撮影素材を後で再編集したいなら、保管する担当者、期限、受け渡すファイルを発注前に決めます。完成動画の納品だけでは、編集の作業ファイルや元素材まで受け取れるとは限りません。保管期間を過ぎたデータの復元も保証されません。
「来年15秒版を作りたい」「字幕の商品名を変更する可能性がある」など、予定する作業を制作会社へ伝えてください。納品データの種類と動画の再利用条件を合わせて確認すると、受け取る範囲を決められます。
保管期間と削除の連絡方法を確認する
保管方針は制作会社や契約によって違います。撮影・録音の素材、編集プロジェクト、納品動画を同じ期限で整理するとは限りません。撮影日と納品日のどちらから数えるかも含め、終了日を具体的に確認してください。
保管終了前の連絡があるか、期間を延長できるか、延長や転送に費用がかかるかを同時に決めておきます。
発注側から見ると、ここに落とし穴があります。納品されたのは書き出し済みの完成データで、それは手元にあります。ところが「10秒だけ切り出したい」「テロップの文言を変えたい」となると、完成データからでは作業できない場合があります。編集の中身が入ったプロジェクトファイルと、そこから参照されている元の映像・音声が必要だからです。
契約のときに決める3つ
保管担当・期限・受け渡し方法を、対象データごとに見積書か契約書へ記載します。業務委託契約で確認する条項は動画制作の業務委託契約書にまとめていますが、素材の保管はそこに書かれていないことが多い項目です。
1つ目は、誰が持つか。 制作会社が保管するのか、納品時に発注側へ渡し切るのか。渡し切る形にすると、以後の管理責任は発注側に移ります。制作会社に置いたままにすると楽ですが、取引終了後に受け取れるか、契約と保管期限を確認する必要があります。
2つ目は、いつまで持つか。 「必要な期間」ではなく月数で書きます。記載例として「撮影素材は撮影日から6か月、完成データは納品日から3年」のように、素材の種類ごとに分けて書く形が実務では扱いやすいです。当社は見積の段階で保管期間を明記して合意する運用にしています。期間を過ぎたものを消してよいかどうかを、後から電話で確認する手間が消えるからです。
3つ目は、どうやって渡すか。 データの量が大きいので、渡し方まで決めておかないと当日に止まります。外付けのハードディスクを送る、クラウドのストレージに置いて一定期間ダウンロードできるようにする、この2つが一般的です。ハードディスクを送る場合は、その代金と送料を誰が持つかも一緒に決めます。
受け取るなら、この5種類を分けて考える
「元データください」と伝えても、何が届くかは相手の解釈次第です。次の5つのうち、どれが要るかを指定してください。
- 完成データ:書き出し済みの動画。SNSに上げるならこれだけで足りる
- プロジェクトファイル:編集ソフトの作業ファイル。字幕や編集の設定を引き継ぐために使う
- 元素材:カメラから取り込んだ映像と音声。未採用テイクを使えるか確認するために必要
- 中間素材:色調整やモーショングラフィックスの作業データ。手を入れる予定があるなら要る
- 使用しているフォント・音源・素材のライセンス情報:後で差し替える判断に必要になる
このうち、後から一番効いてくるのがプロジェクトファイルです。元素材だけを受け取っても、編集の順番やカットの位置は再現できません。後から15秒版を作る場合、プロジェクトファイルに加え、元素材、フォント、使用ソフトの対応状況を確認します。再編集に必要な時間は、残っている素材と変更内容で変わります。
自社で持つなら、置き場所を2か所に分ける
受け取ったデータを担当者のパソコンに置いたままにすると、その人の異動と同時に行方が分からなくなります。運用は次の3点だけ決めておけば足ります。
- 保管場所を決める:共有のクラウドストレージか、社内のファイルサーバー。個人のパソコンとメールの添付は保管場所として数えない
- 複製を持つ:情報処理推進機構(IPA)は重要なデータについて、データを3つ持ち、2種類の異なる媒体でバックアップし、そのうち1つは別の場所で保管する「321ルール」を挙げています(IPA「日常における情報セキュリティ対策」)。撮影素材も同じ扱いでかまいません
