社員が出演した動画を公開したまま、退職の連絡を受けた。残すのか、別の出演者で撮り直すのか、まず撮影時の合意と現在の公開先を確かめます。

公開を続けられるかは、退職の事実だけで一律に決めず、契約・同意の内容、利用目的、本人の申し出を合わせて判断します。同意書があっても、どの使い方でも続けられるわけではありません。個人情報保護委員会の通則編にも、一定の要件で保有個人データの利用停止等に応じる仕組みが示されています。個別案件で争いがある場合は法務担当や弁護士に確認します。

社員出演を続けるか、社外キャストへ切り替えるかを比較する場合は、公開料金と制作工程を見ながら、撮り直す本数と公開期限を整理できます。誰に出てもらうかは出演者の選び方、契約の整理は出演者契約と二次利用で扱い、この記事では退職後の対応と費用の分け方を説明します。

退職で自動的に消えるわけではない。選ぶのは3つ

退職後の扱いを決めた書面があれば、まずその条件を読みます。契約期間が切れている、説明した用途と違う広告に使っている、本人から取り下げを求められている、といった事情も別に確認します。在職中の同意があることだけで結論を出さないための手順です。

そのうえで、公開対応を大きく3つに分けます。確認中の一時的な非公開も選択肢です。

  • 残す:現在の利用が合意の範囲内か、公開継続に問題がないか確認する
  • 差し替える:本人が写るカットだけを撮り直す、または別カットに置き換えて再編集する
  • 取り下げる:投稿を非公開または削除する

次の順で確認内容をそろえると、担当者ごとの判断の食い違いを見つけやすくなります。

流れをつかむ 在職・退職より、同意の範囲を確認 1 書面 媒体・期間・退職後の扱い 2 申し出 本人からの取り下げ要請 3 判断 残す・差し替える・取り下げる
合意と申し出を確認してから、公開の扱いを判断する。

判断の分かれ目は、撮影のときの同意の取り方にある

口頭の合意だけでは、後から媒体や期間を確認しにくくなります。書面がない場合も、撮影時のメールやチャットなど、実際にどこまで説明したかが分かる記録を探します。

撮影前に取る書面には、最低限この6つを入れてください。テンプレートを配るより、この6項目が埋まっているかで見たほうが早いです。

  1. 使う媒体:自社SNS、自社サイト、広告配信、営業資料、採用ページのうちどれか
  2. 使う期間:公開開始からいつまでか。「当社が必要と認める期間」は範囲が決まっていないので避ける
  3. 退職・異動した後の扱い:継続して公開するのか、申し出があれば取り下げるのか
  4. 二次利用の範囲:切り抜き、他媒体への転載、広告素材への転用を含むか
  5. 撤回の条件:本人が取り下げを求められる場合と、その連絡先
  6. 報酬の有無:業務として撮影したのか、別途の出演料があるのか

退職後の扱いを先に話しておくと、契約書にない対応を退職時に初めて依頼する事態を減らせます。これは編集部が提案する確認項目であり、項目を埋めればすべての紛争を防げるという意味ではありません。

社外のキャストへ業務委託する場合は、フリーランス法の対象となる取引かも確かめます。対象の取引では、業務内容や報酬額等を書面または電磁的方法で明示する義務があります(厚生労働省掲載「フリーランス法パンフレット」6〜7ページ)。社員の出演同意とは別の確認です。

本人から取り下げを求められたときの手順

流れをつかむ 対象を洗い出し、同意を確認して回答 1 1日目 対象URL・切り抜き・再投稿 2 2〜3日目 撮影時の同意を確認 3 1週間以内 対応方針を本人へ回答
日数は社内対応の例で、法定期限ではない。緊急の公開停止はこの日数を待たず対応する。

以下の日数は社内で担当と回答予定日を決めるための例で、法定期限ではありません。権利侵害のおそれがある場合は、1週間を待たず公開停止を含めて対応します。

1日目:受け取って、対象を特定する。 どの投稿のことなのかを、URL単位で一覧にします。シリーズものは切り抜きや再投稿が枝分かれしているので、同じ素材が何本に載っているかを先に数えます。ここで漏らすと、後から「まだ残っている」と再度の申し出を受けます。

2〜3日目:撮影時の同意の内容を確認する。 書面があるならその範囲、無いなら当時のやりとりの記録を探します。顔が判別できる映像は個人情報にあたり、本人には保有個人データの利用停止等を請求できる仕組みが法律上あります(個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」)。請求が認められる要件は決まっているので、該当するかどうかは条文と自社の取扱いを突き合わせて判断します。

1週間以内:回答する。 残す・差し替える・取り下げるのどれかと、その時期を伝えます。「検討中」のまま放置するのが一番こじれます。判断に迷う内容や、損害賠償の話が出ている場合は、社内で結論を出さずに弁護士に確認してください。この記事は一般的な進め方の整理であって、個別の案件の法的判断ではありません。

消さずに済ませる打ち手は、編集と設計にある

本人から削除の申し出があったら、再生数より先に同意の範囲と申出内容を確認し、必要に応じて確認中の公開停止も検討します。その後、公開できる条件の範囲で編集方法を比べます。

