編集の上がった動画に流行りの曲を乗せようとしたら、その曲が候補に出てこない。自分のスマホなら選べるのに、会社のアカウントでは一覧にすら並ばない。SNS運用を始めた会社が最初につまずくのは、だいたいここです。
この記事では、TikTokとMetaの規約、JASRACの公式資料をもとに、企業アカウントで音楽が使えない理由を整理し、商用で使える音源の探し方をまとめます。あわせて、動画を制作会社に発注するときにBGMまわりで確認しておく項目を並べました。
詳しい条件・補足を読む
無料で使える公式ライブラリの共通点
どちらも無料。ただし自社のプラットフォームの中でしか使えない
TikTok 商用音楽ライブラリ
商用利用が許可された100万曲
オーガニック投稿・動画広告・ブランドコンテンツで使える
TikTok外での商用利用は認められない
Meta サウンドコレクション
著作権使用料が無料の14,000曲以上
広告のような商業目的でも使える
Metaの製品から切り離した利用は不可
どちらか一方で作ると、もう一方の面に同じデータを出せない
1本の動画をTikTokとInstagramの両方へ出す運用なら、どちらのライブラリも条件から外れる。
結論:企業アカウントで選べるのは、商用ライセンス済みの音源だけ
個人アカウントで選べる曲の大半は「個人的な非商用利用」を前提にライセンスされていて、企業アカウントの投稿には最初から含まれていません。Metaは自社のヘルプで、Instagramのライセンス音楽ライブラリについて「個人的な非商用利用を目的としています」と書いたうえで、「特定のビジネスアカウントと特定の種類の投稿ではライブラリが利用できないようになっています」と明記しています(Metaビジネスヘルプセンター「Instagramのライセンス音楽ライブラリの利用」)。
一覧に出てこないのは不具合ではありません。そういう設計です。
| 出す面 | 企業アカウントが使えるもの | 使えないもの |
|---|---|---|
| TikTok | 商用音楽ライブラリ(CML)の楽曲・効果音 | 一般ユーザー向けのサウンド、トレンド曲 |
| Instagram / Facebook | Metaサウンドコレクション、自前で権利処理した音源 | ライセンス音楽ライブラリ(個人向け) |
| YouTube | オーディオライブラリ、自前で権利処理した音源 | 市販楽曲をそのまま乗せた音声 |
| X | 自前で権利処理した音源 | プラットフォームの包括許諾を前提にした音源 |
やっかいなのは、制限の中身がプラットフォームごとに違い、しかも「そのプラットフォームの中だけ」で閉じていることです。TikTokで正しく選んだ曲を、同じ動画のままInstagramへ載せると条件から外れます。1本の動画を複数の面に出す運用をしているなら、ここが最初に効いてきます。
音源の条件は、編集に入る前に決めておくとやり直しが起きません。私たちは企画の段階で「どの面に出すか」を先に確定させ、そこから使えるライブラリを1つに絞っています。運用中のアカウントで音源に引っかかっている場合も、原因の切り分けからご相談ください。 アカウントの音源まわりを相談する(無料)
TikTok:2025年7月25日から、企業の投稿は商用音楽ライブラリの中だけ
TikTokは2025年7月25日にMusic Terms of Serviceを改定し、ビジネス目的の利用で使える楽曲を商用音楽ライブラリ(Commercial Music Library、以下CML)へ寄せました。CMLはTikTokの説明によれば「商用利用が許可されている100万もの楽曲を集めたグローバルなミュージックライブラリ」で、オーガニック投稿・動画広告・ブランドコンテンツのいずれでも使えます(TikTok for Business ヘルプ「商用音楽ライブラリについて」)。
事前にライセンス処理が済んでいるので、企業側が権利者と個別に交渉する必要はありません。ここは素直に便利な仕組みです。
ただし、条件がひとつ付きます。CMLの利用規約は、CMLの楽曲を含む動画をTikTokの外へ持ち出すことを認めていません。規約には「You may only post or share videos that include Commercial Sounds within TikTok(商用サウンドを含む動画は、TikTok内でのみ投稿・共有できます)」「Commercial Uses outside of TikTok are not permitted(TikTok外での商用利用は認められません)」と書かれています(TikTok「Commercial Music Library – User Terms」)。
1本の動画を複数の面に出すなら、音源は最初から別で用意する