- フォルダ名に日付と案件名を入れる:「動画」「素材」「最新」といった名前を付けると、3年後に中身を開くまで判別できなくなります
案件が増えてきたら、どの動画がどのフォルダに入っているかの一覧を1枚作ってください。表計算ソフトで、公開日・タイトル・URL・保管場所の4列あれば十分です。保管場所を記録した後は、別の担当者でも開けるか確かめてください。
1年後の再編集で詰まるのは、データ以外の3つ
素材が全部揃っていても、再編集できないことがあります。詰まる場所は決まっています。
音源の利用期間。 楽曲や効果音は、契約の形によって使える期間や媒体が限られます。オーガニック投稿では使えても、広告配信に転用すると条件が変わることがあります。企業アカウントで使える音源の考え方は企業アカウントで音楽が使えない理由にまとめています。
出演者の同意の範囲。 撮影のときに「自社SNSでの公開」だけを説明していた場合、その素材を広告に転用するのは範囲の外です。出演した社員が退職している場合はさらに慎重な判断が要ります(出演社員の退職と公開中の動画)。
フォントと外部素材のライセンス。 フォントや外部素材は、受け取った側でも編集に使える契約かを確認します。元の制作会社のライセンスが、そのまま発注側へ移るとは限りません。ソフト名・版・必要な素材を一覧で引き継いでください。
引き継ぎ時に小さな再編集を試す
ファイルが届いたことと、再編集できることは別に確認します。完成動画を再生した後、必要な編集ソフトでプロジェクトを開き、素材のリンク切れやフォントの置き換わりがないかを見てください。
| 納品時の確認 | 残す記録 |
|---|---|
| 指定場面まで再生できる | ファイル名・版・確認日 |
| 編集プロジェクトを開ける | ソフト名・版・不足する素材 |
| 短い範囲を書き出せる | 音・字幕・色の差と修正事項 |
| 別担当者もアクセスできる | 保管場所・権限を管理する担当 |
これは再編集を予定する場合の確認例です。素材譲渡が契約に含まれていなければ、テストの前に受け渡す範囲と費用を合意してください。問題があれば保管期限が切れる前に制作会社へ返し、再確認日を決めます。
よくある質問
Q. 制作会社は元データを普通どのくらい保管していますか?
会社によって異なります。数か月で整理するところも、有償で長期保管に対応するところもあります。相場の話ではなく、その会社の運用として何か月なのかを見積時に聞いてください。
Q. 元データは無償でもらえますか?
契約の内容次第です。納品物に含まれている場合と、別途の費用がかかる場合があります。渡すこと自体を断られるケースもあるので、発注前に確認しておくのが確実です。
Q. 完成データだけ持っていれば足りませんか?
そのまま投稿し続けるなら足ります。尺を変える、テロップを直す、別の媒体向けに作り直す予定があるなら、プロジェクトファイルまで受け取ってください。
Q. クラウドに置いておけばバックアップになりますか?
クラウドの履歴保持や削除データの復元機能、同期の範囲を確認します。同じ操作で複製まで消えない構成を選び、復元できるか試してください。
Q. 保管期間を過ぎた素材は、頼めば復元してもらえますか?
復元できるかは残存データやバックアップの有無によります。復元を前提にはできません。期限が近づいたら通知してもらう形にするか、期限の前に自社へ引き取っておくのが現実的です。
保管の終了日を、担当者の予定にも残す
納品を受けたら、保管終了日と再利用の期限を案件一覧へ記入してください。担当者が変わるときは、保管場所だけでなく、延長や再編集を相談する連絡先も引き継ぎます。
当社は年間再生回数1億5,000万回を超えるアカウントの運用の中で、企画から撮影・編集までを自社で回しています。撮影素材の扱いを含めて発注の条件から相談したい場合はお問い合わせください。サービスの内容はショートドラマ制作、これまでに制作した作品は制作実績にまとめています。
参考リンク
- IPA 情報処理推進機構「日常における情報セキュリティ対策」(2026年9月9日参照)
- 文化庁「著作権制度に関する情報」(2026年9月9日参照)
- e-Gov法令検索「民法」(2026年9月9日参照)