「去年撮った動画、15秒に縮めて広告に使いたいんですが、元データありますか」。この問い合わせが来たとき、素材が残っていれば作業は半日で終わります。残っていなければ、撮り直しです。同じ出演者と同じ場所を再度押さえるところから始まるので、費用は最初の撮影とほぼ変わりません。

先に結論を書きます。撮影素材は、誰も決めなければ消えます。制作会社のパソコンとハードディスクの容量は有限で、納品が終わった案件のデータから順に整理されるからです。決めておくのは、誰が持つか・いつまで持つか・どうやって渡すかの3つだけです。契約の段階で1行入れておけば済む話が、1年後に数十万円の差になります。

これから発注する動画を後で使い回す予定がある場合は、見積の段階からお問い合わせください。納品時に受け取るファイルの中身は動画制作の納品データで受け取るもの、転用してよい範囲は制作した動画の使い回しにまとめています。この記事は、その素材が半年後も手元にあるかどうかの話です。

確認するポイント 素材の保管は、3つを契約で決める 誰が 制作会社が保管か、納品か いつまで 保管する月数 どう渡す 媒体・方法・費用負担
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契約のときに決めるのは、この3つだけ

誰が持つか

制作会社が保管するか、納品時に渡し切るか

いつまで持つか

必要な期間ではなく月数で書く

どうやって渡すか

ハードディスクかクラウド。費用の負担も一緒に

決めないと、置き場所の都合で古い案件から整理される

撮影素材について契約で決めておく3項目

素材が消えるのは、悪意ではなく容量の問題

縦型のショートドラマ1本でも、撮影の当日に生まれるファイルは完成尺の何十倍もあります。使わなかったテイク、別アングル、収録した音声、それぞれが高い解像度のまま残っているからです。1日の撮影で数百ギガバイト規模になることも珍しくありません。

制作会社はこれを案件ごとに抱えます。年に何十本も撮っていれば、保管しているだけで機材の増設が必要になります。だから、どこかの時点で古い案件から整理されます。悪意ではなく、置き場所の問題です。

発注側から見ると、ここに落とし穴があります。納品されたのは書き出し済みの完成データで、それは手元にあります。ところが「10秒だけ切り出したい」「テロップの文言を変えたい」となると、完成データからでは作業できない場合があります。編集の中身が入ったプロジェクトファイルと、そこから参照されている元の映像・音声が必要だからです。

契約のときに決める3つ

決めるのは3つで、どれも見積書か契約書に1行ずつ入れれば済みます。業務委託契約で確認する条項は動画制作の業務委託契約書にまとめていますが、素材の保管はそこに書かれていないことが多い項目です。

1つ目は、誰が持つか。 制作会社が保管するのか、納品時に発注側へ渡し切るのか。渡し切る形にすると、以後の管理責任は発注側に移ります。制作会社に置いたままにすると楽ですが、その会社との取引が終わった時点で回収できなくなります。

2つ目は、いつまで持つか。 「必要な期間」ではなく月数で書きます。撮影日から6か月、完成データは3年、というように、素材の種類ごとに分けて書く形が実務では扱いやすいです。当社は見積の段階で保管期間を明記して合意する運用にしています。期間を過ぎたものを消してよいかどうかを、後から電話で確認する手間が消えるからです。

3つ目は、どうやって渡すか。 データの量が大きいので、渡し方まで決めておかないと当日に止まります。外付けのハードディスクを送る、クラウドのストレージに置いて一定期間ダウンロードできるようにする、この2つが一般的です。ハードディスクを送る場合は、その代金と送料を誰が持つかも一緒に決めます。

受け取るなら、この5種類を分けて考える

「元データください」と伝えても、何が届くかは相手の解釈次第です。次の5つのうち、どれが要るかを指定してください。

  • 完成データ:書き出し済みの動画。SNSに上げるならこれだけで足りる
  • プロジェクトファイル:編集ソフトの作業ファイル。これが無いとテロップ1文字の修正もできない
  • 元素材:カメラから取り込んだ映像と音声。撮り直しの代わりになる唯一のもの
  • 中間素材:色調整やモーショングラフィックスの作業データ。手を入れる予定があるなら要る
  • 使用しているフォント・音源・素材のライセンス情報:後で差し替える判断に必要になる
同じ軸で比較 再編集には、編集データが効く 目的 完成版のみ 編集データあり そのまま 投稿 できる できる 尺・字幕 の変更 元の編集を 戻しにくい 編集を再開 しやすい 納品時 完成映像を確認 素材・ 環境も確認
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1年後の作業時間を決めるのはプロジェクトファイル

