SNS運用や動画制作を外部に頼んでいる会社で、いちばん静かに事故が起きるのが担当者の異動です。契約は続いていて、制作会社も動いている。それでも投稿の判断が誰にもできなくなり、2ヶ月ほど当たり障りのない投稿が続いて数字が落ちる、という形で表に出ます。
先に結論を書きます。引き継ぎで本当に渡さないといけないのは、アカウントの権限・進行中の制作物・過去の判断ログ・数字の見方・制作会社との窓口・お金と契約の6つです。このうち引き継ぎ資料から落ちやすいのは判断ログで、しかもこれが抜けると後任は前任者と同じ議論を最初からやり直すことになります。
引き継ぎの設計を制作会社と一緒に決めたい場合は、お問い合わせください。アカウント権限そのものの渡し方はSNSアカウントの権限管理、制作会社を替える場合の回収物は動画制作会社の変更と引き継ぎにまとめています。この記事は、会社は変えず、社内の担当者だけが変わるときの話です。
引き継ぎで渡す6つ
異動が決まってから最終出社日までにやることを、渡すものの単位で並べます。
詳しい条件・補足を読む
引き継ぎで落ちるのは、モノではなく判断の理由
1. アカウントの権限
前任者個人のIDに紐づいていないかを先に確認
2. 進行中の制作物
今どの工程で、次に誰が何を返す番か
3. 過去の判断ログ(最も落ちる)
やらないと決めたことと、その理由
4. 数字の見方
何を良しとしてきたか。指標そのものではない
5. 制作会社との窓口
定例の曜日と、社内で承認を出せる人
6. お金と契約
残りの本数、更新月、未消化の予算
権限や制作物は形があるので必ず渡る。抜けるのは3の判断ログ。
1. アカウントの権限
最初に確認するのは、アカウントが前任者個人のアカウントにぶら下がっていないかです。ビジネス向けの管理画面を使っていれば、人の追加と削除は管理者の操作で完結します。Metaはビジネスポートフォリオの「ユーザー」から、YouTubeはブランドアカウントの権限設定から、それぞれ担当者を入れ替えられます。
危ないのは、担当者個人のログイン情報を共有して運用してきた場合です。この場合は退職・異動のタイミングでアカウント自体にアクセスできなくなる可能性があります。権限の設計そのものはSNSアカウントの権限管理で扱っているので、心当たりがあるなら異動の話が出た時点で読んでください。
2. 進行中の制作物
制作会社と動いている案件は、企画・台本・撮影・編集・公開のどこにいるかで、引き継ぎの緊急度が変わります。台本の確認待ちで止まっているものが1本でもあれば、それは前任者の最終出社日より前に片づけます。後任が最初にやる仕事が「見たことのない台本の承認」になると、判断できずに数週間止まります。
いま何本がどの工程にあるかは、制作会社に一覧を出してもらえば1営業日で揃います。こちらで書き起こす必要はありません。
3. 過去の判断ログ
引き継ぎ資料からいちばん落ちるのがこれです。渡すのは「やったこと」ではなく「やらないと決めたこと」と、その理由です。
自社で企画から編集まで担当している運用案件でも、担当者が交代した後に「前は駄目だと言われた案」がそのまま再提出されることがあります。前任者が社内の事情で外した企画を、後任は知らないので普通に良い案として通してしまう。制作会社側も、前任者の口頭の一言までは記録に残していないことがあります。
書き方は箇条書きで十分です。「競合と同じ音源は使わない(法務指摘)」「社員の顔出しは部長職以上のみ(人事と合意済み)」「値引き表現は使わない」。1行ずつ、決めた理由を括弧で足すだけで、後任は同じ議論をやり直さずに済みます。
広告であることの表示ルールもここに入れます。事業者が広告だと分かりにくい形で表示させることは景品表示法の規制対象で、責任を負うのは広告主です(消費者庁・ステルスマーケティングの規制)。社内でどう表記すると決めたかは、担当者が変わっても変わらない前提として残しておく必要があります。
4. 数字の見方
月次レポートの見方は、指標の定義より「何を良しとしてきたか」を渡します。再生回数を追ってきたのか、保存数を見てきたのか、問い合わせ件数だけを見てきたのか。ここが引き継がれないと、後任は数字の良し悪しを判断できないので、レポートが読み合わせで終わります。定例で何を決めるかはSNS運用代行の月次レポートの見方にまとめています。
5. 制作会社との窓口
定例の曜日と時間、参加者、社内で承認を出せる人。この3つを書きます。特に最後が重要で、前任者が実質的な決裁権を持っていた場合、後任に同じ権限が渡らないまま定例だけ続くことがあります。そうなると定例が「持ち帰って確認します」の場になり、制作が1週間単位で遅れます。
6. お金と契約
