オリエンから1〜2週間ほどで、制作会社から台本が届きます。ここで発注側がやることは、たいてい「読んで、問題なさそうなので進めてください」と返すことです。

その一言で、撮影日も、キャストの人数も、使えるロケーションも、その動画にかかる費用のほとんどが確定します。台本は文字だけの資料に見えますが、実態は見積書と工程表を兼ねた設計図です。撮影が終わってから「やっぱりこのシーンは要らなかった」と言っても、そのシーンにかかった費用と時間は戻りません。

この記事は、動画を作る側から見た「発注者が台本のどこを見ておくと後で困らないか」をまとめました。台本より手前のオリエンで渡すべき情報はショートドラマ制作のオリエンで渡す情報|仕上がりを左右する5つ、台本が通って撮影・初稿まで進んだ後の伝え方は動画制作の修正依頼の出し方|リテイクを減らす発注側の型、公開して数字が出たあとに何を話すかは動画公開後の振り返り会|制作会社と話す議題と社内報告にあります。この記事はその中間、まだ何も撮っていない時点でしか効かない判断の話です。

なお、台本を「書く側」の技術(フックの作り方、三幕構成、セリフ設計)はショートドラマの脚本の書き方|バズる構成と3秒フックの実践テクニックに分けてあります。この記事は書き方ではなく、上がってきたものを読んで判断する側の記事です。

会議室でホワイトボードの付箋を指しながら企画を詰める3人

台本にOKを出した時点で、費用と撮影日は確定している

台本が確定すると、制作側では次の作業が一斉に動き始めます。キャスティングの打診、ロケーションの押さえ、香盤表(撮影当日の進行表)の作成、小道具や衣装の手配。どれも人と場所を先に押さえる作業なので、いったん動かすと巻き戻しにコストがかかります。

流れをつかむ 台本の確定が、手配の起点になる 1 台本を確定 費用と撮影日の前提が固まる 2 人・場所を押さえる キャストとロケへ打診 3 撮影準備 香盤・小道具・衣装 4 撮影 決めた条件で実施
詳しい条件・補足を読む

台本にOKを出すと、後ろの工程が一斉に動き出す

1

台本の確定

ここでOKを出した時点で、費用と撮影日はほぼ決まる

2

キャスティングの打診・ロケーションの押さえ

人と場所を先に押さえる作業

3

香盤表・小道具・衣装の手配

動かすと巻き戻しにコストがかかる

4

撮影日

実作業は原則1日11時間以内(映適の取引ガイドライン)

台本の確定が1週間遅れると、後ろの工程は全部そのまま1週間ずれる

なぜ台本の段階で撮影日数まで決まるかというと、シーン数とロケーションの数が、1日で撮り切れる量を決めるからです。1つのロケーションで撮る場合、機材の設置と照明の調整に時間を取られるので、移動が1回増えるだけで1〜2時間が消えます。台本に「オフィス」「カフェ」「自宅」と3つの場所が書かれていれば、それは移動が2回あるということです。

撮影時間そのものにも上限があります。日本映画制作適正化機構(映適)の取引ガイドラインでは、実作業時間は原則1日11時間以内、翌日までのインターバルは11時間以上と定められています(映適取引ガイドライン)。SNS向けのショートドラマは映画より小規模ですが、スタッフとキャストが人である以上、この枠は同じように効いてきます。「もう1シーンだけ足したい」が現場で通らないのは、意地悪ではなく物理的な話です。

工程ごとの日数感はショートドラマ制作の納期・スケジュール完全ガイドにまとめていますが、ここで押さえておきたいのは順番だけです。台本の確定が遅れると、その後ろの工程が全部同じ日数だけ後ろへずれます。 台本を1週間寝かせて公開日が変わらない、ということは起きません。

撮影後に直せるもの、直せないもの

台本チェックの優先順位は、この線引きだけで決まります。編集で直せるものは後回しでよく、撮り直しになるものを先に見ます。

要素 撮影後に直せるか 台本で見ておく理由
テロップの文言・表記直せる編集で差し替え可能。優先度は低い
尺(全体の長さ)短くはできる削るのは可能だが、削ると話が飛ぶ構成がある
カットの順番ある程度直せる前後のつながりで撮っていると入れ替え不可
セリフの内容直せない口が動いている。撮り直しか、その部分を落とすか
商品の見え方・持ち方直せないラベルの向き、手で隠れる位置は現場でしか決まらない
登場人物の設定・関係直せないキャスティングと衣装が全部それに紐づいている
ロケーション直せない押さえ直し=撮影日そのものの再設定

弊社の実測では、初稿を見てからいただく修正のうち、テロップと尺の調整は当日〜翌日で返せます。一方で「主人公の役職を課長ではなく部長にしたい」のような設定の変更は、セリフと衣装と呼び名が連動しているため、実質は撮り直しです。台本チェックの時間が15分しか取れないなら、下3行だけを見てください。

