算概算要求作成(担当課→財政課)
10〜12月財政課査定/首長査定
1〜2月予算案議会上程・議決
3月当該年度執行締め/公募開始

ショートドラマ施策を提案するなら、7〜9月の概算要求フェーズに企画書を持ち込むのが王道である。1〜3月になってから「やりたい」と言っても、その年度内には間に合わない。

3月に公募が集中するのもこのサイクルの帰結で、公告から契約までは2〜3か月かかる(第5章)。年度内に納品まで終えたいなら、公募の開始日も逆算して置く。

2-2. 補正予算と、活用できる国・広域の予算枠

国の補正予算が編成されると、地方創生・観光振興系の交付金が下りるタイミングがある。観光庁の令和7年度補正予算でも「全国の観光地・観光産業における観光DX推進事業」が公募された。参考: 観光庁 観光DX推進事業 公募情報

補正対応の場合、執行期限が短い(例: 当該年度末まで)。短納期で動かせるショートドラマ(撮影2日・編集2週間・本数3〜5本)が補正の受け皿として相性が良い。

当初予算・補正のどちらでも、財源候補として挙げられる国・広域の枠は次の通り。

予算枠所管ショートドラマでの活用余地
観光DX推進事業観光庁デジタルツール導入の一環として動画制作
文化資源活用コンテンツ造成観光庁(2026年度223億円)地域文化を主題とした映像コンテンツ
新しい地方経済・生活環境創生交付金内閣官房・内閣府地方公共団体が申請主体。SNS発信事業に組込可能
ふるさと納税PR各自治体返礼品・地域ブランド訴求動画
地域おこし協力隊関連総務省関係人口創出の文脈で動画活用可能

国の交付金は地方公共団体が申請主体となるため、民間制作会社は 自治体の事業に参画する立場 で関わる。提案段階から「この事業はXXX交付金の対象に組み込める」と財源候補を提示できると、自治体側の意思決定が早い。

2-3. 予算規模の目安

パッケージ規模金額目安想定アウトプット
試行・PoC単発100〜300万円縦型ショート1〜3本+運用1〜2か月
標準パッケージ年度事業500〜1,000万円縦型ショート6〜12本+運用半年〜1年
戦略パッケージ複数年1,500〜3,000万円縦型シリーズ20本超+関連人口創出施策連動

500万円前後は単年度の事業課予算で対応しやすいレンジで、議会への説明負荷も比較的軽い。1,000万円超になると外部の交付金・補助金との抱き合わせが現実的になる。

1本あたりの単価感は、ショートドラマの制作費相場で工程別に分解している。参考までに、当社が制作しているPOVショートドラマは4万円/本〜で、試行・PoCの枠内で何本回せるかを見積もる起点になる。金額は本数だけでなく、運用期間を何か月含めるかで大きく動く。


第3章: KPI設計の実務

3-1. 議会で説明できるKPI構造

自治体施策は単に「再生数〇〇万回」では議会・住民に説明しきれない。再生数を 入口指標 とし、地域への実利に接続するKPIツリーを設計する。

流れをつかむ 再生数の先に、地域との接点を見る 1 露出 表示・到達人数 2 反応 視聴維持・いいね・保存 3 検索 地域や施設の指名検索 4 来訪 宿泊・観光・施設利用 5 経済 消費・寄付・予約 6 関係人口 イベント・移住相談
詳しい条件・補足を読む

議会で説明できるKPIツリー

再生数は入口。指名検索・来訪・関係人口までつないで議会に説明する

1

露出

表示回数・到達ユニーク数(認知獲得の総量)

2

エンゲージ

視聴維持率・いいね率・保存率(受容の質)