ショートドラマをTikTokとInstagramの両方に出す運用は珍しくありません。このとき、TikTokのCMLから選んだBGMを乗せた完成データをそのままInstagramへ上げると、TikTok向けにしか許諾されていない音源を別の場所で使うことになります。
回避のしかたは2つです。面ごとに音源だけ差し替えた書き出しを用意するか、最初からどの面でも使える音源(ロイヤリティフリー系のライブラリや、権利処理済みのオリジナル曲)で作るか。
工程の重さで比べると、差し替えのほうが高くつきます。BGMを入れ替えると、カットの切り替わりと曲の展開が合わなくなるので、書き出し直しでは済まずタイムラインを触ることになる。10本のシリーズなら10回発生します。編集の工数が読めなくなるのはここです。
判断の分かれ目は、その動画を出す面が最初から決まっているかどうかです。TikTok単独で完結する運用ならCMLで問題ありません。複数の面に配る前提なら、面をまたげる音源に最初から寄せる。当社では後者の案件は、企画書の段階で「音源は面をまたげるものに限定」と書いてから制作に入っています。
Instagram・Facebook:使えないときの受け皿はMetaサウンドコレクション
Metaのヘルプは、ライセンス音楽ライブラリが使えない場合の代替として、Metaサウンドコレクションを案内しています。「著作権使用料が完全無料の14,000曲以上が収録されており」「広告のような商業目的でも使用できます」という説明で、企業アカウントが使う前提の音源です。
こちらにも面の縛りがあります。Sound Collectionの利用規約は、Meta Company Products(Facebook・Instagramなど)で作成・アップロード・配信するコンテンツでの利用を許諾するもので、音声をMetaの製品から切り離して利用・配布することは認めていません(Meta「Sound Collection Terms」)。TikTokのCMLと構造は同じで、「その会社のプラットフォームの中でなら無料で使える」という形が業界の標準になっています。
つまり、TikTokとInstagramの両方に出したいなら、どちらのライブラリも使えません。第三のライブラリか、自前の音源が要ります。
Xだけ、JASRACの許諾リストに入っていない
JASRACは、利用許諾契約を締結しているUGCサービスの一覧を公開しています。この一覧に載っているサービスでは、一般ユーザーが個別にJASRACへ手続きをしなくても、JASRAC管理楽曲を使った動画をアップロードできます。
2026年8月21日更新の一覧には、TikTok・Instagram・YouTube・Facebookが掲載されていますが、Xは入っていません(JASRAC「利用許諾契約を締結しているUGCサービスの一覧」)。
企業のSNS運用でXを併用しているなら、ここは押さえておく価値があります。TikTokやInstagramで前提にしていた「プラットフォームが包括的に許諾を取っている」という土台が、Xには無い。動画をXにも流すなら、音源は自分たちで権利を確認したものに限る、という運用ルールにするのが安全です。
「JASRACに払えば解決」で終わらない2つの理由
音楽の話になると「JASRACに申請すればいいのでは」という反応が返ってきますが、企業のSNS動画では、それだけでは足りません。理由は2つあります。
理由1:著作権と原盤権は別の権利で、JASRACは原盤権を管理していない
JASRACが管理しているのは作詞者・作曲者の著作権です。レコード会社が持つ原盤権(レコード製作者の著作隣接権)や、歌手・演奏者が持つ実演家の権利は管理していません。JASRACの解説でも、著作権法がレコード製作者に与えているのは著作権とは別の「著作隣接権」で、これが「音源の権利」「原盤権」と呼ばれるものだと説明されています(JASRAC PARK「レコード会社やミュージシャンはどんな権利をもっているの?」)。
市販のCDや配信音源をそのまま動画に乗せる場合は、JASRACへの手続きに加えて、レコード会社など著作隣接権者への手続きが別に必要になります(JASRAC FAQ「映像に市販CDの音楽を収録すると、音楽著作権だけでなく、レコード会社にも手続きが要るそうですが」)。ここを知らずに「有名な曲を使いたい」と言うと、権利処理の見積もりが企画の予算を超えます。
理由2:企業の宣伝目的だと、そもそもUGCの枠から外れる
JASRACの案内には、動画投稿サービスへのアップロードで手続きが不要なのは「一定の範囲内でのご利用」であること、そして例外が書かれています。動画が「特定の企業・団体や商品、サービスを宣伝するもの」に当たる場合は、あらかじめ「広告目的複製」の手続きが必要です。加えて、個人以外の法人・学校・団体が外国作品を含む動画をアップロードするときは「ビデオグラム録音」の手続きが必要とされています(JASRAC「YouTubeなどの動画投稿(共有)サービスでの音楽利用」)。