発注者が台本で見る7項目

上から順に、後戻りできない度合いが高い順に並べています。

1. 誰に向けた話になっているか

自社の顧客像と、台本の主人公が重なっているかを見ます。BtoBの商材なのに主人公が学生になっていたら、そこで止めます。届けたい相手が画面の中にいないと、動画の出来がよくても数字にはつながりません。

2. 商品・サービスがどう扱われているか

出てくるタイミング、映る秒数、誰が口にするか。ここが曖昧なまま撮ると、「ちゃんと映っていない」という指摘が初稿で必ず出ます。ラベルの向きや、手で隠れないかまで気にするなら、台本の段階で「この カットは商品を正面から3秒」と書き込んでおくのが確実です。

3. 事実として間違っていないか

社名・商品名の表記、価格や機能の説明、業界特有の言い回し。制作会社は御社の業務の中の人ではないので、ここは発注側にしか判定できません。医療・金融・不動産など表現に規制がある業種は、この段階で法務にも回してください。

4. シーン数とロケーション数

見積もりの前提と合っているかを見ます。台本のシーンが増えていれば、撮影時間か費用のどちらかが増えています。増えたことが悪いのではなく、増えたことに双方が気づかないまま撮影日を迎えるのが問題です。

5. 登場人物の数と関係

人数はそのままキャスティング費用です。「通行人A」「同僚B」のような一言だけの役でも、当日その人が現場にいる必要があります。減らせる役がないかは、台本でしか判断できません。

6. 尺と情報量が釣り合っているか

60秒の台本に伝えたいことが5つ入っていたら、どれも伝わりません。優先順位をつけるのは発注側の仕事です。ここで1つに絞れないときは、2本に分ける判断もあります。

7. 最後に何をしてほしいか

見た人にどう動いてほしいのか(検索する、プロフィールから飛ぶ、店舗に行く、覚えて帰る)。ここが決まっていないと、ラストのカットとテロップが宙に浮きます。動画から問い合わせまでの導線設計はショートドラマSNS運用代行 完全ガイド(問い合わせにつながる動線の5パターン)で扱っています。

縦型ショートドラマで特に見落とされる3点

一般的な企業VPと同じ感覚で読むと、縦型では外す箇所があります。

冒頭の2秒で何が起きるか。 縦型は指1本でスキップされる環境で再生されます。台本の1行目が状況説明(「オフィス。朝。社員たちが働いている」)で始まっていたら、その2秒は使われていないのと同じです。1行目で会話が始まっているか、事件が起きているかを見てください。

説明のセリフが多すぎないか。 縦型は音を出さずに見る人が一定数います。総務省の令和7年度の調査では、動画共有系サービスの利用率はYouTubeが81.5%、TikTokが36.7%と報告されていますが(総務省「令和7年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」)、この人数が全員イヤホンを着けているわけではありません。セリフでしか成立しない情報は、テロップか画で見せる設計に置き換えられるかを確認します。

画面の下3分の1に重要なものを置いていないか。 各プラットフォームのUI(いいねボタン、キャプション、アカウント名)がそこに重なります。台本に「商品を画面下に置いて、その上にテロップ」と書かれていたら、実機では両方が隠れます。この手の指摘は、台本を読みながらスマホの画面を思い浮かべないと出てきません。

縦型動画そのものの市場動向は動画広告トレンド2026|予算の置き所を制作会社が解説にまとめています。

法務リスクは台本の段階でしか安く潰せない

撮ってしまった後に発覚すると、作り直しになるものが4つあります。

広告であることの表示。 景品表示法のいわゆるステマ規制は2023年10月1日に施行され、事業者の広告であるにもかかわらず、一般消費者がそれを判別できない表示が規制対象になりました。規制の対象は依頼した事業者側であって、依頼を受けたインフルエンサーではありません(消費者庁「ステルスマーケティングは景品表示法違反です」)。台本の段階で「PR表記をどこに、どの文言で出すか」を決めておけば、テロップを1枚足すだけで済みます。撮影後に「これは広告表記が要る内容だった」と分かると、構成ごと見直しになります。

効果や優位性の言い回し。 「No.1」「業界最安」「必ず〜できる」といったセリフは、根拠資料とセットでなければ書けません。台本にその一言があるかどうかは、読めば分かります。

音楽。 BGMをどこから持ってくるかは台本と一緒に決まります。プラットフォームが用意している音源ライブラリでも、商用アカウントで使える範囲は分かれています(TikTok for Business の商用音源ライブラリ)。「流行っている曲を使いたい」という要望は、台本の段階で可否を確認しておくものです。

