制作会社から送られてきた契約書を、発注者側が全文読み込む必要はありません。読むべきなのは、あとで揉める場所だけです。実務でトラブルになるのは、条文の言い回しではなく「書いていないこと」のほうです。
当社は受注側として契約書を交わす立場ですが、発注者から「この契約書で大丈夫か」と相談を受けることも増えました。そこで毎回同じ場所を指しています。委託の範囲、修正回数、検収、権利の帰属、二次利用、支払条件、そして解約と素材の扱い。この7つに具体的な数字と範囲が入っていれば、契約書としてはほぼ足ります。
この記事では、その7つを発注者の目線で並べ、あわせて縦型ショートドラマ特有の3条項と、2026年1月に施行された法律で先に決まっている部分を整理します。
この記事でわかること
- 業務委託契約書で発注者が確認する7つの条項と、書いていないと起きること
- 縦型・連続シリーズの案件だけに必要になる3つの取り決め
- 取適法とフリーランス法で、契約書より先に決まっているルール
- 契約書がないまま進んでしまった場合の立て直し方
なお、この記事は制作実務でつまずいた箇所の整理であって、法的な助言ではありません。最終的な条文の判断は自社の法務や専門家にご確認ください。

契約書を読む前に、発注の中身を確定させる
契約書のレビューでいちばん多い手戻りは、法務が読んだ結果ではなく、発注内容がまだ決まっていないことが原因で起きます。何本作るのか、1本の尺は何秒か、どの媒体に出すのか。ここが空白のまま契約書だけ先に回ると、条文はすべて「別途協議」で埋まります。
発注内容が固まっていれば、契約書のレビューは30分で終わります。逆に、契約書の文面を直すことで発注内容の曖昧さを吸収しようとすると、条文がどんどん長くなり、それでも現場では機能しません。発注内容の詰め方はショートドラマ制作のオリエンで渡す情報にまとめています。社内で予算を通す段階の資料は動画制作の稟議を通す方法を参照してください。
発注者が見る7つの条項(ショートドラマの著作権はここで決まる)
詳しい条件・補足を読む
7条項と、書いていない場合に起きること
空欄のまま進めた条項は、後の工程でそのまま事故になる
1. 委託の範囲
空欄だと本数・尺・納品形式の認識がずれる
2. 修正回数
リテイクのたびに追加費用の交渉になる
3. 検収
検収が終わらず支払いが宙に浮く
4. 権利の帰属
作り替え・広告転用の可否が判断できない
5. 二次利用
使うたびに許諾を取り直すことになる
6. 支払条件
撮影の中止・延期時の精算で揉める
7. 解約と素材
乗り換え時に撮影素材が回収できない
7つとも、揉めるのは契約時ではなく数か月後。書いていない条項が争点になる
業務委託契約書で発注者が見る7条項。右側は、その条項が空欄のときに実際に起きること。
1. 委託の範囲を「一式」で終わらせない
契約書の別紙に「ショートドラマ制作一式」とだけ書かれている契約は珍しくありません。この書き方だと、本数の数え方から食い違います。1本のドラマを3話に分けて投稿する場合、それは1本なのか3本なのか。同じ撮影素材から作る15秒の切り抜きは、納品物に含まれるのか。
別紙に書いておくのは、本数、1本あたりの尺、縦型か横型か、納品するファイル形式、字幕の有無、そして素材の使い回しで作る派生尺の扱いです。見積書の内訳がそのまま別紙になっているのが理想的な状態で、見積の読み方はショートドラマ制作会社の選び方で扱っています。
2. 修正回数は「回数」だけでなく「単位」を書く
「修正2回まで」と書いてあっても、何をもって1回と数えるかが決まっていないと機能しません。指摘を10箇所まとめて送ったら1回なのか、送り直すたびに1回なのか。実務では、後者の解釈で数え始めると2回はすぐ消えます。
現場で運用しやすいのは、工程ごとに回数を置く書き方です。台本で2回、初稿で2回、以降は追加費用、という形にすると、どの段階でどこまで詰めるべきかが発注側にも見えます。台本段階で詰めておく項目は動画制作の台本チェックに、指摘の出し方は動画制作の修正依頼の出し方にまとめました。撮影後に企画そのものを変える指摘が出ると、回数の話ではなく作り直しになるので、そこは契約書ではなく工程で防ぎます。
3. 検収は期限とみなし検収をセットで置く
検収条項で見るのは、検収の基準ではなく期限です。「納品後◯営業日以内に検査し、期間内に通知がない場合は合格とみなす」という一文があるかどうか。この一文がないと、社内の確認が止まったまま検収が終わらず、支払いも次の制作も動かなくなります。