企業アカウントが自社の商品を出すショートドラマは、まさにこの例外に当たります。プラットフォームの包括許諾に乗れる前提で企画を進めると、公開直前で止まります。
制作会社が入れたBGMは、どこまで使えるのか
発注側が見落としやすいのは、納品された動画のBGMに、自分たちが説明できないライセンスが乗っている状態です。制作会社が契約しているサブスク型の音源ライブラリを使っていることが多く、その条件は発注側の資産ではありません。
当社では、納品データに音源の情報を添えて渡しています。最低限そろえるのは次の4点です。
詳しい条件・補足を読む
納品データと一緒に受け取る音源情報
「フリー素材から」では、あとから追えなくなる
音源の出どころ
ライブラリ名とトラックID。曲名だけでは特定できない
ライセンスの種類
買い切りか、制作会社の月額契約に紐づくか
使える面
オーガニック投稿だけか、広告出稿にも使えるか
期限
無期限か、契約が続いている間だけか
種類と期限が組み合わさると、制作会社を変えた時点で条件が変わる
この4点が揃っていれば、広告転用でも担当者交代でも音源で止まらない。
- 音源の出どころ — ライブラリ名とトラックID。「フリー素材から」では後から追えません
- ライセンスの種類 — 買い切りか、制作会社の月額契約に紐づくか
- 使える面 — オーガニック投稿だけか、広告出稿にも使えるか
- 期限 — 無期限か、契約が続いている間だけか
2番と4番が組み合わさると、制作会社を変えたタイミングで条件が変わることがあります。ライブラリごとに扱いが違うので、契約の段階で音源の扱いを書面に入れておくのが早いです。契約書のどこを見るかは動画制作の業務委託契約書|著作権ほか発注前に見る7条項にまとめました。納品時に何を受け取るかは動画制作の納品データで受け取るもの|検収チェックの見方が対応します。
発注側から曲を持ち込む場合も同じで、その曲の権利を説明できる状態で渡してください。持ち込み素材の扱いはショートドラマ撮影で発注側が用意するもの|支給リストと期限で整理しています。
音源で運用が止まる3つのパターン
1. 編集が終わってから、使えないと分かる
いちばん多い形です。仮のBGMを乗せた確認用データで社内承認まで通してしまい、投稿の直前に音源が選べないと判明する。差し替えると尺の中の切り替わりが合わなくなり、編集をやり直すことになります。
当社では、台本の段階で音源候補を決めます。カットの長さや会話の間はBGMのテンポに引っ張られるので、あとから乗せ替える前提で編集すると、どちらにも合わない仕上がりになります。BGMを演出としてどう設計するかはカット・テロップ・音響の極意|ショートドラマ編集の実践技法で扱っています。
社内確認の運用でも一手だけ変えられます。確認用データに仮のBGMを乗せるなら、ファイル名か冒頭のテロップに「音源は仮」と書いておく。承認した側が「この曲で決まり」と受け取ったまま公開日を迎えるのを止められます。この一手を入れるだけで、差し替えの相談が公開前日ではなく編集前に来るようになりました。
2. 伸びた投稿を広告に転用したら、音源で引っかかる
オーガニックで数字が出た動画を広告に回すのは自然な判断ですが、オーガニック投稿と広告では音源の条件が変わります。CMLの楽曲は広告でも使える設計になっている一方、無料のライブラリの中には「広告出稿は別ライセンス」と書かれているものがあります。
このパターンが厄介なのは、伸びた動画ほど転用したくなることです。判断が要るのは数字が出た直後で、そのときには制作から1か月経っていて、担当者は音源の出どころを覚えていません。そこから調べ直すと、出稿のタイミングを逃します。
止め方は単純で、制作の時点で広告転用の可能性があるなら、最初から広告でも使える音源にしておく。転用のときに何が増えるかは制作した動画の使い回し|広告・採用・営業へ転用する前の確認に一覧があります。
3. 担当者が代わって、ライセンスの契約先が分からなくなる
音源のライセンス情報は、担当者の個人フォルダやメールの中に残りがちです。異動や退職で持ち主が消えると、「この曲、どこから持ってきたんでしたっけ」に誰も答えられなくなる。
痛いのは、過去の投稿を消すか残すかの判断ができなくなることです。権利の説明がつかない動画がアカウントに何十本も並んでいる状態で、広告に回すことも、まとめ直して再投稿することもできない。運用の資産のはずが、触れない在庫になります。
対処は、音源のライセンス情報を人ではなく台帳に置くことです。投稿日・動画ID・ライブラリ名・トラックID・使える面の5列を1枚のスプレッドシートにして、制作会社と共有のフォルダに置く。引き継ぎで何を渡すかはSNS運用の担当者交代|引き継ぎで渡す6つと止めない順番にまとめていますが、この台帳は渡すものの中に必ず入れてください。