3

検索行動

指名検索数(GA4・Search Console)。短期で動き、議会報告に耐える

4

来訪

観光統計/宿泊統計/施設来館者数

5

経済

域内消費・ふるさと納税・予約数

6

関係人口

関連イベント参加・SNSコミュニティ参加・移住相談数

再生数を入口指標にして、地域の実利に接続するKPIツリー。上の階層ほど動画の出来、下の階層ほど施策全体の設計に左右される。

階層指標例評価意義
露出表示回数・到達ユニーク数認知獲得の総量
エンゲージ視聴維持率・いいね率・保存率受容の質
検索行動指名検索数(GA4・Search Console)関心の深まり
来訪観光統計/宿泊統計/施設来館者数リアル誘客
経済域内消費・ふるさと納税・予約数経済効果
関係人口関連イベント参加・SNSコミュニティ参加・移住相談数中長期接続

上の階層ほど動画そのものの出来に左右され、下の階層ほど施策全体の設計に左右される。エンゲージ層の視聴維持率をどう上げるかはショートドラマの演出と再生数で扱っている。

3-2. 指名検索数と、流入元別の計測設計

短期で動かしやすく、議会報告にも耐える指標が 指名検索数の伸び である。Google Search ConsoleやGoogle Trendsで、施策実施前後で「○○市 観光」「○○温泉」「動画タイトル」等の検索ボリュームを比較できる。

ショートドラマの効果は「動画を見た→検索する→公式サイトに来る→予約・問い合わせする」というファネルで現れる。再生数とは別軸で 検索→自治体公式サイト流入→CV の連鎖を計測することが、施策評価の標準形になりつつある。

この連鎖を追うには、公式サイトのGA4でショートドラマ起点の流入を分離できるよう、UTMパラメータの設計を発注仕様書に含めておく。

流入元計測手段設計ポイント
TikTokプロフィールリンク・QRUTMでキャンペーン別に識別
Instagramリンクスタンプ・プロフィールリンクリール/フィード/ストーリーズ別
YouTubeショート概要欄リンク動画別UTM付与
検索(指名)Google Search Consoleキャンペーン名・出演者名の検索を週次追跡

3-3. 失敗しないKPI目標値の置き方

初年度の自治体ショートドラマ施策で、いきなり「100万再生」を目標にすると未達リスクが大きい。初年度は エンゲージメント率と指名検索の伸び率 を主指標、再生数を補助指標にする。

フェーズ主指標補助指標
1年目エンゲージ率・指名検索伸び率累計再生数
2年目公式サイト流入・予約導線CV平均再生数
3年目関係人口・観光統計・経済効果フォロワー総数

1年目を100〜300万円の試行(縦型1〜3本+運用1〜2か月)で始める場合は、「次年度の本格実施に向けたデータ取得」を目的に据えると、議会・財政課への説明が通りやすい。再生数が目標に届かなくても、指名検索の伸び率と流入の内訳が取れていれば、2年目の企画書の根拠になる。


第4章: 自治体向けショートドラマ企画の5パターン

4-1. パターンA: 観光地ドラマ

特定の観光資源(温泉・名所・祭り)を物語の舞台にする。最もシンプルで、観光協会・DMOとの連携がしやすい。

代表例として、大分県別府市の温泉PR動画は公開4日で100万回再生、2026年1月時点で約600万回再生に到達した。参考: 縦型ショートドラマがPRに最適な理由(キックファクトリー)

設計のコツは、観光地を「背景」ではなく「物語の必然」として登場させること。温泉が舞台なら「ある人物が温泉でしか口にできない言葉を抱えている」という物語装置を組む。単なるロケ地紹介ではPR動画と変わらない。この装置を台本に落とす手順はショートドラマの脚本の書き方で解説している。

4-2. パターンB・D: 移住・関係人口ドラマと、関係人口創出シリーズドラマ

パターンBは「移住したばかりの若者と地元の人」「都市部から通う関係人口の視点」などを軸に、関係人口創出と接続する。総務省・内閣官房の関係人口政策と紐づきやすく、財政課への説明材料として強い。