完成データだけ受け取った場合

そのまま投稿はできる

尺の変更・テロップ修正は不可

実質的に撮り直しから

プロジェクトファイルまで受け取った場合

15秒版の書き出しができる

テロップの文言を直せる

作業は数時間で終わる

元素材だけでは、カットの位置と順番は再現できない

受け取ったデータの種類で変わる再編集の可否

このうち、後から一番効いてくるのがプロジェクトファイルです。元素材だけを受け取っても、編集の順番やカットの位置は再現できません。1年後に15秒版を作る作業は、プロジェクトファイルがあれば数時間、無ければ実質的に作り直しです。

自社で持つなら、置き場所を2か所に分ける

受け取ったデータを担当者のパソコンに置いたままにすると、その人の異動と同時に行方が分からなくなります。運用は次の3点だけ決めておけば足ります。

  1. 保管場所を決める:共有のクラウドストレージか、社内のファイルサーバー。個人のパソコンとメールの添付は保管場所として数えない
  2. 複製を持つ:情報処理推進機構(IPA)は重要なデータについて、データを3つ持ち、2種類の異なる媒体でバックアップし、そのうち1つは別の場所で保管する「321ルール」を挙げています(IPA「日常における情報セキュリティ対策」)。撮影素材も同じ扱いでかまいません
  3. フォルダ名に日付と案件名を入れる:「動画」「素材」「最新」といった名前を付けると、3年後に中身を開くまで判別できなくなります

案件が増えてきたら、どの動画がどのフォルダに入っているかの一覧を1枚作ってください。表計算ソフトで、公開日・タイトル・URL・保管場所の4列あれば十分です。素材が消える事故の多くは、消えたのではなく見つけられないだけです。

1年後の再編集で詰まるのは、データ以外の3つ

素材が全部揃っていても、再編集できないことがあります。詰まる場所は決まっています。

音源の利用期間。 楽曲や効果音は、契約の形によって使える期間や媒体が限られます。オーガニック投稿では使えても、広告配信に転用すると条件が変わることがあります。企業アカウントで使える音源の考え方は企業アカウントで音楽が使えない理由にまとめています。

出演者の同意の範囲。 撮影のときに「自社SNSでの公開」だけを説明していた場合、その素材を広告に転用するのは範囲の外です。出演した社員が退職している場合はさらに慎重な判断が要ります(出演社員の退職と公開中の動画)。

フォントと外部素材のライセンス。 使用しているフォントの契約が切れていると、同じ見た目のテロップが再現できません。再編集の相談を受けたときに、当社が最初に確認するのはこの3つです。データの所在よりも、権利の期限で止まるほうが多いためです。

よくある質問

Q. 制作会社は元データを普通どのくらい保管していますか?

会社によって異なります。数か月で整理するところも、有償で長期保管に対応するところもあります。相場の話ではなく、その会社の運用として何か月なのかを見積時に聞いてください。

Q. 元データは無償でもらえますか?

契約の内容次第です。納品物に含まれている場合と、別途の費用がかかる場合があります。渡すこと自体を断られるケースもあるので、発注前に確認しておくのが確実です。

Q. 完成データだけ持っていれば足りませんか?

そのまま投稿し続けるなら足ります。尺を変える、テロップを直す、別の媒体向けに作り直す予定があるなら、プロジェクトファイルまで受け取ってください。

Q. クラウドに置いておけばバックアップになりますか?

1か所だけならバックアップとは言えません。誤操作で消したものは、その場所からも消えます。別の場所にもう1つ置いてください。

Q. 保管期間を過ぎた素材は、頼めば復元してもらえますか?

消した後は戻りません。期限が近づいたら通知してもらう形にするか、期限の前に自社へ引き取っておくのが現実的です。

まとめ

素材の保管は、決めておけば1行、決めなければ撮り直しです。順番はこうです。

  1. 誰が持つか、いつまで持つかを見積の段階で決める
  2. 受け取るデータの種類を、完成データ・プロジェクトファイル・元素材まで指定する
  3. 自社の保管場所を決め、複製を別の場所に置く
  4. 音源・出演者の同意・フォントの期限を、素材と一緒に記録しておく

この4つを最初に決めておくと、1年後に「あの動画を広告に使いたい」と言われた日に、答えが「できます」から始まります。

当社は年間再生回数1億5,000万回を超えるアカウントの運用の中で、企画から撮影・編集までを自社で回しています。撮影素材の扱いを含めて発注の条件から相談したい場合はお問い合わせください。サービスの内容はショートドラマ制作、これまでに制作した作品は制作実績にまとめています。

参考リンク