撮影日が決まった直後にいちばん多く来る質問が「その日、雨だったらどうなりますか」です。契約書には「不可抗力の場合は協議のうえ決定する」とだけ書いてあることが多く、当日になって誰も決められない、という事故がここから起きます。

先に結論を書きます。発注側が撮影前に決めておくのは、止める基準・決める期限・止まったときの費用の分担の3つです。この3つを撮影日が決まった時点で1枚にしておけば、当日の朝に電話で揉めることはなくなります。逆に、これを当日まで決めないと、判断そのものより「誰が決めるのか」の調整で半日が消えます。

撮影の段取りを詰めた状態で発注したい場合は、企画の段階からお問い合わせください。当日に発注側がやることは動画撮影の立ち会いで発注者がやること、公開までの日数の組み方はショートドラマの納期と撮影期間にまとめています。この記事は、その予定が崩れたときの話です。

流れをつかむ 撮影の可否は、安全から判断 1 安全 警報・暑さなどを確認 2 映像 必要なカットが撮れるか 3 振替 人・場所・機材の空きを確認
詳しい条件・補足を読む

止める判断は、安全・画・振替日の順に見る

1

安全に撮れるか

警報が出ているか/暑さ指数31以上か

2

映像として成立するか

屋外でしか撮れないカットが3割を超えるか

3

振替の日が取れるか

出演者・場所・機材が同時に空く日があるか

この順番で見ないと、安全の話と公開日の話が同じ場で混ざって決まらない

撮影の実施可否を判断する順番

止めるかどうかは、天気予報ではなく3つの基準で決める

雨雲レーダーを全員で眺めても結論は出ません。判断が割れるのは、見ている基準が人によって違うからです。安全を見ている人、映像の仕上がりを見ている人、公開日を見ている人が同じ画面を見て別の結論を出します。順番を決めておきます。

1つ目:安全に撮れるか

気象庁の警報は「重大な災害が起こるおそれ」があるときに発表され、注意報は「災害が起こるおそれ」があるときに発表されます(気象庁)。当社では、撮影地に大雨・暴風・大雪のいずれかの警報が出ている、または出る見込みの場合は屋外撮影を実施しません。注意報どまりのときは実施の側に倒します。

夏場はもう1つ基準が要ります。環境省が公開している暑さ指数(WBGT)は31以上が「危険」の区分で、運動は原則中止とされています(環境省 熱中症予防情報サイト)。撮影は運動ではありませんが、機材を持って屋外に立ち続ける時間はそれに近く、当社ではこの31を屋外カットを短縮する目安に使っています。出演者が社員の場合は特に、会社として無理をさせられない線を先に引いておいてください。

2つ目:映像として成立するか

安全でも、撮れば使えるとは限りません。ショートドラマは音声とテロップで見られるので、雨音がセリフに乗ると音の差し替えが必要になり、編集の工数が増えます。地面が濡れていると、同じシーンの他のカットと画がつながりません。晴れの日に撮ったカットと雨の日に撮ったカットを1本の中で並べると、視聴者は理由が分からないまま違和感だけを受け取ります。

判断としては、その日に撮る予定のカットのうち「屋外でなければ成立しないカット」が何割あるかを数えます。3割以下なら屋内に差し替えて実施、半分を超えるなら延期、というのが実務上の分かれ目です。

3つ目:振替の日が取れるか

止めた後に撮れる日がなければ、止める判断は先送りではなく公開の中止になります。出演者・スタジオ・機材の3つが同時に空いている日は、探すと2週間から3週間先になることが珍しくありません。公開日が動かせないキャンペーン連動の案件では、多少条件が悪くても実施に倒したほうが結果的に傷が浅い場合があります。

誰が、いつまでに決めるか

流れをつかむ 前日に企画判断、当日は安全判断 1 3日前 屋外カットと屋内案を共有 2 前日18時 実施・延期・差し替えを決定 3 当日朝 安全上の中止を判断
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当日の朝に迷わないよう、締めは前日18時に置く