物語の主人公は「これから移住するかもしれない人」に視点を寄せる。視聴者が自分を投影できる構造にすることで、移住相談窓口や関連イベントへの送客率が高まる。

パターンDは、複数話の連続ドラマ形式で、地域に「物語のシーズン」を持たせる。

北海道のTikTokショートドラマ「どうする?私」は、三菱UFJ銀行主催「MUFG北海道推しごとオーディション」を通過した6つの自治体の事業を紹介する作品として、総視聴回数220万回超・いいね1.5万件超を記録した。連続性がファンコミュニティを育てる構造になっている。

4-3. パターンC: ご当地キャラ・既存IP活用ドラマ

くまモン型のご当地キャラ、自治体公認キャラクター、地域に根付いた既存IPを物語に組み込む。

群馬県は2025年、人気ショートドラマアカウントの制作陣と連携し、縦型ショートドラマ 「グンマーみたいだ」 を県として初制作した。出演インフルエンサー9組22名の総計フォロワー約500万人を活用し、県公式TikTok「tsulunos」と県公式YouTubeで配信している。参考: 群馬県 報道発表 グンマーみたいだ

恋愛、社会派コメディ、ミステリーの3ジャンルを並走させているのが特徴で、複数フォーマットの並列展開という発注設計のリファレンスになる。

4-4. パターンE: 防災・社会課題ドラマ

過疎・防災・医療アクセス・子育てなど、地域が抱える社会課題を物語化する。観光PRよりも 政策広報 の性格が強く、別予算で組みやすい。

「災害時に地域の絆がどう機能したか」「移住者が直面した実際のハードル」など、課題提起と解決策提示を物語で両立させる。防災課・健康福祉課・子ども家庭課など、観光課以外の部局からの予算化も可能になる。

評価軸も観光系とは変わる。来訪数や宿泊数ではなく住民認知率を主指標に置き(4-5の表)、予算元が観光振興費でない分、各事業課の概算要求(7〜9月)に合わせて持ち込む。

4-5. 5パターン比較

パターン主担当部局予算枠想定KPI主指標
A 観光地観光振興課観光振興費来訪数・宿泊数
B 移住・関係人口政策企画課関係人口創出費移住相談数
C ご当地キャラ広報課・観光課シティプロモーション費指名検索数
D 連続シリーズ観光課・産業振興課観光DX等フォロワー数・累計再生
E 防災・社会課題各事業課政策広報費・各事業費住民認知率

【中間CTA】

自治体・観光協会・DMOのショートドラマ施策は、企画・予算化・発注の各フェーズで専門知見が要求されます。ナイトてんしょんは、自治体向けの伴走支援を提供しています。サービス・料金と制作実績をご覧のうえ、企画段階のご相談からお気軽にお問い合わせください。


第5章: 発注の実務(仕様書・公募・プロポーザル)

5-1. プロポーザル方式が標準。公告から契約まで2〜3か月

自治体の動画制作業務は、公募型プロポーザル方式 が標準的に採用される。公募型プロポーザルとは、事業者の参加を公示により広く募集し、技術提案書や企画提案書などの審査により契約締結交渉者を選定する方式である。参考: 公募型プロポーザルの特徴を徹底解説(自治体ビジネス.com)

クリエイティブな業務や専門的な技術が求められる業務でプロポーザル方式が選択される傾向があるため、ショートドラマ制作は完全に対象領域に入る。

公募型プロポーザルの一般的なスケジュール感は以下の通り。

プロセス期間目安
公告・要項公開公募開始日
質問受付公告から1〜2週間
提案書提出締切公告から3〜5週間
プレゼンテーション審査提出締切から1〜2週間
受託者決定通知審査から1週間以内
契約締結決定通知から2〜4週間

