運用代行の契約が決まると、たいてい最初の打ち合わせで「アカウントのログイン情報をいただけますか」と言われます。IDとパスワードをメールかチャットで送って、翌週から投稿が始まる。ここまでは3日で終わります。

問題が出るのは半年後です。担当者が異動して誰もパスワードを知らない。代行を変えたのに前の会社のログインが残っている。そもそもアカウントが代行会社の名義で開設されていて、返してもらう根拠がない。どれも、最初の3日で決めておけば起きなかったことです。

この記事は、SNSの運用を受ける側として実際にクライアントのアカウントを預かっている立場から、発注側が渡すべき権限の範囲と、解約のときに回収する手順をまとめました。依頼先の選び方はショートドラマSNS運用代行 完全ガイド(依頼前のチェックリスト)、費用とサービス範囲はショートドラマSNS運用代行 完全ガイドにあります。この記事はその間、契約が決まってから最初にやる設定と、契約が終わるときの後始末の話です。

権限を渡す前に、名義を決める

先に結論を書きます。事故の大半は、次の2つで防げます。

流れをつかむ 所有は自社、代行には作業権限 1 自社で保有 メール・管理者・名義を確保 2 代行へ付与 投稿・分析の作業権限を渡す
詳しい条件・補足を読む

事故の大半は、この2つを順番どおりに決めれば防げる

1

アカウントの名義は発注側が持つ

開設に使うメールアドレスと管理者アカウントは、自社ドメインのものを用意する

2

代行に渡すのは作業権限だけ

投稿と分析はできるが、名義とオーナー権限は動かせない状態にする

順番が逆になると「では弊社で新規に開設しますね」という流れになり、あとから所有権を争うことになる

  1. アカウントの名義(オーナー)は発注側が持つ
  2. 代行に渡すのは、アセット単位の作業権限だけにする

順番が大事です。名義を決めないまま権限の話を始めると、「では弊社で新規に開設しますね」という流れになり、あとから所有権を争うことになります。運用代行が新しくアカウントを立ち上げる場合でも、開設に使うメールアドレスと管理者アカウントは発注側の会社ドメインのものを用意してください。ここだけは代行会社に任せないほうがいい。

「うちのSNS担当が個人のGmailで作ってしまった」という状態も、名義が個人に紐づいている点で同じ問題です。この戻し方は後半に書きました。

起きる事故は3種類しかない

預かる側として見てきた事故は、だいたいこの3つに集約されます。

1つ目は、解約後にログインが残るケース。 共有のIDとパスワードで運用していると、契約が終わってもパスワードを変えない限りアクセスできます。パスワードを変えれば済む話に見えますが、二段階認証の電話番号や認証アプリが代行側の端末に紐づいていると、変更するために代行会社の協力が要ります。関係が良好なまま終わればいいのですが、揉めて終わった場合はここで詰まります。

2つ目は、担当者の退職でオーナーが分からなくなるケース。 個人アカウントに紐づけて運用していると、その人が辞めた時点でアカウントの管理者が社内に存在しなくなります。プラットフォームのサポートに問い合わせても、本人確認ができないと復旧しません。フォロワーが数万いても、入れなければゼロと同じです。

3つ目は、アカウントそのものが代行会社の資産になっているケース。 代行が自社の管理下でアカウントを開設し、契約書にも所有権の記載がないと、解約時に「アカウントは弊社のノウハウで育てたもの」という主張が出てきます。争っても時間がかかるだけなので、契約前に決めておく以外に手がありません。

3つとも、共通しているのは作業を始める前の30分を惜しんだことです。運用が始まってしまうと、権限の整理は「今やらなくてもいい仕事」に落ちます。

プラットフォームごとに、権限の作りが違う

「アカウントを共有する」と一言で言っても、仕組みは媒体ごとに別物です。ここを知らずにIDとパスワードを渡すと、渡しすぎになります。

スマートフォンでSNSアカウントの管理画面を確認しながら打ち合わせをしている様子

媒体 共有の仕組み 発注側が押さえる場所
TikTok ビジネスセンターにアカウントを連携し、メンバーへアセット単位で権限を割り当てる ビジネスセンターの管理者を自社にする
Instagram / Facebook ビジネスポートフォリオにユーザーを追加し、そのうえでアセットを割り当てる二層構造 ポートフォリオの所有と、ページのフルコントロール
YouTube チャンネル権限で役割を付与(所有者・管理者・編集者ほか) 所有者ロールと、紐づくGoogleアカウント
X パスワードを共有せずに他ユーザーへ投稿を委任する機能 委任元アカウントのログイン情報

TikTokはビジネスセンターのロールが4種類あります。管理者はメンバーの追加・削除、パートナーの招待、広告アカウントの作成、二段階認証の切り替えまでできます。標準ユーザーは割り当てられたアカウントで作業とデータ閲覧はできますが、メンバー追加もアカウント作成もパートナー管理もできません。ほかに財務アナリスト(取引履歴の閲覧のみ)と財務マネージャー(支払い方法・残高・請求書)があります(TikTok「ビジネスセンターのロールと権限」・2026-09-09参照)。さらに広告アカウント、TikTokアカウント、ピクセル、カタログ、オーディエンス、リードといったアセットごとに、誰がどこまで触れるかを個別に決められます(TikTok「メンバーにアカウントおよびアセットの権限を割り当てる」・2026-09-09参照)。