3日前

実施の可否を分ける条件を再確認

屋外カットの割合と、屋内の差し替え案を双方で共有

前日18時

実施・延期・差し替えのどれかを確定

会場と機材のキャンセル料が満額になる前に切る

当日朝

安全に関する中止だけ制作側が単独で判断

企画に関わる変更は前日で終わらせておく

決める人と期限が空白だと、判断より「誰が決めるのか」の調整に時間が消える

撮影可否を決める期限

基準を決めても、決める人と期限が空白だと当日まで転がります。ここは2つに分けて考えます。

安全に関わる判断は、制作側が単独で止められるようにしておいてください。警報が出ている中で「クライアントに確認してから」とやると、確認の間もスタッフは現場にいます。当社では、安全に関する中止は制作側の判断で確定し、事後に報告する形にしています。

企画に関わる判断は発注側が決めます。屋内に差し替えると台本のセリフが変わる、商品の使用シーンが屋外前提だった、といった場合は、仕上がりが変わることの了承が要ります。これを現場のスタッフ同士で決めると、納品後に「そんな話は聞いていない」となります。

期限は前日の夕方です。スタジオや機材のキャンセル料は前日から満額になる契約が多く、出演者の拘束も前日には確定させる必要があります。当社は前日18時に「実施」「延期」「屋内へ差し替えて実施」の3つのどれかを一言で送り、そこから先は原則として変えません。当日の朝に迷える設計にしないことが、いちばん効きます。

連絡経路も先に決めます。当日の判断はチャットではなく電話です。撮影当日の制作側は機材と移動の対応で画面を見ていません。決裁できる人の携帯番号を、双方で1つずつ交換しておいてください。

止まったときの費用は、誰の都合で止まったかで分かれる

ここがいちばん揉めます。原因を3つに分けると整理できます。

止まった理由 実務上の扱い
発注側の都合 社内承認が下りない/商品が間に合わない/出演する社員が来られない 発生済みの実費は発注側が負担。振替日の再手配も同様
制作側の都合 スタッフの手配漏れ/機材の故障/許可申請の遅れ 制作側が負担し、振替日の費用も持つ
どちらの責めでもない事由 警報級の悪天候/交通機関の停止/ロケ地側の急な閉鎖 実費の分担を契約で決めておく。決めていないと当日に交渉が始まる

法律の側から見ると、請負契約では注文者は仕事が完成しない間はいつでも解除できますが、その場合は損害を賠償する必要があります(民法641条)。また、当事者双方の責めに帰することができない事由で債務を履行できなくなったときは、債権者は反対給付の履行を拒めます(民法536条1項・e-Gov法令検索)。

ただし実務は条文の通りには動きません。天災で止まっても、スタジオのキャンセル料や機材のレンタル費は現実に発生していて、誰かが払います。だから契約書には次の3つを書いておいてください。

  1. 中止・延期の判断基準(何が出たら止めるか。警報の種類まで書く)
  2. 止まったときに発注側が負担する実費の範囲(会場・機材・出演者・移動のどれを含むか)
  3. 振替の回数と期限(何回まで無償で振替できるか、何日以内に実施するか)

契約書全体で見るべき条項は動画制作の業務委託契約書にまとめています。出演者やスタッフを個人に依頼している場合は、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)にも注意が必要です。継続的な業務委託を中途で解除するときは、原則として30日前までの予告が求められます(公正取引委員会)。当日の延期そのものではなく、案件ごと止めるときに効いてくる条文です。

天候以外で撮影が止まる3つ

雨の話ばかりしましたが、実際に撮影が飛ぶ理由の内訳は天候だけではありません。当社の現場で止まった原因は、この3つに集中しています。

出演者が来られない。体調不良は事前に読めません。社員に出てもらう案件では、繁忙期や決算期と撮影日が重なった瞬間に、業務が優先されて欠員になります。出演者の決め方と代替の考え方はショートドラマの出演者の選び方に書いています。

支給物が届かない。商品の現物が前日に届かず、そのカットだけ撮れないというケースです。1カットのために撮影日を動かすかどうかの判断になります。ショートドラマ撮影で発注側が用意するもので、支給の期限を撮影日から逆算する形にしているのはこのためです。

