発注は決まった。制作会社も決めた。それなのに、上がってきた初稿を見て「思っていたのと違う」となる。担当者の方からいちばん相談されるのが、この一言です。原因の大半は、制作会社の力量ではなく、最初に渡したオリエン(依頼書)が薄かったことにあります。オリエンで決まるのは作品の良し悪しではありません。決まるのは、作り直しの回数です。ここが薄いと、修正が2周3周と増え、納期も予算も静かに膨らみます。

この記事は、私たちが日々オリエンを受け取る側として見てきた「効くオリエンと効かないオリエン」の差を、そのまま公開します。読んでほしいのは、これからショートドラマや縦型動画を発注する事業会社のマーケティング・広報・採用の担当者です。どの会社に頼むかはショートドラマ制作会社の選び方|5タイプ比較と発注前チェック、社内で予算を通す手順は動画制作の稟議を通す方法|ショートドラマの予算根拠と決裁資料にまとめてあります。この記事はその次、発注が決まってからキックオフまでの間を扱います。

制作会社が本当に見ているのは「表現」ではなく「判断基準」

オリエンに時間をかける担当者ほど、「どんな雰囲気にしたいか」「参考にしたい動画」を厚く書いてくださいます。ありがたいのですが、受け取る側がいちばん知りたいのはそこではありません。知りたいのは、制作の途中で迷ったときに、何を基準に決めていいかです。

たとえば「もっと感動的に」と「もっとテンポよく」は、しばしば両立しません。撮影や編集の現場では、この2つがぶつかる瞬間が必ず来ます。そのときオリエンに「今回は最後まで見てもらうことを最優先する」と一行あれば、現場は迷わずテンポを取ります。書いていなければ、制作会社は一度持ち帰り、確認の連絡を入れ、返事を待ちます。この往復が、修正の周回数をそのまま増やします。

つまり良いオリエンとは、表現の指示が細かい資料ではなく、判断を現場に委ねられる資料です。すべてを決めて渡すのではなく、迷ったときの優先順位だけを決めて渡す。これだけで初稿の精度が変わります。

オリエンを受けた制作会社が返してくる企画書に何が書かれていれば通っているのか、受け取る側の読み方はショートドラマ企画書を大公開!通る提案に必要な7つの構成要素で公開しています。企画の形式そのものを指定したい場合は、一人称視点で没入させるPOVドラマ完全攻略のような型からオリエンに書き込む方法もあります。

オリエンに必ず入れる5つ

雰囲気や参考動画は後回しでかまいません。先に埋めてほしいのは次の5つです。逆に、この5つが埋まっていれば、他は口頭のすり合わせで足ります。

確認するポイント 企画の前に、目的と判断基準を渡す 目的 誰の、どんな行動を変えるか 視聴者 立場・悩み・年齢 掲載先 どのアカウントで届けるか 制約 譲れない点・触れない点 優先順位 迷ったときに何を選ぶか
詳しい条件・補足を読む

オリエンに必ず入れる5項目

この5つが書いてあれば、初回提案から企画の中身の話になる

目的

この動画で誰の、どんな行動を変えたいのか

視聴者

どの層に向けるか。年齢・立場・その人の悩み

掲載先

どのアカウントで、どう届けるか

譲れない一点/触れてほしくない一点

制作側が社内事情を調べる手段はない

判断の優先順位

迷ったら何を取るか(例:完視聴>情報量)

5つ目が抜けていると、判断が分かれるたびに打ち合わせが1回増える

オリエン資料に入れる5項目。埋まっていない項目は、初回の打ち合わせがその説明で終わる。

① 目的。 再生数を増やしたいのか、問い合わせを増やしたいのか、採用の応募を増やしたいのか。ここが「認知拡大」のように広いままだと、企画の当たり外れを誰も判定できません。効果の測り方まで含めた設計は【2026年版】ショートドラマPR/広告のROI・KPI完全ガイド|効果測定から予算最適化までにありますが、オリエンの段階では「最終的に増やしたい数字を1つ」だけ決めれば十分です。