Metaは「ビジネスポートフォリオへのアクセス」と「アセットへのアクセス」が分かれていて、人を追加してから、その人にページや広告アカウントを1つずつ割り当てます(Meta「ビジネスポートフォリオにユーザーを追加してビジネスアセットを割り当てる」・2026-09-09参照)。ページのタスクアクセスを持つ人は、Meta Business Suiteなどの管理ツールからページを運用できますが、Facebook上でページ本体に切り替えることはできません(Meta「他の利用者にページのタスクへのアクセス許可を付与する方法」・2026-09-09参照)。代行に渡すのはこのタスクアクセスで足ります。

YouTubeはチャンネル権限で、所有者・管理者・編集者・編集者(制限付き)・字幕編集者・閲覧者・閲覧者(制限付き)を使い分けます。管理者は権限管理まで含めてほぼ何でもできますが、チャンネルの削除だけはできません。編集者は情報の編集と動画の公開はできても、公開済みコンテンツの削除と権限管理はできません。収益データを見せたくなければ「編集者(制限付き)」を選びます。ブランドアカウントで運用している場合は、まずチャンネル権限に移行してから付与する流れになります(YouTubeヘルプ「チャンネルの権限を管理する」・2026-09-09参照)。

Xはパスワードを共有せずにアカウントの操作を委任する仕組みがあります(X Business「マルチユーザーログインに関するFAQ」・2026-09-09参照)。委任される側は自分のアカウントでログインしたまま、企業アカウントとして投稿できます。

渡していい権限と、渡してはいけない権限

媒体は違っても、判断の線は同じところに引けます。

操作 代行に渡す 理由
投稿の作成・公開・削除 渡す これができないと運用が回らない
インサイトの閲覧・書き出し 渡す レポートの根拠がここにある
コメント・DMの対応 範囲を決めて渡す 個人情報を扱うので後述の監督義務がかかる
広告配信・支払い 支払いは自社に残す 配信は任せても、決済手段まで渡す必要はない
メンバーの追加・削除 渡さない これを渡すと権限の出入りが見えなくなる
パスワード・二段階認証の変更 渡さない 締め出される可能性が残る
アカウント・チャンネルの削除 渡さない 取り返しがつかない操作は自社に留める

境目は「取り消せるかどうか」です。投稿は消せます。誤って削除したアカウントは戻りません。二段階認証の連絡先を書き換えられると、正当な所有者でも入れなくなります。

もうひとつ、コメントとDMの対応を任せるときは、個人情報の扱いが発生している点に注意してください。個人情報保護法は、個人データの取扱いを委託する場合、委託元に委託先への必要かつ適切な監督を義務づけています(法第25条・従業者の監督は法第24条)。監督の中身は、適切な委託先の選定、委託契約の締結、委託先における取扱状況の把握です(個人情報保護委員会・ガイドライン(通則編)同委員会FAQ・2026-09-09参照)。DM対応を丸ごと任せているなら、代行会社の管理体制を1度確認しておく必要があります。

契約書に書く4行

権限の設定はいつでも変えられますが、揉めたときに効くのは契約書の文言です。長い条項は要りません。次の4つが入っているかだけ見てください。

  1. 名義:本件アカウントおよびそれに付随するフォロワー・投稿データは委託者(発注側)に帰属する
  2. 範囲:受託者に付与する権限は、投稿・分析閲覧に必要な範囲に限る
  3. 返還:契約終了時、受託者は付与された権限を速やかに返上し、保有するログイン情報を破棄する
  4. 引き渡し:契約終了時、投稿データ・撮影素材・企画案の引き渡し方法と期限を定める

3つ目の「権限を返上する」は、発注側が削除するだけでは足りない場合があるので入れておきます。代行側が別のビジネスマネージャからパートナー連携している構成だと、発注側の画面から相手を外しても、相手側の連携が残っていることがあります。

契約書全体をどう読むかは動画制作の業務委託契約書|発注前に見る7つの条項にまとめました。権利帰属や二次利用の考え方はそちらのほうが詳しく書いています。

運用開始のときにやる5つの作業

契約が決まってから最初の1週間でやることです。所要は30分ほどで終わります。

キックオフの席でノートパソコンの管理画面を開き、権限の割り当てを確認している担当者

  1. 自社のアカウントで、ビジネス管理ツールを作る(TikTokはビジネスセンター、Metaはビジネスポートフォリオ)。管理者は自社の担当者2名にする
  2. アカウントを、そのビジネス管理ツールに連携する。個人アカウントから直接ではなく、必ず管理ツールを経由させる
  3. 代行会社をパートナーまたはメンバーとして招待し、必要なアセットだけ割り当てる。招待は会社のメールアドレス宛にする
  4. 二段階認証の連絡先を、個人ではなく共有の連絡先にする。担当者の携帯番号だと退職時に詰みます
  5. 権限を持っている人の一覧をスプレッドシートに書き出し、日付を入れる。四半期に1度見直すと、辞めた人や終わった代行が残っていることに気づけます