出演者の使用範囲。 どこで、いつまで、どの媒体で使うか。文化庁の「俳優のためのガイドブック」でも、出演契約では使用範囲と期間の取り決めが基本とされています。SNSに上げるつもりで撮った素材を後から広告に転用する場合、契約がそこまで含んでいなければ追加の交渉になります。詳しくはショートドラマの出演者契約と二次利用|発注側の権利処理にまとめました。

台本へのフィードバックは「感想」ではなく「判断」で返す

返し方には型があります。初稿の修正依頼と同じ考え方ですが、台本のほうが直しやすいぶん、精度を上げる価値も大きいです。

やってしまいがちなのが、全体に対する感想を1行で返すことです。「もう少しインパクトが欲しい」「うちらしくない気がする」。書いた側はこれを受け取ると、どこを直せばいいか分からないまま全体を書き直すので、次に上がってくるものが前より良くなる保証がありません。

代わりに、次の3つに分けて返します。

  • 変えられない事実の訂正(表記、価格、機能の説明)……これは必ず直す
  • 判断が必要な選択(このシーンを残すか、人数を減らすか)……発注側が決める
  • 好みや温度感の要望(もっと明るく、もっと静かに)……理由を1行添える

3つ目は、理由が添えられているかどうかで結果が変わります。「もっと明るく」だけだと照明の話なのか演技の話なのか分かりませんが、「採用向けなので、見た人が働きたいと思える空気にしたい」と書いてあれば、書き手はセリフとシーン設計の側から手を入れられます。

なお、台本が確定した後に大きく内容を変える場合、制作側では作業のやり直しが発生します。フリーランスや小規模な制作者に発注している場合、一方的な内容変更ややり直しの要請は取引適正化の観点で問題になり得ます(公正取引委員会「フリーランス法特設サイト」)。追加費用の話を含めて、変更するなら早い段階で相談するのが結局いちばん安く済みます。

明るいスタジオでモニターを見ながら撮影を進めるスタッフ4人

弊社が台本を出す前にやっていること

台本チェックを発注者だけの仕事にしないために、渡す前に社内で通している工程があります。

まず、企画で決めた狙いと台本が一致しているかを、書いた本人以外が読んで確認します。書いている途中で面白くなってしまい、当初の目的から離れることは実際に起こります。オリエンで受け取った「誰に何を届けたいか」を横に置いて、1行ずつ照合します。

次に、撮れるかどうかを工程側から見ます。 シーン数、ロケーション、登場人数、着替えの回数を数えて、想定している撮影日数に収まるかを確認します。ここで超過していれば、台本を渡す前にシーンを統合します。発注者に「素敵な台本ですね、ただし撮影日が2日になります」と後から言うのは、こちらの段取り不足です。

そして、PR表記と権利まわりを台本の中に書き込みます。 「ここでPR表記」「この曲は商用可の音源から選定」といった注記を台本に残しておくと、発注側の法務確認が1回で終わります。

こうした工程を先に通しておくと、初稿以降の修正を2回以内に収めやすくなります。弊社が修正回数を抑えられているのは編集が速いからではなく、撮る前に決めきっているからです。

よくある質問

Q. 台本のチェックにはどれくらい時間をかけるべきですか。 初回は1時間、2本目以降は30分を目安にしてください。ポイントは長さより関係者の集め方で、決裁者が読まないまま進むと、初稿を見た決裁者から根本的な指摘が出て撮り直しになります。読む人を最初に確定させるほうが効きます。

Q. 台本の修正は何回まで無料ですか。 契約によりますが、台本段階の修正は初稿映像の修正より柔軟に対応されるのが一般的です。文字を直すコストは、撮影と編集をやり直すコストより桁が違うためです。回数の考え方は動画制作の修正依頼の出し方を参照してください。

Q. 台本が思っていたものと全然違ったときはどうすればいいですか。 書き直しを依頼する前に、オリエンで渡した情報を見直してください。ズレの原因の多くは、伝えたつもりで伝わっていない前提(NGワード、社内の空気感、過去に失敗した表現)です。原因を特定してから戻すほうが、2稿目の精度が上がります。

Q. 自社で台本を書いて、制作だけ依頼できますか。 できます。その場合も撮影の可否(シーン数と場所の数が撮影日数に収まるか)は制作側で確認するので、着手前に一度見せてください。書き直しではなく、統合できるシーンの提案という形で戻します。

Q. 台本の著作権は誰のものになりますか。 契約で定めます。定めていない場合は書いた側に権利が残るため、二次利用や続編での流用を考えているなら、発注時に取り決めておいてください。


縦型のショートドラマ制作と、公開後のSNS運用はショートドラマ制作サービスでご案内しています。台本の設計から撮影・編集まで一貫してお引き受けできますので、ご相談はお問い合わせからお願いいたします。

弊社は年間再生回数1億5,000万回を超えるアカウント運用の中で、台本の1行がその後の撮影と数字をどう変えるかを見てきました。台本チェックは、いちばん安く品質を上げられる工程です。

参考にした資料