撮影当日の立ち会いは、「行ったほうがいいですか」という質問で終わってしまいがちです。ですが実際に仕上がりが変わるのは、行くかどうかではなく、行った人がその日に何を決めて帰るかのほうです。

撮影日は、後から直せることと、二度と直せないことが同じ時間の中に混ざっています。立ち会いの価値は、後者だけを見て、その場で決めることに集中できるかで決まります。この記事は、撮影を受け入れる側として現場に立っている立場から、発注者が当日やること・見ること・言わないほうがいいことを整理しました。発注前に渡す情報はショートドラマ制作のオリエンで渡す情報|仕上がりを左右する5つ、初稿が上がった後の伝え方は動画制作の修正依頼の出し方|リテイクを減らす発注側の型にまとめています。この記事はその間、カメラが回っている一日の話です。

立ち会いは見学ではなく、その日しか決められないことを決める役

撮影日に発生する判断は、大きく2種類に分かれます。

同じ軸で比較 立ち会いでは、撮り直しになる点を先に 確認軸 当日確認 編集で調整 画面 看板・商品向き テロップ・色 音・言葉 演者のセリフ BGM 場所・ 構成 ロケ地の見え方 カットの順と尺
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立ち会いの持ち時間は、戻せない側に全部使う

編集で戻せる(後日でいい)

テロップの文言

BGM

色味

カットの順番と尺

その日を過ぎると撮り直し

画角に入った看板

商品パッケージの向き

演者が口にした言い回し

ロケ地の見え方

撮り直しは1カットでも半日単位の再手配になる

編集で戻せるのは、テロップの文言、BGM、色味、カットの順番、尺。ここは後日でも間に合います。一方で、画角に入った看板、商品パッケージの向き、演者が口にした言い回し、ロケ地の見え方は、その日を過ぎると撮り直すしかありません。撮り直しは1カットでも半日単位の再手配になります。

撮影現場でモニターを確認するスタッフ

現場に来た担当者がつまずくのは、たいてい配分を間違えたときです。テロップや音楽の相談に時間を使い、自社の商品が逆向きに置かれていたことに気づかないまま撤収する。悪気なく起きます。立ち会いの持ち時間は「戻せない側」に全部使うと決めておくと、判断の速さがまるで変わります。

立ち会う前に決めておく3つ

現場で迷いが出るのは、たいてい準備段階の宿題が残っているからです。次の3つは前日までに社内で確定させてください。

1. 当日の決裁者を1人にする。 複数人で来ると、意見が割れたときに現場が待ちます。人数を絞れないなら「最終的にはこの人が決める」とだけ先に合意しておけば足ります。

2. 絶対NGのラインを紙1枚にする。 映ってはいけないもの、言ってはいけない表現、社内規定で使えない色や表記。オリエンで渡してあれば、当日はその読み合わせで済みます。

3. 社内に確認が要る場合の連絡先と、返事が来る時間帯を決めておく。 「上長に確認します」で30分止まると、その30分は照明を組み直す時間から引かれます。

現場で発注者が見る4点

見る対象を絞ると、素人目でも十分に機能します。弊社が立ち会いの方に見ていただくのは次の4つです。

見る対象具体的に何を確認するか見逃すとどうなるか
自社に関わる映り込みロゴの向き・商品の置き方・制服・社名の表記編集で直せず、撮り直しになる
セリフのうち事実に関わる部分効果・価格・保証・「日本初」などの言い切り口が動いているので後から消せない
小道具や書類の表記画面に映る資料・名刺・パソコンの表示社内情報や旧サービス名が残る
背景に入る他社のもの他社ロゴ・ポスター・流れている音楽公開後に差し替え依頼が来る

とくに2つ目は、現場で止めるのが圧倒的に安い項目です。演者が良かれと思って足したひと言が、広告表現として使えない言い回しになっていることは珍しくありません。「今の言い方、うちだと通らないです」と、その場で監督に伝えてもらえれば、テイクをもう1本足すだけで解決します。

その場で言っていい修正と、言うと事故になる要求

言っていいのは、事前に合意した範囲の中で、ズレを戻す指摘です。NGラインに触れている、事実と違う、渡した資料と表記が違う。これは早いほど安く済みます。

事故になるのは、その日の思いつきで発注内容そのものを増やすほうです。「せっかくだからもう1シーン」「この商品も一緒に映してほしい」「別の尺のバージョンも」。現場が和やかなときほど出やすい一言ですが、これは仕様の変更にあたります。

制作現場は、フリーランスのスタッフや演者との業務委託で成り立っています。公正取引委員会のフリーランス法特設サイトでは、発注事業者の禁止行為として7項目が挙げられており、その中に「不当な給付内容の変更・やり直し」が含まれます。フリーランスに責任がないのに、費用を負担せずに給付の内容を変更させる行為が問題になる、という整理です(1か月以上の業務委託が対象)。発注者が直接そのスタッフと契約していない場合でも、制作会社を通じて同じ圧力が現場に落ちる構造は変わりません。