管理者を2名にするのは、1名だとその人が休んだ日に何もできなくなるからです。3名以上にすると、今度は誰も棚卸ししなくなります。

弊社がクライアントのアカウントを預かるときも、この形でお願いしています。パートナー連携で受けると、契約が終わったときに発注側の画面から連携を外すだけで権限が切れるので、後始末が1分で終わります。IDとパスワードを預かる形だと、こちらが「消しました」と言っても発注側からは確認できません。確認できない形で預けないほうが、お互いのためです。

解約・乗り換えのときに回収するもの

契約終了が決まったら、最終月のうちに次を回収します。順番も含めて実務のとおりです。

  • 投稿データと素材:完パケ動画だけでなく、編集前の撮影データとプロジェクトファイル。何をどの形式で受け取るかは動画の納品データ検収を参照してください
  • インサイトの書き出し:媒体側で保持期間が過ぎると取れなくなる数値があります。過去分は先にCSVで抜いておく
  • 出演者との契約書と使用期限:素材があっても、使用期間が切れていれば使えません
  • 未公開の企画・台本のストック:委託範囲に入っていれば引き渡し対象です
  • 権限の返上:最後にやります。先に権限を切ると、上の4つを出してもらえなくなる

権限の削除を最後にする、というのが実務では効きます。関係が悪化して終わる案件ほど、先に締め出したくなりますが、そうすると素材の引き渡しが止まります。

制作会社ごと乗り換える場合は動画制作会社の変更と引き継ぎ|乗り換え前に回収するもの、続けるかどうかの判断そのものはSNS運用代行の月次レポートの見方に書いています。

個人アカウントで始めてしまった場合の戻し方

社内の担当者が個人のメールアドレスでアカウントを作り、そのまま伸びてしまった、という相談はよく受けます。フォロワーが増えてから直すほど面倒になるので、気づいた時点で動かしてください。

  • Instagram / Facebook:ページとInstagramアカウントを、会社のビジネスポートフォリオに移す。個人のプロフィールは管理者の1人として残るだけになる
  • TikTok:ビジネスセンターに連携し直す。アカウントのログイン情報自体は変わらないので、パスワードと二段階認証の連絡先を会社側に付け替える
  • YouTube:チャンネル権限に移行し、会社のGoogleアカウントに所有者・管理者を割り当てる。所有者ロールは他のユーザーへ直接譲渡できない仕様なので、移行の手順どおりに進める必要があります

どれも、本人が在籍しているうちにやるのが条件です。退職後に本人へ連絡して協力を仰ぐ形になると、成功率が落ちます。立ち上げの段取り全体は企業SNS運用の始め方完全ロードマップにまとめてあります。

よくある質問

Q. IDとパスワードを渡すのは絶対にダメですか? 禁止ではありませんが、誰が何をしたか追えなくなるのと、解約後にアクセスが残るのが問題です。媒体が権限機能を用意しているなら、そちらを使うほうが安全で、手間も変わりません。どうしても共有ログインになる場合は、パスワード管理ツールで共有し、契約終了日に変更する運用を決めておいてください。

Q. 運用代行にアカウントを新規開設してもらう場合の注意点は? 開設に使うメールアドレスを自社のものにしてください。ここさえ自社なら、あとから権限を整理できます。代行会社のドメインで開設されたアカウントは、契約書に所有権の条項があっても、移管の作業自体に相手の協力が必要になります。

Q. 広告アカウントの支払い方法は誰が持つべきですか? 発注側です。配信の操作は任せても、決済手段まで渡す必要はありません。代行会社が立て替える形にすると、金額の内訳が見えにくくなり、契約終了時の精算も面倒になります。

Q. 権限の棚卸しはどのくらいの頻度でやるべきですか? 四半期に1度で足ります。見るのは、退職者が残っていないか、契約が終わった会社が残っていないか、管理者が2名になっているかの3点です。10分で終わります。

Q. アカウントを乗っ取られた・入れなくなった場合はどうすればいいですか? 各媒体のアカウント復旧フォームから申請します。復旧には本人確認が必要になるので、開設時のメールアドレス、電話番号、登録名義が社内で分かる状態になっているかが分かれ目です。この記事の設定を先にやっておくと、この局面で困りません。

まとめ

運用代行にアカウントを預けるときにやることは3つです。名義を発注側に置く。渡す権限をアセット単位の作業権限に絞る。終わるときの返上と引き渡しを契約書に書いておく。作業時間は最初の30分と、四半期に10分の棚卸しだけです。

ナイトてんしょんはショートドラマの制作とSNS運用を受けている側なので、預かる立場からこれを書いています。運用の引き継ぎで詰まっている、権限がどうなっているか分からない、といったご相談はお問い合わせから受け付けています。運用の内容はSNS運用代行サービスにまとめてあります。

参考リンク