企画も予算も通ったあとで止まる打ち合わせがあります。止まる場所はだいたい同じで、「で、誰が出るんですか」です。社員に出てもらう案が社内で出ていて、でも誰も手を挙げていない。役者を頼むと高そうだが相場が分からない。この状態のまま台本の話に進むと、書いたあとで全部書き直しになります。

先に結論を書きます。出演者は「1本だけ試すのか、シリーズとして続けるのか」で選び方が変わります。1本試すだけなら社員起用が最も早く、続けるつもりなら初回からプロの役者に頼んだほうが結果的に安く済みます。理由は演技の質ではなく、次の撮影に同じ人を呼べるかどうかにあります。選択肢は社員・プロの役者・インフルエンサー・AI生成の4つで、それぞれ制約の出る場所が違います。

出演者が決まったあとの契約と権利の話はショートドラマの出演者契約と二次利用、撮る場所の決め方はショートドラマの撮影場所にまとめてあります。この記事は、その手前の「誰に出てもらうか」だけを扱います。読んでほしいのは、事業会社でマーケティング・広報・採用を担当していて、これから縦型のショートドラマを発注する方です。すでに具体的な企画がある場合は、お問い合わせから企画の内容と本数をお送りいただければ、出演者の構成込みで見積もりをお出しします。

4つの選択肢は、制約の出る場所が違う

金額だけで並べると社員起用が最安に見えます。ただし実際に効いてくるのは金額ではなく、どこに制約が出るかです。

関係を整理 出演者は、費用以外の制約も比べる 選択肢 先に確認する制約 社員・関係者 テイク数・異動・退職 プロの役者 拘束時間・使用範囲 インフルエンサー 本人の空き・広告の表示 AI生成 生成回数・設定の保存
詳しい条件・補足を読む

4つの選択肢は、金額ではなく制約の出る場所が違う

社員・関係者

費用は実質ゼロ(勤務時間の消費)

当日のテイク数が読めない

異動・退職で続編が途切れる

プロの役者

拘束時間と使用範囲で費用が決まる

本数が計算できる

契約で続編に押さえられる

インフルエンサー

フォロワー規模に連動して高い

本人の稼働可能日に従う

広告であることの表示が要る

AI生成

生成回数ぶんの費用のみ

撮影日が存在しない

設定を保存すれば同じ顔を出せる

見落とされるのは3行目。2本目で主人公の顔が変わると、視聴者には別アカウントの動画に見える

社員・関係者 プロの役者 インフルエンサー AI生成
出演にかかる費用 実質ゼロ(勤務時間の消費) 拘束時間と使用範囲で決まる フォロワー規模に連動して高い 生成回数ぶんのみ
撮影当日の進み方 テイク数が読めない 本数が計算できる 本人の稼働可能日に従う 撮影日が存在しない
続編に同じ人を出せるか 異動・退職で途切れる 契約で押さえられる 単価と空きに左右される 設定を保存すれば同じ顔
主な注意点 出演の同意と退職後の扱い 使用範囲と期間の取り決め 広告であることの表示 生成物と表示の扱い

表の3行目が、この判断でいちばん見落とされます。1本目は社員でうまくいったのに、2本目を撮る頃には本人が別部署に異動していて、主人公の顔が変わる。視聴者からは「別のアカウントの動画」に見えます。縦型のショートドラマは寄りの画が多く、顔が画面の大半を占めるため、演者が変わったことは一目で伝わってしまいます。

社員に出てもらうなら、先に決める5つ

社員起用は費用が下がるだけでなく、その会社の空気がそのまま映るという強みがあります。採用向けの動画では、役者が演じた「感じのいい職場」より、実際の社員が話しているほうが伝わります。そのうえで、発注前に決めておかないと止まる項目が5つあります。

  1. 誰に声をかけるか、そして断れる形になっているか。 上司から名指しで頼まれた社員は断りにくく、当日の表情に出ます。募集の形にして、手を挙げた人から選ぶほうが結果が良くなります
  2. 勤務時間として扱うか。 撮影は半日から1日かかります。業務として扱うのか、業務外の協力なのかを人事と先に合意してください。ここが曖昧なまま当日を迎えると、撮影が延びたときに誰も判断できません
  3. 公開範囲と期間。 自社アカウントだけか、広告配信にも回すのか。数字が良かった回ほど広告転用の話が後から出ます
  4. 退職した場合にどうするか。 公開を続けるのか、取り下げるのか。決めていないと、その都度の判断になります
  5. 本人の名前と所属を出すか。 名前を出すと続編での再登場は自然になりますが、本人の負担は上がります