追加したくなったら、その場で足すのではなく「追加として見積もりをください」と言えば済みます。撮影の合間に決めれば、当日の別枠として組めることもあります。予算の通し方は動画制作の稟議を通す方法|ショートドラマの予算根拠と決裁資料で扱いました。

現場の時間は延ばせない|11時間の考え方と道路使用許可

「あと1カットだけ」が通らないのには理由があります。

日本映画制作適正化機構(映適)の取引ガイドラインでは、1日の撮影時間は段取り開始から最終カットOKまで、休憩・食事を含めて11時間以内が基本原則とされています。11時間を超えた場合は、撮影終了から翌日の段取り開始まで12時間以上のインターバルが必要。作業・撮影が6時間以上になるときは45分以上の休憩を1回以上確保する、とも定められています。準備や撤収を含む作業時間は原則1日13時間以内です。

映画の現場向けの基準ですが、縦型のショートドラマでも組み方の考え方は同じです。押した1時間は、誰かの休憩か、翌日の開始時刻に変わります。

撮影の進行を仕切る監督とカメラまわりのスタッフ

屋外ロケではもう一段固い制約があります。道路での撮影は道路交通法第77条第1項に基づく道路使用許可の対象で、警察庁の案内でも「道路において祭礼行事、ロケーション等をしようとする行為」が許可を要する行為として示されています。申請先は現場を管轄する警察署長。許可には時間帯や場所の条件が付くため、現場の判断で延長も移動もできません。「もう30分」がきかない現場がある、と知っておくだけで、当日の相談の仕方が変わります。工程全体の目安はショートドラマ制作の納期・スケジュール完全ガイドにまとめています。

立ち会えないときにやっておくこと

全員が現場に行けるわけではありません。代替は2つあります。

ひとつは、判断が必要な時間帯だけをビデオ通話でつなぐ方法です。終日つなぐ必要はなく、自社の商品が映るシーン、セリフで訴求を言うシーン、その2箇所だけで十分に機能します。事前に「何時ごろ、どのシーンを撮るか」を聞いておけば予定を空けられます。

もうひとつは、写真での確認ポイントを先に合意しておく方法です。商品の置き方、制服の見え方、画面に映る資料。「このカットだけ、押さえの写真を送ってください」と決めておけば、現場を止めずに確認できます。逆に「全カット確認します」は現場が待ち続けることになるので、現実的ではありません。

弊社が撮影当日にお願いしていること

参考までに、弊社が立ち会いのクライアントに毎回お願いしている運用をそのまま書きます。

  • 朝の入り時に10分もらい、その日決めていただく項目を3つ以内に絞って共有する
  • 決裁者は1名。同行者が複数の場合も、判断はその方に一本化してもらう
  • NG集は紙1枚で現場に置く(データだけだと、現場で誰も開けない)
  • 演者への要望は監督経由で伝える。複数の人から直接指示が入ると、芝居の基準が崩れます
  • 撮影中の写真や動画の社内共有・SNS投稿は、事前に可否を確認する

演者への直接指示を止めているのは、遠慮ではなく品質の問題です。文化庁が公開している俳優のためのガイドブックでも、出演にあたっての条件や現場での取り決めを事前に明確にしておくことの重要性が扱われています。当日に指示系統が増えるのは、その事前合意を現場で崩す行為にあたります。出演にまつわる契約の考え方はショートドラマの出演者契約で詳しく書きました。

よくある質問

立ち会いは必須ですか。 必須ではありません。ただし自社の商品・制服・オフィス・サービス名が画面に入る回は、立ち会っていただくほうが手戻りが減ります。フィクション中心で自社要素が出ない回は、初稿確認からの参加でも十分です。

何人まで行っていいですか。 決裁者1名+現場担当1名を上限の目安にしています。人数が増えると、現場のスペースよりも先に、判断の速度が落ちます。

途中で帰っても失礼になりませんか。 なりません。決める項目が終わったら退出していただいて構いません。最後までいることより、必要なタイミングにいることのほうが価値があります。

差し入れは必要ですか。 不要です。気を使っていただくより、確認の返事が早いほうが現場は助かります。

まとめ

撮影の立ち会いは、現場を見学する日ではなく、戻せない判断だけを片づける日です。決裁者を1人にし、NGラインを紙で渡し、自社に関わる映り込みと事実に関わるセリフの2点に集中する。その代わり、思いつきの追加はその場で足さず、見積もりに戻す。この線引きができている発注者との撮影は、ほぼ例外なく修正が少なく終わります。

縦型ショートドラマの企画から撮影・運用まで、ショートドラマ制作サービスでご相談いただけます。自社アカウントとクライアント案件を合わせ、年間再生回数は1億5,000万回を超えました。撮影当日の進め方も含めて、お問い合わせからお気軽にご相談ください。

参考・出典一覧