② 視聴者。 「20〜40代の女性」では広すぎます。効くのは「時短家電を検討しているが、値段で踏みとどまっている共働きの人」のように、悩みまで書いた一人です。ショートドラマは、その一人が「これ私のことだ」と感じた瞬間に伸びます。ターゲットが顔まで見えていると、脚本の一行目が変わります。

③ 掲載先。 どのアカウントで出すのか、既存のフォロワーはどんな人か、過去に何が伸びたか。ここを共有いただけると、既存の文脈に合う作りにできます。新規アカウントなら、その前提で立ち上げの初速を狙う設計に切り替えます。

④ 譲れない一点と、触れてほしくない一点。 ブランドとして絶対に外せない要素と、逆に扱ってほしくない表現。この2つは、書いていないと撮影後に発覚して全部が押します。

⑤ 判断の優先順位。 前の章で書いたとおり、これがオリエンの心臓です。「①〜④がぶつかったとき、何を優先するか」を一行決めておく。

良いオリエンと薄いオリエンの違い

同じ商材でも、オリエンの粒度で仕上がりは大きく変わります。受け取る側から見た違いを、具体的に並べます。

項目 薄いオリエン 効くオリエン
目的認知を広げたい3か月で指名検索を増やしたい
視聴者若い女性値段で迷う共働きの人
参考好きな動画を10本NGに近い例を1本+理由
迷ったとき(記載なし)完視聴を優先と明記

薄いオリエンが悪いわけではありません。問題は、足りない情報が「初稿を見てから」出てくることです。初稿に対して「なんか違う」と返ってきて、そこで初めて「実はうちの商材、価格の話はしたくなくて」と判明する。この後出しが、修正の周回を生みます。効くオリエンは、その後出しになりそうな情報を先に一箇所へ集めた資料です。

一つ補足すると、参考動画は多ければ良いわけではありません。10本並べられると、私たちは「この10本の何が好きなのか」を推測することになります。むしろ効くのは、避けたい方向に近い動画を1本、「これはうちの雰囲気と違う。理由は説教くさいから」と添えていただくこと。好みは言語化しにくくても、違和感は言語化しやすい。1本のNG例は、10本の参考例より境界を正確に伝えます。

「参考動画を10本」より「NG例を1本」が効く理由

これは表現の好みだけの話ではありません。ショートドラマは冒頭の数秒で見るか離脱するかが決まる形式なので、どの入り方を避けるかの共有が、そのまま初速に効きます。

到達手段としての前提も、この数年で変わりました。総務省の調査では、動画共有系の利用率はYouTubeが81.5%、TikTokが36.7%と報告されています(総務省「令和7年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」・令和8年6月26日公表)。縦型の動画に絞ると動きはさらに速く、サイバーエージェントの調査では2025年の縦型動画広告は2,049億円で前年比155.9%、スマートフォン向け動画広告の29.1%を占めています(サイバーエージェント 2025年国内動画広告の市場調査・2026年3月9日発表)。届け先の主戦場が縦型に寄っているぶん、「どう見せるか」より前に「見てもらえるか」の設計が重くなっています。だからこそ、避けたい入り方の共有が効きます。

私たちがオリエンで必ず聞くのは、「過去に自社で出して、伸びなかった投稿」です。伸びた投稿より、伸びなかった投稿の方が情報量が多い。何が滑ったのかが分かれば、同じ入り方を避けられます。手元にデータが無ければ、競合の動画で「これは自社ではやりたくない」と思うものを教えていただくだけでかまいません。