4と5は権利と契約の話につながるので、書面の作り方は出演者契約の記事を見てください。個人の役者やフリーランスに直接発注する場合は、取引条件の明示や支払期日についてフリーランス法のルールが関わります。社員が出る回は、台本の承認に本人の上長と人事が加わるので、誰がどの順で見るかを先に決めておかないと撮影日が動きます。その決め方はSNS投稿の承認フローに書きました。

撮影現場でモニターを見ながら演技を確認するスタッフ

当社で社員出演の撮影に入るときは、前日までに台本の読み合わせを1回入れてもらっています。当日いきなり渡すと、セリフを覚えることに意識が向いて、演技どころではなくなるからです。読み合わせを挟んだ回と挟まなかった回では、同じ本数を撮り終える時間が体感で倍近く違います。

プロの役者に頼むと、何が変わるのか

変わるのは演技の上手さではありません。変わるのは1日に撮れる本数です。

縦型のショートドラマは1本が30秒から1分程度で、当社では1日に複数本をまとめて撮ります。同じ場所・同じ衣装で撮れる分をその日にまとめたほうが、制作費が下がるからです。この「まとめ撮り」が成立するかどうかは、演者が何テイクで狙った芝居に到達できるかにかかっています。3テイクで撮れる人と、10テイク必要な人では、1日の本数が2倍以上変わります。本数が変われば1本あたりの単価が変わるので、出演料の差は思ったほど総額に響きません。

もうひとつ、兼役という考え方があります。同じ日に複数の企画を撮るとき、少ない人数で複数の役を回すと、拘束と衣装の準備がまとめられます。この設計ができるのは、役柄を切り替えられる演者を呼んだ場合だけです。社員に別の役をやってもらう構成は、現実的にはうまくいきません。

役者を事務所経由で呼ぶ場合、報酬条件や契約期間の扱いについては、公正取引委員会が実演家等との取引の適正化に関する指針を出しています。契約期間を明確に定めること、報酬条件を透明に示すことが挙げられており、発注する側も同じ水準で条件を出す前提で見積もりを組む必要があります。「ギャラは後で相談」で当日を迎えないでください。

制作費全体の内訳と、出演者の費用がどこに乗るかはショートドラマの制作費用はいくら?相場と内訳で説明しています。複数社の見積もりを比べるときは出演費の計上方法が会社ごとに違うので、動画制作の相見積もりもあわせて見てください。

インフルエンサー起用は、表示の問題が先に来る

すでにフォロワーを持っている人に出てもらえば、初回から再生が回ります。企画の当たり外れも読みやすくなります。その代わり、出演を頼んだ時点で表示のルールが関わってきます。

消費者庁のステルスマーケティングに関するQ&Aによれば、事業者が自社の商品について表示してもらう目的でインフルエンサーに依頼した場合、それは事業者の表示にあたります。景品表示法にもとづく告示(令和5年3月28日内閣府告示第19号)は2023年10月1日から施行されており、規制の対象になるのは依頼した側、つまり発注者です。投稿するインフルエンサー本人ではありません。

判定はシンプルで、次の状態になっていれば問題になります。

  • 事業者が内容の決定に関与しているのに、広告であることが分からない
  • 「PR」の記載が説明文の末尾やハッシュタグの群れに埋もれて、画面上で読み取れない
  • 商品を無償提供して、その方針に沿った内容を投稿してもらっている

縦型動画では、テキストの多くが画面外や「もっと見る」の内側に隠れます。表示は動画の冒頭に置くか、キャプションの先頭に置いてください。同じQ&Aでは、従業員が個人アカウントで自社商品について投稿する場合も、販売促進が職務に含まれる立場であれば事業者の表示と判断されうる、とされています。社員起用でも無関係ではありません。

インフルエンサー起用そのものの考え方はショートドラマ広告×インフルエンサーにまとめています。

スタジオでカメラとライトをセットする撮影クルー

AI生成という4つ目の選択肢は、どこまで来ているか

生成AIで作った人物にドラマを演じさせる方法は、実務で使える段階に入りました。当社でも監視カメラ風のホラーや、実写調のショートドラマをAIで制作しています。ただし実写の置き換えとして使うと、たいてい失敗します。

うまくいくのは次のような場合です。撮影が物理的に難しい設定(事故・災害・夜の屋外・大人数)、実在の人物を出したくない企画、同じキャラクターで長期間出し続けたいアカウント。逆に向かないのは、生活感のある会話劇です。表情の細かい揺れや間の取り方は、まだ実写に届きません。