つまり公告から契約まで2〜3か月かかる。事業を当該年度内に完了させたいなら、逆算で公募開始日を設定する。

5-2. プロポーザル仕様書に最低限盛り込むべき項目

ショートドラマを発注するなら、従来型の動画制作仕様書では情報が不足する。以下を明示することで、自治体側と受託者側の認識ズレを防げる。

項目記載すべき内容
目的・KPI再生数に加えて指名検索・公式サイト流入・予約導線CVなど
配信プラットフォームTikTok/Instagramリール/YouTubeショートのどれを主軸とするか
アスペクト比・尺9:16縦型・15〜60秒
本数・シリーズ性単発か/3本セットか/月次連載か
出演者公募/インフルエンサー起用/自治体職員起用の方針
著作権・肖像権二次利用範囲・期間・SNS配信権の取り扱い
運用期間制作に加えて運用・分析・改善まで含むか
効果測定UTM設計・GA4・Search Consoleの集計責任の所在
納品物マスター動画・各SNS用書出し・サムネ・台本・撮影素材・分析レポート
配信頻度週X本・月X本・キャンペーン期集中等

5-3. 受託者選定基準と、契約・支払い条件

提案評価の配点設計は、自治体の優先順位を反映する。以下は配点例。

評価項目配点例チェック観点
企画の独自性・魅力25点地域固有の物語設計があるか
ターゲット理解とSNS知見20点Z世代視聴行動・縦型動画の運用実績
制作実績15点ショートドラマの実績(横型PR動画は除く)
体制・スケジュール10点ディレクター・脚本・編集の体制が明確か
効果測定計画15点KPI設計と分析手法
見積もり15点コスト妥当性

「制作実績」を ショートドラマ実績 と明示することで、横型PR動画専門会社が大量応募して評価が散らかる事態を避けられる。制作会社側の得意分野の見分け方はショートドラマ制作会社の選び方にまとめている。

契約形態にも自治体特有の条件がある。自治体契約は 業務完了後の検収・支払い が原則で、前金払いはない。中間納品・段階払いの条項を入れる場合は、契約書に明記する。受託側からすれば資金繰り上の論点で、特に小規模制作会社・個人クリエイターはこの条項の有無を事前確認する必要がある。


第6章: 実在事例(一次ソース付き)

6-1. 群馬県「グンマーみたいだ」

項目内容
主体群馬県メディアプロモーション課
形式縦型ショートドラマ49本(予告編含む)
出演インフルエンサー9組22名(総フォロワー約500万人)
配信県公式TikTok「tsulunos」14本/県公式YouTube35本
公開2025年1月21日以降順次
ターゲット10〜20代前半
出典群馬県 報道発表

県として初の縦型ショートドラマ制作という公式位置づけ、複数ジャンルの並走、視聴者参加型企画の組み込みなど、自治体ショートドラマの実装パターンとして参照価値が高い。

6-2. 大分県別府市の温泉PRドラマと、北海道「どうする?私」

別府市の温泉PRドラマは、公開4日で100万回再生、2026年1月時点で約600万回再生。観光地ドラマ(パターンA)の代表的成功事例だ。参考: 縦型ショートドラマ自治体活用事例(キックファクトリー)

北海道「どうする?私」は、三菱UFJ銀行主催「MUFG北海道推しごとオーディション」通過6自治体による共同企画。総視聴回数220万回超・いいね1.5万件超。複数自治体が一つの企画に乗る広域連携モデルとして示唆深い。

2つの事例は予算の組み方が対照的だ。別府型は単独自治体の観光振興費で成立するが、単独では予算化が難しい場合、北海道型のように近隣自治体や金融機関・地方銀行との共同事業として組み立てる選択肢がある。