オリエンで抜けると撮影当日に押す項目

判断基準とは別に、事務的だが抜けると現場が止まる項目があります。ここは埋めるだけの話なので、チェックリストとして持っておいてください。

  • 公開の可否を誰が最終判断するか。 承認者が1人なのか複数なのかで、修正の周回数が変わります。全員に見せて一人ずつ直すと、いつまでも終わりません。
  • 出演者の利用範囲。 SNS投稿だけか、広告配信にも使うか。後から広げるには再交渉が要るので、最初に広めに取っておくのが安全です。権利まわりの詰め方はショートドラマの出演者契約と二次利用|発注側の権利処理に整理しています。
  • 撮影に使えない要素。 実名を出せない、特定の店名は映せない、といった制約は、香盤を組む前に共有が要ります。撮影当日に発覚すると、その場で撮り直しになります。
  • 納品形式と締切。 縦型のみか、横型も要るか。字幕は焼き込みか。プラットフォームごとに仕様が違うので、ここを決めずに編集に入ると作り直しが出ます。工程ごとの日数感覚はショートドラマ制作の納期・スケジュール完全ガイドにまとめました。

この4つは、表現の議論と違って答えが1つに決まります。決まっているのに共有されていないだけで撮影が押すのは、いちばんもったいない止まり方です。

そのまま使えるオリエンの骨子

社内フォーマットに合わせて言い換えは必要ですが、埋める中身は次で足ります。A4で1枚に収まる分量が理想です。厚くしても、判断基準が無ければ初稿はぶれます。

  1. 目的(最終的に増やしたい数字を1つ)
  2. 視聴者(悩みまで書いた一人)
  3. 掲載先(アカウント・既存フォロワー・過去に伸びたもの)
  4. 譲れない一点/触れてほしくない一点
  5. 判断の優先順位(迷ったら何を取るか)
  6. NGに近い例(1本+理由)
  7. 事務項目(承認者・出演者の利用範囲・撮影不可要素・納品形式と締切)

見積の粒度や本数の決め方はショートドラマの制作費相場|見積もり実例3パターンを、初回を何本で組むかは「まず数本だけ」お試し発注ガイドを参照してください。この骨子は、制作会社に渡すためだけの資料ではありません。書いていく過程で、自社が何を曖昧なまま発注しようとしていたかが見えます。

オリエンを渡したあと、最初に返ってくるのが台本です。ここで何を見てOKを出すかは動画制作の台本チェック|撮影前に発注者が見る7項目に分けてまとめました。この記事が「渡す情報」、あちらが「返ってきたものを読む視点」です。

よくある質問

Q. オリエンは制作会社に作ってもらえますか。 A. ヒアリングをもとに、こちらで叩き台を作ることはできます。ただし目的と「触れてほしくない一点」だけは、発注者側でないと決められません。最初の打ち合わせで、この2つに答えられる方に同席いただけると早いです。

Q. 参考動画は本当に要らないのですか。 A. あって困りはしませんが、優先度は低いです。10本の「好き」より、1本の「これは違う」の方が境界を正確に伝えます。好きな理由は言葉にしにくく、嫌いな理由は言葉にしやすいからです。

Q. オリエンを厚くすれば修正は減りますか。 A. 分量ではなく、判断基準が入っているかで決まります。表現の指示を細かく書いても、書いていない状況が現場で必ず出ます。そのとき現場が自分で決められるよう、優先順位を一行入れておく方が効きます。

Q. 途中でオリエンを変えたくなったら。 A. 変えて構いませんが、いつ・何を変えたかを一箇所に残してください。口頭で少しずつ変わると、最終的に誰の指示だったか分からなくなり、修正が空回りします。

まとめ

オリエンで決まるのは作品の質ではなく、そこに至るまでの周回数です。要点は次の3つに尽きます。

  • 表現をすべて指示するのではなく、迷ったときの優先順位を一行決めて渡す
  • 参考動画を増やすより、NGに近い例を1本、理由つきで渡す
  • 承認者・出演者の利用範囲・納品形式といった事務項目を、撮影前に埋め切る

ここまで揃えば、初稿から方向はほぼ合います。オリエンの叩き台づくりからご相談いただくことも多いので、何を決めればいいか迷ったらお問い合わせからお気軽にどうぞ。サービスの詳細はショートドラマ制作にまとめています。私たちは自社アカウントで年間再生回数1億5,000万回を超える運用をしながら、企業様の縦型ドラマを企画から制作まで担っています。

参考にした資料