ロケ地が直前で使えなくなる。商業施設や店舗を借りる場合、先方の都合で撮影可能時間が縮む、別のイベントが入る、といった変更が前日に入ることがあります。場所の押さえ方はショートドラマの撮影場所を参照してください。

当社の案件では1日に複数話をまとめて撮る設計が多く、この形は費用を抑えられる代わりに、1人の欠員で当日の全話が倒れます。そのため、兼役の配置を組むときに「替えの利かない人が1話に1人だけ」になるよう分散させています。同じ人を全話の主役に置くと、撮影費は下がりますが、その1人が来られない日に何も撮れなくなります。

延期に強い撮影にする4つ

止まらないようにするのではなく、止まっても傷が浅い形にしておくほうが現実的です。

  • 予備日を契約時に1日押さえる。撮影日が決まった時点で、その翌週に候補日を1つ確保しておきます。押さえていない予備日は、必要になった時点では存在しません
  • 屋内で成立する差し替えカットを台本に入れておく。当日に屋外を諦めても、半日で撮れるものが用意されていれば人件費が無駄になりません
  • 撮る順番を、止まる可能性の高いものから並べる。屋外や店舗のカットを午前に置き、社内でいつでも撮れるカットを午後に回します。逆に組むと、午前が押した時点で屋外が飛びます
  • 公開日との間に余白を置く。撮影から公開まで中1日の設計だと、延期はそのまま公開の遅れになります。逆算の考え方はショートドラマの納期と撮影期間にまとめています

よくある質問

Q. 雨で中止した場合、キャンセル料は発注側が払うのですか?

契約書の定めによります。定めがない場合、天災のように双方の責めに帰さない事由であれば制作費そのものの請求は難しい一方、会場や機材のキャンセル料は現実に発生しています。契約前に「どちらの責めでもない事由で止まったとき、実費のどこまでを発注側が負担するか」を数字で決めておいてください。

Q. 判断は何時までに出せばいいですか?

前日の夕方までです。会場や機材のキャンセル料は前日から満額になることが多く、それ以降は止めても払う金額が変わりません。当社は前日18時を締めにしています。

Q. 少しの雨なら撮れませんか?

撮ること自体はできます。問題は、同じシーンの他のカットと画がつながらないことです。地面の濡れや空の色は編集で消せません。屋外が全体の3割以下なら差し替えて進めるのが実務的な線です。

Q. 予備日は必ず取るべきですか?

屋外のカットが1つでもあるなら取ってください。押さえるだけならスタジオ費は発生しない場合が多く、出演者の拘束も仮押さえで済みます。取っていない場合、振替は2週間から3週間先になります。

Q. 出演する社員が当日来られなくなったら、撮影は中止ですか?

その人しか出ないシーンだけを飛ばし、残りを撮る形が取れます。ただし1人が全話に出る設計だと全部止まります。撮影の前に、誰が欠けたら何が撮れなくなるかを一覧にしておくと、当日の判断が早くなります。撮影後にその社員が退職した場合の公開中の動画の扱いは、出演社員の退職と公開中の動画にまとめています。

Q. 延期のときに追加費用が出ないケースはありますか?

自社スタジオや社内での撮影で、外部に支払っているものがない場合は、日程だけを動かして実費ゼロで済むことがあります。ロケ地・機材・外部の出演者のうち1つでも外部が入っていれば、何らかの実費は出ると考えてください。

まとめ

撮影が飛ぶかどうかは運ですが、飛んだときにいくらかかって誰が決めるかは、事前に決められます。順番はこうです。

  1. 止める基準を決める(警報の種類・暑さ指数・屋外カットの割合)
  2. 誰がいつ決めるかを決める(安全は制作側・企画は発注側・締めは前日夕方)
  3. 費用の分担を契約書に書く(実費の範囲・振替の回数と期限)
  4. 予備日と屋内の差し替えカットを、撮影日が決まった時点で用意する

この4つを撮影前に1枚にしておけば、当日の朝にやることは電話を1本受けるだけになります。

当社は年間再生回数1億5,000万回を超えるアカウントの運用の中で、企画から撮影・編集までを自社で回しています。撮影の段取りやリスクの分担を含めて相談したい場合はお問い合わせください。サービスの内容はショートドラマ制作にまとめています。

参考リンク