AI制作でいちばん重要なのは、顔を固定する仕組みです。生成のたびに顔が変わってしまうと、シリーズとして成立しません。当社ではキャラクターの外見を文章とベース画像で定義した資料を作り、毎カットそれを参照させています。この資料が無いまま作り始めると、5カット目で別人になります。制作を始める前に「このキャラクターの設定資料はありますか」と聞いてください。無いと答える相手に長期のシリーズを頼むのは避けたほうがいい。

費用の面では、出演料と撮影日が消えるぶん、1本あたりは実写より下がります。ただし企画と台本の工数は変わりません。安くなるのは撮影に関わる部分だけです。

迷ったときの決め方

判断の順番はこうなります。

  1. この動画を続けるかどうかを先に決める。 1本で終わるなら社員起用、続けるならプロの役者かAIを検討する
  2. 顔を出せる人が社内にいるかを確認する。 手を挙げる人がいないなら、その時点で社員案は消える。無理に頼んで撮った動画は、画面を通して伝わります
  3. 1日に何本撮るかを決める。 3本以上をまとめて撮るなら、テイク数の読める演者が要る
  4. 広告に回す可能性があるかを確認する。 回す可能性があるなら、出演者との取り決めに広告配信を最初から入れておく
  5. 表示が必要な起用かを確認する。 インフルエンサーや、販売促進が職務の社員が出る場合は、広告表示の設計まで含めて発注する

この5つを決めてから制作会社に相談すると、初回の打ち合わせで見積もりまで進みます。決まっていない状態で相談しても、選択肢の説明で1回分の打ち合わせが終わります。発注前に渡す情報の一覧はショートドラマ制作のオリエンで渡す情報にまとめました。

よくある質問

Q. 社員が出るショートドラマは、素人っぽくなりませんか?

なります。ただしそれが弱点になるかは企画によります。採用や社内文化を伝える企画では、演技の粗さより本人が話していることのほうが効きます。一方で恋愛ものやコメディのように演技の間で笑わせる企画は、社員起用だと成立しにくいです。企画を決めてから出演者を決めるのではなく、出演者の候補を見てから企画の型を選ぶほうが失敗しません。

Q. 出演者は制作会社が用意してくれますか?

はい、キャスティングは制作会社の業務範囲です。当社の場合も、企画に合わせて候補を出して、必要なら事前に演技の確認をしてから撮影に入ります。ご要望の演者がいる場合は、スケジュールの押さえが必要になるので早めにお伝えください。

Q. 社員に出演を断られました。どうすればいいですか?

無理に頼まないでください。撮影当日の表情に出ますし、公開後に本人が後悔した場合、取り下げの判断が発生します。断られた時点で、プロの役者かAIに切り替える判断をしたほうが早いです。

Q. 退職した社員が出ている動画は、消さないといけませんか?

法律で一律に決まっているわけではなく、出演時の取り決め次第です。公開を続けてよいのか、退職後は取り下げるのかを、撮影前に本人と書面で決めておいてください。決めていない場合は、退職時に改めて本人の意向を確認することになります。

Q. インフルエンサーに頼むと「PR」表示は必須ですか?

事業者が内容の決定に関与している場合、一般消費者が事業者の表示だと分かる状態にする必要があります。「PR」に限らず「広告」「プロモーション」などの記載や、提供を受けている旨の説明文が使えます。動画では画面上で読み取れる位置に置いてください。

Q. AIで作った出演者でも、権利の処理は必要ですか?

実在の人物の顔を再現していない限り、出演者との契約は発生しません。ただし使用した楽曲や素材の権利、そして生成物であることをどう扱うかは別途決める必要があります。プラットフォームによってはAI生成物の表示を求める場合があるため、投稿先の規定を確認してください。

まとめ

出演者の選択は、演技の上手さを比べる作業ではありません。続編に同じ人を出せるか、1日に何本撮れるか、広告に回せるか。この3つで決まります。

社員起用は初回が速く、シリーズ化に弱い。プロの役者は1日の本数が読めるので、複数本をまとめて撮る前提なら総額で逆転します。インフルエンサーは初速が出る代わりに表示の設計が要る。AIは撮影日が消える代わりに、顔を固定する仕組みを持っている相手にしか頼めません。

当社は自社アカウントの年間再生回数が1億5,000万回を超える運用の中で、企画から撮影・編集までを内製で回しています。社員起用の設計もAI制作も、同じチームが担当します。出演者の構成から相談したい場合はお問い合わせください。サービスの内容はショートドラマ制作AIドラマ制作にまとめています。よくある失敗の型を先に知りたい場合はショートドラマの失敗パターン10選もあわせてどうぞ。

参考リンク