店内で撮る、商店街で撮る、駅前で撮る。ショートドラマの撮影では、カメラの前に出演者、後ろに他人がいる状態が普通に起きます。「映ったお客様に、あとで何か言われないか」という不安は、発注側からよく出る質問のひとつです。
先に結論を書きます。映り込みの対応は、撮ったあとに消す作業ではなく、撮る前に枠を決める作業です。撮る範囲、知らせ方、同意の取り方。この3つを撮影日の前に決めておけば、公開後に慌てる場面はほとんど起きません。
撮影場所から相談したい場合はお問い合わせください。ロケとスタジオの選び方はショートドラマの撮影場所、出演者との契約は出演者契約と二次利用にまとめています。
顔が分かる映像は、個人情報として扱う
まず前提を揃えます。カメラで撮った映像のうち、特定の個人が誰なのか分かるものは個人情報に当たります。個人情報保護委員会はカメラに関するQ&Aでこの整理を示していて、防犯目的で設置した防犯カメラであっても、そこに映る顔画像は個人情報として扱われます。
そのうえで、広告やSNSに出す前提の撮影は、防犯カメラとは性質が違います。何に使うのかを先に決めて、撮られる人に知らせる必要がある。
知らせ方については、IoT推進コンソーシアムと総務省・経済産業省がまとめた「カメラ画像利活用ガイドブック」が具体例を挙げています。撮影する場所への掲示、チラシの配布、自社サイトでの公表。いずれも、撮られる人が撮影を知り、避けることができる状態を作るための方法です。
掲示で足りる場面と、同意書が要る場面
線引きに使う問いはひとつです。その人は背景なのか、登場人物なのか。
通りがかりに後ろ姿が小さく映る、人混みの一部として映る。この場合は掲示と当日の声かけで運用します。一方で、カメラに向かって話す、顔に寄る、その人だと分かる形で使う。ここからは個別に同意を取ります。飲食店の「お客様の声」を撮るなら、出演者と同じ扱いです。
肖像権の考え方も、この線引きを支えています。本人の同意なく容ぼうを撮影・公表されたことが違法になるかどうかは、撮影の場所、目的、方法、必要性などを総合して判断されるとされています(最高裁 平成17年11月10日判決)。全部にぼかしを入れれば安全でもなければ、掲示を出したから何を撮ってもいいわけでもない。撮り方と使い方のセットで見られます。
同意書に書く5項目
同意をもらうときは、口頭で済ませず紙に残します。撮影当日にその場で書いてもらう前提なので、A4の半分に収まる分量にしておくのが実務的です。
媒体は「自社のTikTokとInstagram」まで具体的に書きます。「動画に使います」で止めると、相手はどこまで広がるか分からないまま署名することになる。範囲が広いほど、その場で断られやすくなるからです。期間も同じで、「無期限」と書いた瞬間に相手は考え込みます。1年と書いて、必要なら取り直すほうが通ります。
編集の欄を軽く見ないでください。ここでもめるのは、本人が想定していない使われ方をしたときです。音声を消して字幕だけにする、長い動画から数秒だけ切り抜いて別の投稿に使う。撮影の場では説明していないのに、公開後に起きる。撮る前に一言書いておけば済みます。
未成年の方に出てもらう場合は親権者の同意です。中学卒業の年度末までの子どもが演じる形になると、そもそも労働基準法の手続きが別に要ります。こちらは動画に子どもを出すときにまとめました。
撮影当日に効くのは、時間帯と画角
書類をそろえても、現場が混んでいれば映り込みは増えます。当社が撮影の前に決めているのは次の3つです。
時間帯をずらす。店舗なら開店前か、平日の昼過ぎ。客席が埋まる時間に撮ると、確認の手間で撮影そのものが止まります。貸切にできるなら、その日の売上と撮り直しのコストを比べて判断してください。
画角で消す。腰から下だけを映す、後ろ姿にする、カメラを通路側に向けない。編集でぼかすより、最初から映さないほうが画も締まります。
掲示の位置を決める。入口とレジの2か所に出すのが基本形です。入口だけだと、入ったあとに来る人が見ていません。
「消してほしい」と言われたとき
公開後に連絡が来ることはあります。そのときに詰まるのは、手続きではなく窓口です。誰が受けて、誰が判断するのかを決めていないと、社内を回っている間に相手の不信感だけが育ちます。
対応は、差し替え、非公開、部分的なぼかしの3つ。ここで効いてくるのが、プラットフォームの仕様です。投稿済みの動画を差し替えられない場合、いったん消して投稿し直すことになり、それまでの再生数と反応はゼロに戻ります。公開前の確認が安いのは、この作り直しのコストがあるからです。
元データの保管期間も合わせて決めておいてください。手元に素材が残っていれば編集で直せますが、残っていなければ撮り直しです。保管の考え方は撮影素材はいつまで残るにまとめています。
よくある質問
後ろ姿だけなら、同意は要りませんか。 誰なのか分からない映り方であれば、個別の同意までは求めないのが一般的な運用です。ただし制服、名札、店名の入ったエプロン、特徴的な体型などから特定できることがあります。判断に迷うカットは、公開前に消しておくほうが早い。
モザイクをかければ問題ないですか。 個人を識別できない状態まで加工すれば、個人情報としての扱いは変わります。ただし声が残っていたり、直前のカットで顔が映っていたりすると、つながりで特定されます。加工の確認は、1カットずつ見るのをやめて、前後をつないだ状態で通してください。
撮影済みの素材を、あとから広告に回せますか。 同意でもらった範囲を超えるなら回せません。ここで止まる案件が実際にあるので、同意書の二次利用の欄は撮影時に埋めておきます。転用の判断は制作した動画の使い回しで整理しています。
撮影の許可は誰に取ればいいですか。 私有地は所有者や管理者、公道で機材を置いて撮る場合は所轄の警察署への道路使用許可が要ることがあります。場所の種類ごとの確認先はショートドラマの撮影場所にまとめています。
決めるのは、撮る前の30分
映り込みの対応は、法律の知識より段取りの問題です。時間帯を決める、掲示を出す、同意書を印刷して現場に持って行く。ここまでを撮影前の30分で終わらせておけば、公開後の対応はほとんど発生しません。
ロケ地の選定から当日の進行まで含めて相談したい場合はお問い合わせください。撮影当日に発注側がやることは動画撮影の立ち会いで発注者がやることにまとめています。
参考にした資料
- 個人情報保護委員会「カメラに関するQ&A」(2026-09-14参照)
- 総務省「カメラ画像利活用ガイドブックver3.0」の公表 IoT推進コンソーシアム・総務省・経済産業省/令和4年3月30日公表(2026-09-14参照)
この記事は制作会社の実務としてまとめたものです。個別の案件で同意が必要かどうか、どこまでの加工で足りるかの最終的な判断は、専門家にご確認ください。