発注側にとっても、この日数が短すぎると不利になります。決裁者が動画を見るまでに1週間かかる体制なら、5営業日では回りません。自社の確認フローに合った日数を入れてもらうのが実務的です。何を受け取って何を確認するかは動画制作の納品データで受け取るものにまとめています。
4. 権利の帰属は、譲渡の対象と時期を見る
著作権を譲り受ける契約にする場合、確認するのは2点です。ひとつは、翻案などにあたる著作権法27条・28条の権利が譲渡の対象として明記されているか。文化庁の資料でも、これらの権利は契約で特掲していないと譲渡した者に留保されたものと推定される、と整理されています。あとから別の制作会社が編集し直せるかどうかは、ここで決まります。
もうひとつは、権利が移る時期です。「制作代金の完済をもって移転する」という書き方が一般的で、この場合、支払いが終わるまでは発注者に権利がありません。公開予定日と支払サイトの前後関係は確認しておいてください。
5. 二次利用は媒体・期間・改変の3点で決める
本編をSNSに投稿するだけなら意識せずに済みますが、後から広告に出稿する、採用サイトに載せる、営業資料に入れる、といった話が出たときに効いてくる条項です。制作会社との契約で著作権を譲り受けていても、出演者との契約が別に存在するため、映像そのものを自由に使えるとは限りません。
決めるのは、使ってよい媒体、期間、改変の可否の3点です。出演者側の権利処理は発注者と制作会社のどちらが行うのかも書き分けておきます。出演者との取り決めの詳細はショートドラマの出演者契約と二次利用にまとめました。制作済みの動画を他用途に回すときの確認手順は制作した動画の使い回しで扱っています。
6. 支払条件は、中止・延期のときの取り決めまで見る
着手金の割合と支払サイトは、たいていの契約書に書かれています。抜けやすいのは、撮影が中止・延期になったときの精算です。ロケ地とキャストを押さえた後に日程が動くと、押さえ料とキャンセル料は発生済みなので、企画が消えても費用は残ります。
「撮影日の◯日前以降の中止は、既に発生した実費を精算する」という一文があるかどうかで、天候や社内事情で日程が動いたときの話し合いが変わります。費用の内訳そのものはショートドラマの制作費相場を参照してください。
7. 解約したときに、素材がどこへ行くかを書く
契約終了時の条項は、結ぶ段階ではいちばん読まれない場所です。ただし、あとで効いてくるのはここです。完パケの動画は納品されても、撮影した元データと編集のプロジェクトファイルは、契約に書かれていなければ標準の納品物には含まれません。
将来の乗り換えや内製化を視野に入れるなら、契約終了時にこれらを引き渡す旨を入れておきます。実際に乗り換えるときに何を回収するかは動画制作会社の変更と引き継ぎに整理しました。この記事が契約の入口、あちらが出口の話です。
縦型・連続シリーズだけに必要な3つの取り決め
単発の会社紹介動画と違い、SNSで連続投稿するショートドラマには、汎用の契約書ひな形に入っていない項目が3つあります。
出演者の継続出演。シリーズ2話目以降で同じ演者が出られないと、企画が続きません。1話目の契約時点で、続編がある場合の再出演の意思確認と、単価の考え方まで話しておきます。演者の人気が出てから交渉すると条件が変わります。
アカウントの管理権限。制作会社が運用まで担う場合、アカウントの管理者権限がどちらにあるかを契約書に書きます。ここが曖昧だと、契約終了時に投稿はできるのにインサイトが取れない、という状態が残ります。分担の考え方は動画の投稿は誰がやる?にまとめています。
数字の開示範囲。視聴維持率や離脱のタイミングは、制作会社側の管理画面にしか出ないことがあります。どの指標をどの頻度で共有するかを決めておくと、公開後の議論が感想戦になりません。何を見るかは公開後の振り返り会で扱いました。
法律で先に決まっている部分がある
契約書の前に、法律のほうで決まっているルールがあります。2026年に入って動いた領域なので、以前のひな形をそのまま使っている場合は確認が必要です。
ひとつは、旧・下請法が改正された取適法(中小受託取引適正化法)です。公正取引委員会の資料によれば施行期日は令和8年(2026年)1月1日で、対象となる委託の種類には情報成果物作成委託が含まれます。動画制作は情報成果物作成委託に当たるため、発注者と受注者の規模の関係によっては、この法律の対象取引になります。従来の資本金基準に加えて従業員数の基準が設けられ、対象範囲も広がりました。