よくある質問
Q. 流行りの曲をどうしても使いたい場合は?
権利者と個別に許諾交渉をすることになります。著作権(JASRACなど)と原盤権(レコード会社)の両方が要るので、費用と期間はSNS動画1本の予算感を超えることが多いです。予算が決まっているなら、CMLやサウンドコレクションの中から曲調の近いものを探すほうが現実的です。
Q. 個人アカウントで投稿して、会社がシェアするのは?
投稿の主体を個人にしても、内容が自社の商品やサービスの宣伝であれば、宣伝目的の利用であることは変わりません。JASRACの案内でも、手続きが要るかどうかは「特定の企業・団体や商品、サービスを宣伝するもの」かどうかで判断されています。アカウントの名義で線が引かれているわけではありません。
Q.「著作権フリー」と書いてあるサイトの曲なら安全ですか?
「著作権フリー」は法律用語ではなく、サイトごとに意味が違います。見るのは、商用利用の可否、クレジット表記の要否、広告での利用の可否、二次配布の可否の4点です。YouTubeのオーディオライブラリのように、クリエイティブ・コモンズが適用されたトラックは動画の説明欄でアーティストのクレジット表記が必要、標準ライセンスのトラックは帰属表示が不要、と条件が分かれている例もあります(YouTubeヘルプ「オーディオ ライブラリの音楽と効果音」)。
Q. 音楽が弱いと、伸びなくなりませんか?
セリフで進むショートドラマの場合、影響は限定的です。会話劇は音声の情報量が多く、視聴者は無音でも字幕で追えます。当社が運用している「なんで私だけ」は累計4,000万再生を超えていますが、伸び方を決めているのは冒頭数秒のセリフと状況設定で、楽曲の知名度ではありません。制作したショートドラマの実例は実績ページに置いています。
まとめ
企業アカウントで音楽が使えないのは設定の問題ではなく、ライセンスの設計です。個人向けの音楽ライブラリは非商用利用を前提にしていて、企業の投稿は最初から対象外になっています。
代わりに用意されているのがTikTokの商用音楽ライブラリとMetaサウンドコレクションで、どちらも無料で使えます。ただし、それぞれ自社のプラットフォームの中でしか使えません。1本の動画を複数の面へ出す運用なら、面をまたげる音源を最初から選ぶ必要があります。
そして、JASRACへの手続きだけでは足りません。原盤権は別の権利で、企業の宣伝目的の動画はUGCの枠からも外れます。ここは企画の段階で決めておくと、編集のやり直しも公開直前の差し替えも起きません。ショートドラマの制作からアカウント運用までの進め方はショートドラマ制作のサービスページにまとめています。
参考・出典一覧
- Metaビジネスヘルプセンター「Instagramのライセンス音楽ライブラリの利用」
- Meta「Sound Collection Terms」
- TikTok for Business ヘルプ「商用音楽ライブラリについて」
- TikTok「Commercial Music Library – User Terms」
- JASRAC「利用許諾契約を締結しているUGCサービスの一覧」(2026年8月21日更新)
- JASRAC「YouTubeなどの動画投稿(共有)サービスでの音楽利用」
- JASRAC PARK「レコード会社やミュージシャンはどんな権利をもっているの?」
- JASRAC FAQ「映像に市販CDの音楽を収録すると、音楽著作権だけでなく、レコード会社にも手続きが要るそうですが、どうすればよいですか」
- YouTubeヘルプ「オーディオ ライブラリの音楽と効果音」
- JASRAC「音楽の著作権とは」