6-3. 長崎県大村市「私の心を離さない大村市」。「大嫌い」から始まる定住促進

長崎県大村市の定住促進PR動画は、「大村市なんて大嫌い」というフレーズが冒頭で何度も登場するという大胆な設計を採用した。参考: ムシスキ 自治体PR動画成功事例

要素内容
冒頭フック「大村市なんて大嫌い」
展開嫌いだった理由が、実は好きだった理由に反転
オチ主人公が大村市を好きになる心境変化
訴求テーマ定住促進

自治体のPR動画で「嫌い」というワードが冒頭に来ること自体が意外で、「なぜ嫌いなの?」という疑問が最後まで視聴する動機になる。後半で「嫌い」が「好き」に反転する構造が感情を大きく揺さぶり、この感情の振幅がコメント・シェアの動機を生む。定住促進は観光PRよりさらに「ここで暮らしたい」という深い感情が必要なテーマで、物語でその感情を醸成できるショートドラマとの相性が良い領域だ。

6-4. 宮城県栗原市の376万回再生「ゆるい」ブランディング

宮城県栗原市は、田舎あるあるやのどかな風景を軽快なサウンドで伝える動画を展開し、2026年1月時点で累計376万回再生を超えるヒットとなった。参考: 動画幹事 地域PR成功事例

この事例が面白いのは、物語を組まず「日常の切り取り」で成果を出した点だ。単発のバズに終わらず「栗原市=のどかな癒しの場所」というブランドイメージを定着させるコンテンツとして機能している。共感と癒しを喚起する日常型コンテンツも、ショートドラマの周辺フォーマットとして自治体PRの選択肢になる。1-3の表で挙げた「感情体験・共感」という視聴者の期待に、ドラマとは別の形で応えている例だ。

第7章: 失敗パターン5選

7-1. 仕様書で防げる失敗(横型・長尺、配信先の未指定、自治体名を冒頭に)

横型・長尺で発注してしまう。 自治体内部の意思決定者がSNS視聴行動に詳しくないと、「16:9・3分」で発注書が固まることがある。この時点でZ世代への到達はほぼ見込めない。仕様書の段階で 9:16縦型・15〜60秒 を必須要件として明示することが防御策。

配信プラットフォームを明示しない。 「SNSで配信」とだけ書かれた仕様書では、受託者の解釈で配信戦略が決まってしまう。TikTok主軸なのか、Instagramリール主軸なのか、YouTubeショート主軸なのかで、台本構成も尺感も最適解が変わる。仕様書で明示する。

自治体名を冒頭に出してしまう。 「○○市制作 観光PR動画」というクレジットを冒頭に出すと、視聴者は「広告だ」と判断して即離脱する。自治体名は本編後のクレジット・概要欄・最後のフレームに留めるのがSNSドラマの鉄則。

7-2. 契約とKPIで防げる失敗(制作して終わり、再生数だけのKPI)

「制作して終わり」になっている。 最大の失敗パターン。動画を納品して公式チャンネルに置いた瞬間、再生回数が伸びない。運用・分析・リライト までを契約範囲に含めるか、別途運用業務として発注しないと、せっかくの動画が死蔵される。制作現場では、1本目の投稿後の反応を見て2本目以降の台本や投稿時間を直すのが前提で、納品で手が離れる契約だとこの調整が誰の仕事でもなくなる。運用を外部に任せる場合の業務範囲はショートドラマSNS運用代行 完全ガイドを参照。

KPIを再生数だけで設計してしまう。 議会・住民への説明軸を「再生数」だけにすると、達成しなかったとき苦しい。指名検索数・公式サイト流入・予約導線CV・関係人口接続など、多層KPIで議会に説明する 設計を初年度から組み込む。

自治体に限らない企画・制作段階のつまずきはショートドラマの失敗パターン10選にまとめている。


第8章: FAQ

Q1. 自治体の単年度事業として、最低どの規模から始められますか?

100〜300万円規模で、縦型ショートドラマ1〜3本+運用1〜2か月のPoCが現実的な最小規模です。次年度に向けたデータ取得を目的にすれば、議会・財政課にも説明しやすくなります。

Q2. 出演者はインフルエンサーと自治体職員のどちらが良いですか?手続きはどうなりますか?