もうひとつは、個人の映像作家やフリーランスの編集者に直接発注する場合のフリーランス法です。公正取引委員会の特設サイトでは、発注時に書面または電磁的方法で取引条件を明示する義務があり、口頭で伝えることは認められないと明記されています。明示する事項は、業務委託をした日、給付の内容、報酬の額と支払期日など8項目です。報酬の支払期日は、物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で定める必要があります。6ヶ月以上の契約を中途解除・不更新にする場合は、少なくとも30日前までの予告も必要です。
制作会社を通す場合、これらを守るのは制作会社側の役割になりますが、発注者が個人に直接依頼する形をとるなら、義務を負うのは発注者です。制作費を抑えるために個人へ直接発注する設計を検討している場合は、この点を先に確認してください。
契約書がないまま進んでしまったとき
発注書と見積書だけで撮影まで進んでいる、という状態は実際にあります。特に「まず数本だけ試す」という入り方だと起きやすい形です。
この場合、契約書を巻き直すより、メールで確認事項を1通にまとめて相互に返信を残すほうが早く、実務的にも機能します。書くのは、納品物の内訳、権利の帰属と二次利用の範囲、支払条件、素材データの扱いの4点です。撮影が終わってからでも、公開前であれば間に合います。試験的な発注の設計は「まず数本だけ」お試し発注ガイドにまとめました。
よくある質問
Q. 制作会社が出してきた契約書のひな形は、そのまま受け入れて問題ありませんか? A. 委託の範囲と二次利用の範囲だけは、ひな形のままにしないでください。この2つは案件ごとに違うため、汎用のひな形では必ず抽象的な書き方になります。ほかの条項は、期限や回数といった数字が入っていれば実務上は回ります。
Q. 著作権は必ず発注者に譲渡してもらうべきですか? A. 用途によります。SNSに投稿するだけなら、利用許諾の形でも実務は回ります。将来的に広告に転用する、別の制作会社が編集し直す可能性がある、といった場合は譲渡を受け、27条・28条の権利まで対象に含まれているかを確認してください。譲渡を求めるほど見積は上がります。
Q. 修正回数の相場は何回ですか? A. 回数そのものより、どの工程に置くかで決まります。台本と初稿にそれぞれ2回ずつ置く形が扱いやすく、この形にすると撮影後の大きな作り直しが起きにくくなります。回数を増やすより、台本段階の確認者を増やすほうが結果的に早く終わります。
Q. 個人のクリエイターに直接発注したほうが安いですか? A. 制作費だけを見れば下がりますが、フリーランス法上の義務は発注者が負い、権利処理と進行管理も自社の仕事になります。1本あたりの単価ではなく、社内の工数を含めて比較してください。
まとめ
業務委託契約書で発注者が見るのは、委託の範囲、修正回数、検収、権利の帰属、二次利用、支払条件、解約と素材の7つです。どれも、条文の表現ではなく具体的な数字と範囲が入っているかどうかで判断できます。空白のまま進むと、揉めるのは契約時ではなく、広告に転用したいと言い出したときと、制作会社を変えたいと言い出したときです。
縦型の連続シリーズなら、出演者の継続出演、アカウントの管理権限、数字の開示範囲の3点を足してください。汎用のひな形には入っていません。そして、取適法とフリーランス法で先に決まっている部分は、契約書の書きぶりでは変えられません。
ナイトてんしょんは、年間再生回数1億5,000万回を超える運用のなかで、単発の制作から連続シリーズの運用まで契約形態を分けて設計してきました。どの条項をどこまで決めておくべきかは、作る本数と将来の使い道で変わります。ご検討中の座組に合わせて、見積の前に整理してお伝えします。
関連記事:ショートドラマ制作の外注・発注完全ガイド ・ショートドラマの出演者契約と二次利用 ・動画制作会社の変更と引き継ぎ
参考・出典一覧
- 公正取引委員会「取適法(中小受託取引適正化法)」(施行期日 令和8年1月1日・2026年9月4日参照)
- 公正取引委員会「取適法の概要」(対象取引に情報成果物作成委託を含む・2026年9月4日参照)
- 公正取引委員会「フリーランス法特設サイト」(取引条件の明示8項目・支払期日60日以内・30日前の予告・2026年9月4日参照)
- 文化庁「誰でもできる著作権契約マニュアル」(著作権法27条・28条の特掲・2026年9月4日参照)
7条項の選び方、工程ごとの修正回数の置き方、連続シリーズ特有の取り決めは、ナイトてんしょんが縦型ショートドラマの制作・運用で実際に交わしてきた契約と、発注者から受けた相談にもとづく内容です。