契約の残り本数、更新月、今期の予算のうち未消化の額。この3つが分からないと、後任は年度末に慌てて本数を消化することになります。契約書のどこを見るかは動画制作の業務委託契約書に整理してあります。
渡す順番と期限
6つを同時に渡そうとすると、たいてい最終出社日に間に合いません。止まると痛い順に並べます。
詳しい条件・補足を読む
権限の入れ替えは最後。先に外すと確認できなくなる
内示が出たら
制作会社へ連絡
遅れると前任者宛ての確認が投げ続けられる
2週間前
進行中の承認を片づける
残すなら前任者が承認を出してから抜ける
1週間前
後任を定例に同席させる
資料を読ませるより1回の同席が早い
最終出社日
アカウント権限を入れ替える
先に外すと最後の確認ができない
止まると痛い順に並べる。6つを同時に渡そうとすると最終出社日に間に合わない
異動の内示が出た時点でやるのは、制作会社への連絡です。ここが遅れると、制作会社は前任者宛てに確認を投げ続けることになります。
最終出社日の2週間前までに、進行中の制作物を片づけます。承認待ちを残さない。残るなら、その承認は前任者が出してから抜けます。
1週間前に、後任を定例に同席させます。資料を読ませるより、1回の定例に出てもらうほうが早いです。制作会社側の担当者の顔と、いま何が論点かが同時に伝わります。
最終出社日に、権限を入れ替えます。逆にしないでください。先に権限を外すと、前任者が最後の確認をできなくなります。
制作会社側から見た「引き継ぎが失敗した案件」
自社でクライアントのアカウントを運用している立場から見ると、引き継ぎが失敗している案件には見た目で分かる特徴があります。
ひとつは、定例での発言が「確認します」だけになることです。判断ログが渡っていないと、後任は自分で決められないので全部を持ち帰ります。この状態が3回続いたら、こちらから過去の決定事項を書き出して共有するようにしています。
もうひとつは、初期の企画方針に戻ろうとすることです。運用を続けるなかで外してきた切り口が、後任の代で「まだ試していない案」として復活する。前任者が数字を見て外した判断だったのに、それを知らないので同じところをもう一度通ります。
制作会社側の記録があるので、実は取り戻せます。過去の企画と、その結果の数字は制作側に残っています。引き継ぎが不安なときは、制作会社に「これまで却下になった企画とその理由を出してほしい」と頼んでください。社内に残っていない情報が、外部に残っていることがあります。
引き継ぎ資料は1枚でいい
分厚いドキュメントを作る必要はありません。後任が読むのは最初の1回だけで、その後は定例と制作会社への質問で足ります。1枚に入れるのはこの並びです。
いま動いている案件の一覧と工程。定例の日時と参加者、社内の承認者。やらないと決めたことのリスト(理由つき)。見ている数字と、その基準。契約の残数と更新月。制作会社の担当者名と連絡先。
このうち最初の項目は制作会社が出せます。作るのは残りの5つだけです。前任者が1時間で書けます。
よくある質問
担当者の交代を制作会社に伝えるタイミングはいつですか
社内の内示が出て、外部に伝えてよい状態になった時点です。制作会社は前任者を前提にスケジュールを組んでいるので、早いほど調整の余地があります。
後任がSNSに詳しくない場合はどうすればいいですか
判断ログと数字の基準さえ渡っていれば、当面は動きます。運用の考え方そのものはSNS運用代行のキックオフで扱っている、契約直後に決める項目と同じものを読み直してもらうのが早いです。
引き継ぎ期間が取れず、いきなり後任だけになりました
制作会社に、過去の決定事項と却下企画の一覧を出してもらってください。社内に記録がなくても、制作側の議事録に残っていることが多いです。
前任者のアカウントを消してよいのはいつですか
新しい担当者が管理画面に入れることを確認してからです。順番を逆にすると、投稿予約や広告の設定に触れなくなることがあります。
まとめ
担当者交代で失われるのは権限やファイルではなく、これまでの判断の理由です。渡すのはアカウント権限・進行中の制作物・判断ログ・数字の基準・窓口・契約の6つで、順番は「制作会社への連絡→進行中の片づけ→定例同席→権限の入れ替え」。資料は1枚で足ります。
引き継ぎのタイミングで運用そのものを見直したい場合は、お問い合わせください。ナイトてんしょんは自社アカウントで年間再生回数1億5,000万回を超える運用をしながら、企業のショートドラマ制作とSNS運用を担当しています。
参考リンク
- ビジネスポートフォリオに人を追加・削除する(Meta ビジネスヘルプセンター)・2026-09-08参照
- ブランドアカウントの権限を管理する(YouTube ヘルプ)・2026-09-08参照
- ステルスマーケティングの規制(消費者庁)・2026-09-08参照