インフルエンサーを起用する場合、通常はプロポーザルで選定した制作会社が、企画提案の中で候補を提示します。自治体が直接インフルエンサーを指名するケースは少なく、制作会社経由のキャスティングが標準です。著作権・肖像権・SNS掲載期間は仕様書で明示します。

自治体職員の出演も可能です。地域への愛着・解像度が伝わりやすいメリットがあります。ただし、職員のSNS露出に関する内規・人事担当への確認・本人同意の書面化など、手続き面の整備が必要です。

Q3. 「広告」表記は必要ですか?

景品表示法・ステマ規制(2023年10月施行)の観点から、対価を支払って制作・投稿してもらう場合は 「広告」「PR」「タイアップ」等の表記 が必要です。詳細は消費者庁ガイドラインを参照してください。

Q4. 観光地でロケ撮影する場合の許認可は?

国・都道府県管理の自然公園、国宝・重要文化財、神社仏閣、商店街、駅・道路など、撮影許可が必要な場所が多数あります。プロポーザル仕様書に「ロケ地手配・許可取得を受託者業務に含む」と明記すると、自治体側の事務負担が減ります。

Q5. 議会で「税金で動画を作って何の意味があるのか」と聞かれた場合の答え方は?

第3章のKPIツリーで答えます。「指名検索数の伸び」「公式サイト流入数」「観光統計」「ふるさと納税額」など、地域の経済指標と接続して説明します。

Q6. 補正予算で短納期発注したい場合の現実的なスケジュールは?

必要な期間は、自治体の調達手続、審査日程、撮影条件によって変わります。納品と検査の期限を確認し、契約・企画確認・撮影・修正に必要な期間を担当部署と逆算してください。補正予算の執行期限が当該年度末(3月31日)なら、遅くとも9〜10月には公告開始が必要です。

Q7. 過去のPR動画と「何が違うのか」を住民に説明できますか?

「これまでは観光スポットを紹介する3分動画でした。これからは15〜60秒の縦型物語で、若者が自分から検索・来訪する流れを作ります」と説明します。視聴行動の変化に対応する政策的判断であることを強調するのが伝わりやすい説明です。


まとめ

自治体・観光協会・DMOがショートドラマで成果を出すには、予算サイクルへの組み込みと、地域独自の物語設計が決め手 になる。動くタイミングは7〜9月の概算要求、最小規模は100〜300万円の試行、KPIは再生数を入口に指名検索・流入・関係人口へつなぐ多層構造、発注は縦型・尺・配信先・運用範囲を仕様書に書き切るプロポーザル。この4点を外さなければ、議会と若年層の両方に通る企画になる。

群馬県・別府市・北海道の事例が示すように、自治体ショートドラマは「やる気のある自治体が先行する」局面に入った。2026年度の予算編成タイミングを逃さず、企画書を持ち込むことを推奨する。


当社ナイトてんしょんは、自治体・観光協会・DMO向けに、ショートドラマの企画段階の伴走から、プロポーザル提案書作成支援、制作、SNS運用、効果測定までを一気通貫で提供しています。地域固有の物語設計と多層KPI設計をサポートします。「予算化の段階から相談したい」「他自治体の事例を踏まえて企画を組みたい」といったご相談も承っております。お気軽にお問い合わせください。


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・2026年ショートドラマ業界完全マップ|日本市場1,530億円

・ショートドラマ制作会社の選び方|5タイプ比較と発注前チェック

参考リンク

・JNTO 訪日外客統計(2025年12月推計値)

・2025年訪日客数4268万人、過去最高(やまとごころ.jp)

・観光庁 令和8年度予算概算要求概要(PDF)

・観光庁2026年度予算 ポイント解説

・観光庁 観光DX推進事業 公募情報

・総務省 関係人口ポータルサイト

・内閣官房・地方創生 関係人口の創出・拡大

・群馬県 報道発表「グンマーみたいだ」

・公募型プロポーザルの特徴を徹底解説(自治体ビジネス.com)