差し替える範囲を確認します。 本人が写るカットだけを置き換える案と、一本を撮り直す案を比べます。ただし、編集したファイルを同じ投稿へ差し替えられるとは限りません。YouTubeは新規アップロードに新しいURLを付けるため、動画そのものの置き換えはできないと案内しています。投稿先ごとに、再投稿や埋め込み先の更新まで確認します。

加工だけで対応できるかを検品します。 顔を隠しても、声や場面から本人が分かる可能性があります。識別できるかと、物語が伝わるかを別に確認します。加工が安い、撮り直しが安いとは一律に決めず、対象カットと確認回数をそろえて見積もります。

撮り直しの判断は、残りの話数で決めます。 シリーズがまだ続く予定なら、その人の役を別の人に交代させる回を1本挟むほうが、視聴者にも説明がつきます。連続ものの話数と離脱の設計はショートドラマのシリーズ設計にまとめています。

なお、公開を止める判断をしたときに実際に投稿を消せるかは、アカウントの権限を誰が持っているかで決まります。運用を外部に任せている場合、管理者権限が制作会社側にしかなくて、その日のうちに消せないことがあります。権限の持ち方はSNSアカウントの権限管理を先に確認してください。

差し替え費用は、編集・撮影・公開作業に分ける

見積もりは「退職者対応一式」だけで取らず、次の範囲をそろえます。合意の確認が済んでいない動画を、安い案だからという理由で公開し続ける判断には使いません。

作業伝える数量費用を左右する条件
再編集対象カット・本数元データと代替素材の有無
再撮影場面・出演者・日数場所と配役の調整
公開先の更新投稿・埋め込み先再投稿とリンク修正の範囲

一本に数秒だけ出ている場合でも、字幕やナレーションに名前が残っていれば、その修正も必要です。逆に、本人が映らない素材だけで話を組めるなら、再撮影せずに済む可能性があります。編集会社には素材を確認してもらい、追加作業が発生する条件も見積もりへ記載します。

当社の公開料金は新規制作の比較の入口です。既存動画の部分修正や再撮影が同じ価格で受けられるという意味ではありません。まず対象を洗い出し、公開停止への対応と、作り直す費用を別々に決めてください。

退職が起きる前提で、出演の設計を決めておく

退職や異動があっても対応範囲を限定できるように、出演と素材を設計します。

  • 1人に依存しない配役にする。 特定の社員が全話に出る設計は、その人が抜けた瞬間にシリーズが止まります
  • 社員が出るのは「顔出しの必要がある回」だけにする。 商品説明や社内紹介のように顔が必須でない回は、手元だけ・後ろ姿・ナレーションで組めます
  • 長く残す前提の動画には、社員ではなく俳優かAIキャストを使う。 採用ページや会社紹介のように数年単位で使う動画ほど、この分岐が効きます。判断の基準はショートドラマの出演者の選び方にあります
  • 撮った素材の使い回しは、同意の範囲で止める。 転用の可否は制作した動画の使い回しにまとめています

よくある質問

Q. 退職した社員から削除を求められたら、必ず消さないといけませんか?

必ずではありません。撮影時の同意の範囲内で、その範囲を超えた使い方をしていなければ、公開を続けられる場合があります。ただし書面が無い、または退職後の扱いを決めていない場合は、応じる方向で検討したほうが実務上は安全です。

Q. 在職中に「退職後も使ってよい」と書面をもらっていれば大丈夫ですか?

その書面があるかどうかで状況は大きく変わります。ただし期間や媒体の範囲が空欄のままだと、後から範囲を巡って争いになります。期間・媒体・二次利用の3つを具体的に書いておいてください。

Q. 退職者が写っている動画を、広告に転用してもよいですか?

撮影時の同意に「広告配信」が含まれていない場合は避けてください。オーガニック投稿として出すことと、費用を払って配信することは別の使い方として扱われます。

Q. 社員が出た動画は、退職のたびに作り直すことになりませんか?

すべての動画を作り直すとは限りません。まず各動画の合意・利用状況・申し出を確かめ、その後に必要な修正範囲を決めます。再生数が多いことだけを残す理由にはしません。

Q. 出演した社員が退職後にSNSで会社の批判をしています。動画は消すべきですか?

その状況では、投稿を残すことで視聴者の関心が別の方向に向くことがあります。法的な義務とは別に、運用上の判断として取り下げや差し替えを検討する場面です。

まとめ

社員に出てもらう動画は、撮った日ではなく、その人が辞めた日に本当の設計が問われます。決めておくことは4つです。

  1. 撮影前に、媒体・期間・退職後の扱いを書面にする
  2. 申し出が来たら、対象をURL単位で洗い出してから回答する
  3. 公開継続の可否を先に確認し、差し替えと撮り直しの範囲を比べる
  4. 長く使う動画は、最初から社員以外で撮る

対応時には、確認担当と回答予定日も残します。必要な公開停止を遅らせず、費用の比較は公開できる条件が分かった範囲で進めます。

当社への制作相談では、対象動画の本数・使っている媒体・必要な公開期限を共有してください。編集で直す案と撮り直す案の範囲を整理できます。法的な公開可否は法務担当や弁護士へ確認し、制作の見積もりと区別します。ショートドラマ制作ではサービスの範囲を案内しています。

参考リンク